第13話 米朝首脳会談
あさ 「今日はフィーバーですか?」
私 「もちろんです。楽しみましょう!」
我々にとっては
「How are you?」
「I'm good ! 」
くらいの日常会話である。
*
本日のゲストを紹介しよう。
荘厳な山、ではない。
彼の名は "ひらさわ" 。
陶芸家と石並べ家の二足のわらじを履いている。
太っているように見えるかもしれないが、南海トラフ地震のために身体に緩衝材を溜めているだけである。
ひらさわ氏とあさじんは、前に一度、四人麻雀で対戦経験がある。
あさ 「ひらさわさんって、ピン東メンバーを長いことやってますし、フィーバーマイティもすぐ適応しそうなのだが」
ここで「だからなんだ?」と返してはいけない。それがOKなら介護の仕事は誰でもできる。
こういうときに便利な言葉は、接客で大切な「さしすせそ」だ。
「さ」・・・さすがです!
「し」・・・知らなかったです!
「す」・・・すてきですね!・スゴイですね!
「せ」・・・センスいいですね!
「そ」・・・そうなんですね!
今回のケースはどの選択肢がいいか?もちろん「そ」である。
私 「そうなんだ(*^◯^*)」
あさ 「はい」
なんでもよかったかもしれない。
*
あさ 「すみません。今日はお気持ちはあるんですが手持ちがないので、積載は軽めでもいいでしょうか?」
私 「しらなかったです。それじゃ1点につき5気持ちポイントにしましょう。ひらさわ先生、総額差しをしませんか?」
平沢 「わかりました」
差し馬(馬身)とは、それぞれの和了をより讃えましょうということで、スコアや着順によって「お気持ち」を多めに表明することだ。
「総額差しをしよう」という提案は、お気持ち表明のときのスコアに、差分のお気持ちをもう一度表明したいということである。
つまり、普段からお世話になっていますという意味だ。
ベースの積載が小さいので、私はひらさわ先生と2倍の総額差しをすることになった。
*
あさ 「あの・・・平沢さん、かもしんさんやたわし君は怒らないでくれたけど、ひらさわさんは耐えられるかどうか・・・」
平沢 「なににですか?」
私 「あ~、 "もうひとりのボク" ってやつだよ~」
あさ 「フィーバーになると、制御できないんです」
私 「とりあえず、出アガりしたときに牌を指差すのと、天を指差すのをやめるとこから始めましょうか」
あさ 「そんなことしませんよww」
私 「さすがです」
彼は相手の意見をなんでも否定する癖がついてしまっている。認めていただくには証拠を提出するしかない。
私 「次にあさじんさんがトリップしたら動画を撮るから、それ見てみなよ」
あさ 「わかりました」
動画の撮影が解禁された。
平沢 「じゃあ、フィーバー」
話の途中だがショーグンから弾道ミサイルが発射された。彼の必殺技、テポドンである。
平沢 「カンサヘョ〜(ありがとう)」
戦争がはじまった。
*
その数十分後。
「あっ!!あーーーー!!あーーっ!!・・・あっ!あああああああ・・・・」
あさじんがモールス信号を送信し始めた。統計的に120%の確率でフィーバーリーチが放たれる。
あさ 「Fiver!」
今度は”アメリカ・ファースト” である。
私 「ねえねえ、いま天を指差してるよ」
あさ 「・・・え?!あっ!!!!おかしいなぁ・・・」
彼は天を指差す自分の手をまじまじと見つめて本気で驚いている。
おかしいのはお前の頭だ、と前歯あたりまで出かかったがすぐに思い直し、(将軍に対抗して、こんなパフォーマンスもできるようになったのか)と感動した。本当に気配りができる人だ。
あさ 「と、とにかくフィーバーだから・・・まちはこの辺とこの辺」
4sと8pの周りをぐるぐると指差し回していた。彼が~ソウ、~ピンと言えないので、口頭形式は廃止されたのだ。
私 「すごいですね」
あさじんの打った大陸間弾道ミサイルはとても広い待ちだ。高目は四暗刻である。
あさ「ん?」
あさ 「ほわあああああああああああああ!!!!!!!」
一発でマイティ牌を引き、得意の親指強打で叩きつけた。
私は、『燃えよドラゴン』でオハラを圧倒したブルース・リーがフラッシュバックした。子供の頃から憧れていたスーパースターを前にして、私は大変感動した。
あさ 「ツォォ!ツオです!!ううううう・・・」
平沢 「彼はどうして泣いてるの?」
私 「考えるな。感じるんだ」
本当に少しこわくなったので、私は何も考えないことにした。
*
■お気持ち表明
私は日本代表として大国と戦ったが、なす術なくやられてしまった。
あさじんさんへ1000気持ちポイントを、偉大なる最高指導者に57000気持ちポイントを表明することになった。
平沢 「いやあ、今日は楽しかったですよ。トリップも見れましたし」
あさ 「そうですか笑」
なにわろてんねんと思ったが、疲れているのだろう。仕方のないことだ。
あさ 「いやあ、やっぱり噂通り強かったです。もしよかったらまたお願いします」
私は(お世辞も言えるようになったのか)と介護士としてのある種の達成感に満たされていた。
その夜。
LINEで「センスいいですね」と送っておいた。
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【 第14話 雑誌掲載 前編 】