見えざる女帝(3) 面接練習
これまでのあらすじ
【 みえざる女帝(1)】
【 みえざる女帝(2)】
※LINEのスクリーンショットは匿名化していますが、インタ君の発言は電球 or 電灯 or 黒塗りで統一しています。
※それ以外の左側の吹き出しはすべて長い夢氏、右側はすべて私です。
*
あいるの会社の同僚だとして送られてきたエロ画像は、案の定えーぶいから拾ってきたことが判明した。
どうみてもAVから持ってきた画像なのだが、その純粋さゆえに騙されてしまったインタ。しかも証拠を差し出して「あなた騙されてますよ」と伝えてもそれさえ信じていない。いくら愛しているとはいえ、追及しなければいつまで経ってもナメられたままだし、恋愛には発展しないだろう。
そこで、翌日の夜にあいるに電話し、なぜAVの画像を使ったのか迫るようにインタと約束をした。
約束の日 当日。
「夜に電話するんじゃないんかい」というツッコミはひとまず置いとこう。正直で素直なところが彼の長所なのだが、相談するばかりで連絡と報告がめちゃくちゃに雑な部分は直してもらいたい。情報を正確に伝えてもらえないと、的確なアドバイスなどできるはずもない。
文中に登場する「渋谷」という男はあいるの身近な人物のようで、「〜してくれなきゃ絶縁する」「〜してくれなきゃ渋谷さんと付き合う」などと脅しの言葉としてよく使われる。ラジコンインタの操縦機だ。
完全に盲目である。盲盲の目だ。
キャッチボール10往復分くらい褒めたあと、「それで、画像の件についてはどうなったの?」と訊くと、露骨に返信が遅くなってきた。
そこからまた5分ほど褒めた。「インタの良いところは素直なところ」「自分に正直になろう」「嘘は災いのもと。人から信用されなくなるよ」「インタが粗末に扱われるのはトモダチとして悲しいよ」。
自分で見ても宗教の勧誘かと思うくらいありえない量のガトリングをしまくったところ、インタはついに口を開いた。
「『信じられないならもう絶交する』って言われた。俺、あいるさんを信じる」
彼が盲目だからか、あるいは、生まれたときから知性がほんの少し劣っているからなのか、どうみても完全にオモチャにされているが、彼はまったく気づいていなかった。もしかしたら、女性にオモチャにされるのが快感なのかもしれない。そういう人は一定数いる。
仕事を終え、楽しみにLINEを開いた長い夢から落胆のメッセージが届く。
いま考えてみるとわりと洗脳に近いようなことをしているが、もちろん我々は彼をダマしたり不幸にさせるつもりは一切ない。インターネットは非常に便利なツールになったが、それゆえに毒にも薬にもなる。平和な田舎で育った純朴な青年インタを、女帝あいるから救いたいだけなのだ。
東京で生まれ育ち、さまざまな悪意を見てきた私の経験から言えることは、あいるはほぼ間違いなくインタを馬鹿にして遊んでいるだけで、そこには良心の欠片もないということだ。
しかし。
あいるの洗脳は我々より強力だった。
*
翌日、インタから「電話したい」と連絡があったので、長い夢、私、インタの3人はグループ通話をした。私の目的は、あいるに言葉を指定して動画を撮らせる約束をできたか確認することだ。
一番の問題はあいるが送ってきた写真が彼女本人なのかという点なので、このやり方なら間違いなく証明ができるだろう。
私 「インタ、あいるに言葉を指定した動画を送るように頼んでみたか?」
インタ 「・・・あいるさんと電話できて、よかった」
死ぬ間際のような言葉からはじまった。あいるの呪縛はすごい。
私 「そうじゃなくて、約束したか?」
インタ 「ブロックっていわれた」
私 「どういうこと?」
インタ 「信用できないならブロックしますって」
インタ 「インスタの」
私 「インタは相手の立場になって考える力を身に着けたほうがいい」
インタ 「どうすれば」
私 「インタがあいるの立場で信用してほしいなら、動画撮ればいいだけだよな?実際に写真自体は送っているわけだから、動画を送ることに問題はないよな?」
インタ 「はい」
私 「じゃあ、送れないってことは、いままで送ってきた女性があいる自身の姿ではないから、と考えるのが妥当じゃないか?」
インタ 「そうなのかな?」
私 「そうなんだよ。インタはわからないと思うけど、俺と長い夢ならわかるよ。俺たち大学出てるから」
インタ 「おれ、あいるさんを信じたい」
私 「全然伝わらんやん。びっくりするなぁ。」
女という武器を使っているとはいえ、あいるは実に巧妙で正確にインタを操縦している。このやりとりを終えてすぐにインタのインスタを見ると、彼自身がほぼ全裸になっている動画が再びいくつもアップされていた。
女帝あいるに勝ち切るには、インタの中の我々の信頼度をあいる以上のものにすることが不可欠だと気づいた。とにもかくにも、彼の現状(無職金欠スネカジリ)をどうにか解決してあげることでこの信頼度を上げられるのではないだろうか。
そう考えた我々は彼にハローワークへ行くことを勧めた。
私 「インタ、とりあえずハローワークへ行こう。そこで必要な書類を済ますのは簡単だ。問題はその次で、職員や就職活動中の面接だ」
インタ 「はい」
私 「とりあえず、インタの考える自分の長所と短所を書き出してほしい。こんなのは質問を受けてから考えていたら必ず落とされる」
インタ 「どうして?」
私 「企業はやる気ある人がほしい。面接に備えてこんなメジャーな質問への回答も用意してなかったら、やる気はまったく感じられないだろう?」
インタ 「そうですね」
私 「わかってくれたなら、いますぐバーっと書いて送ってほしい」
インタ 「今日はもう遅いので、明日か明後日に書きますね。おやすみなさい」
私 「まじか」
「もしやこいつ全然やる気ないのでは?」
私の中でこの疑問が確信に変わるまで、そう時間はかからなかった。
3日後。
私 「インタ、いますぐ長所を書いて送ってくれ。書かないなら絶交」
インタ 「絶交は嫌です。夜までに必ず書きます」
私 「わかってくれたならいいよ」
多少強引かもしれないが、彼らのようなタイプはこういった強引さでやらないと一歩前に踏み出すことができない。どこかで「嫌なことに立ち向かう自立性」を手に入れさせなければ、一生このままになってしまう。インタをあさちゃんのようにはしたくない。
その夜、といっても0時過ぎていたが、彼から長所をまとめた写真が送られてきた。
無知で申し訳ないが、私はヘブライ語はまったく読めない。
これでは先へ進めないので、すぐにスクショを撮ってライングループASA-GSOMIA(詳細はこちら)に貼り、教えを乞うことにした。
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