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ミルク拒否、離乳食拒否の試練

2023年6月に待望の第2子が生まれた。
嬉しくて、可愛くてたまらなかった。
妊娠中はスポーツができる子がいいなとか、頭がいい子に育てたいなとか色々思っていたけどいざ赤ちゃんと対面すると、そんな願いはどうでもよくなった。
この先はとにかく健康に元気に育ってくれたら何も望まない。
そう思っていた。

産後2日目から授乳が始まった。
一人目の時は完母で育てたが、なかなか体重が増えず苦労したので第2子は完全ミルクで育てると決めていた。
ここからが怒涛の日々の始まりだった。

まずミルクを飲んでくれない。
吸ってくれない。
助産師さんには「少し小さめに生まれたからまだ吸う力がついてないのかな」と言われたが、あまりにも飲まない我が子を見て私はかなり焦った。

ネットで「生後○日 ミルクの量」と調べる度に落ち込んだ。
同じ日に生んだ人が「80ml飲みました〜」なんて雑談している声が聞こえてきたら焦って正気でいられなくなった。
我が子はその半分も飲めていない。

日が経つにつれて飲めるようになるかと期待したが、見事に期待を裏切られた。
生後何日も経つのに、子の飲む量は一向に増えていかない。
ミルク缶に書いてある「生後○ヶ月 ○ml」の数字が私を苦しめる。
私はだんだんとノイローゼ気味になっていった。

夜は不安で寝られなくなり、食欲もなくなり、産後1ヶ月も経たないうちに8kg痩せた。
3時間ごとの授乳で毎回1時間はミルクを飲ませるのに格闘する。
授乳中、少しでも物音がすると気が散って飲まなくなる。
上の子には別室で動画を見せて静かにしてもらい、一切物音を立てぬよう全集中して授乳する。
ものすごく神経を使った。
そしてそれが終われば上の子のお世話が待っている。

夜中は毎日寝不足の中、起きてミルクをあげる。
半分くらいは飲んだかなと思ったが10mlしか減っておらず絶望する。
そんなことが繰り返されたある日。

「いい加減にしてよ!!!!!!!!」
まだ新生児の息子相手にキレて怒鳴ってしまった。
ミルクがたっぷり入った哺乳瓶を投げて割った。
旦那が何事かと飛び起きてきた。
私は涙が止まらなかった。

誰かに助けてほしい。
だけど誰にも頼れない。
ミルクは私があげなきゃ。
私じゃないと飲まない。
そんな思いが頭の中を支配した。

子どもの1ヶ月健診では見事に引っかかった。
子は順調だった。
「お母さんが心配。」
そう言われて心療内科を紹介してもらった。

後日受診すると「産後うつ」と診断された。
大量に薬が出された。
おかげで夜は眠れるようになった。
だけどやっぱりミルク拒否は変わらない。
薬を飲みながらギリギリの状態で育児をしていた。

とにかくミルクを飲んで欲しくて色々試行錯誤した。
数えきれないくらいミルクのメーカーと哺乳瓶を変えた。
家には使わなかった大量の哺乳瓶が今でも棚の中に眠っている。

色々試す中でようやく少しは飲んでくれる方法が見つかった。
子をスリングに入れて、バランスボールに私が乗り、バウンドしながらミルクをあげる方法。
側から見たら滑稽な授乳方法だが、唯一これなら飲んでくれた。

そんなふうにミルクと格闘すること数ヶ月。
今度は離乳食が始まった。
なんとなく分かっていたが、これまたなかなか食べてくれない。
我が子はとことん飲食に興味がないんだなと現実を突きつけられた。

毎日食事の時は、動画を見せながら騙し騙し口に運ぶ。
メニューはいつも同じ。食べてくれるものだけ並べる。

しかしある日突然、一口も食べてくれなくなった。
そしてミルクも飲まなくなった。
いくら動画を見せても効かない。
スプーンを見ただけで泣いて嫌がる。
食事もミルクもゼロ。
私は発狂した。

どうにかしなければと思い、ネットで必死になって調べていると「偏食外来」というものがあることを知った。
遠方だったがオンラインでも診察してくれる。
藁にもすがるような気持ちで受診した。

偏食外来では完全手づかみ食べを推奨された。
動画もなし、きちんと椅子に座らせる、親も一緒に食べる、食事を楽しい場にさせる等。
今まで動画で気を引きながら無理やりスプーンで食べさせていたので、今までの食事形態・環境を180度変えなければいけない。
何より食事が楽しい場になるようにと。
今まで食事になるとイライラして時には怒鳴りながらあげていた私にとって、一番できていないことだった。

そして体重にはこだわるなと。
私はこれまでずっと体重に固執してきた。
体重が増えたり減ったりすることで一喜一憂した。
手づかみ食べをさせることで体重は1キロくらい減るかもしれない。
それでも信じてやってみること。必ず変わるから。
そう言われた。

「体重が減る」
その言葉が引っかかって、私は言われたことをすぐにはできなかった。
今まで一番こだわってきた子どもの体重。
それを手放す覚悟ができなかった。
しかし日に日に子が食べる量は減っていく。
食べられるものもどんどん少なくなっていく。
もちろんミルクも飲まない。
このままではまずいと思った。

私はほぼ毎日測っていた体重計を思い切って捨てた。
偏食外来を受診してから2週間経ってようやく覚悟が決まった。

今は手づかみ食べを始めてまだ日は浅いが、なんとか頑張っている最中だ。
用意したけど口に入れることはなくポイポイ投げ捨てられる。
「昼ごはん 0口」なんてザラだ。
その度に「あぁ今日の摂取カロリー足りないな。」「また体重が減ってしまう。」と強迫観念に駆られる。
抱っこした時に「なんか軽くなったな。痩せたかな。」と毎回体重のことが頭によぎる。
体重計を捨てたといえ、まだまだ体重に固執している自分に気付いて落ち込む。

何をしていてもずっとご飯のことが頭にある。
それはこの子が生まれた時からずっと。
次のミルクの時間、次のご飯の時間。
やりたくないな、食べなかったらどうしよう、しんどいなあという気持ち。

今日も昼ごはんやりたくないなと暗い気持ちで子どもと散歩していた。
ぼーっとしながらベビーカーを押していた時。
突然のことだった。

「ワンワン!」

子がすれ違った犬を指さして言った。
びっくりして立ち止まった。
喋った・・・?
はっきり単語を喋るのは初めてだった。
「ワンワンいたねえ」「ワンワン分かるの?」
もうとっくに犬はいなくなったのに何度も聞き返してしまった。
嬉しくて仕方なかった。

あぁそういえば私、子どもの体重のことばっかりで子どもができることに全然目を向けてなかったな。
今まで子どもの成長に素直に喜んだことがなかった。
それよりも自分の不安を拭うことばかり考えてた。
私が一人で悩んだり落ち込んだりしている間にも、子どもの心はしっかり成長していた。
大事なことにずっと気づかずにいた。
涙が止まらなかった。
泣きながらベビーカーを押した。

きっとこれから先も食べた、食べないで一喜一憂してしまうことはあると思う。
だけど子どもなりにゆっくり成長していること。
体だけじゃない。
成長は目に見えることだけじゃない。
彼なりに心はしっかり成長してること。
忘れないでおきたいと思う。







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