あなたの人生の物語 ― 別な道を歩めたんだろうか
もしじぶんが東大に入っていたらどんな人生だったんだろう?って思ったことがあります。
付き合いも仕事もパートナーもずいぶん違ったと思う。
生まれや出会いや条件がほんの少し違っただけで、あなたの人生も大きく違って行ったでしょう。
だから、途中でその先の人生をガラリ変えることは確かに出来る。
でも、歩む人生が違って行っても、しあわせというのはどこそこ大学を出たとか出なかったということで決まるとはわたしには思えない。
つまり、どのような道を歩もうと、どのように変えようと、
あなたが感じるしあわせというものは一貫して通奏低音のように内に流れているものだと言いたい。
引用ばかりの、長い文章です。すみません。
1.2つのストーリー
グラント研究という研究がありました。
研究主幹のWaldinger教授の元に通院していたある男性がいました。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療のためでしたが、その研究プロジェクトの被験者の一人でもあったのです。
彼は、親から暴行を受けつらい体験をして心に深い傷を負っていた。
けれど、彼自身はすごく心が優しく思いやりのある人間だったのです。
不思議に思った教授は彼に尋ねた。
「どうして、いろんなつらい経験がありながら、そんなに優しい人になれたのですか?誰があなたに優しさを教えたのですか?」。
その問いに、本人もすっかり忘れていたある記憶がよみがえった。
「。。。僕は、目を腫らしてベッドに横たわっていました。
母親にひどく殴られ、顔に大けがをし、病院に担ぎ込まれたんです。
家族に見つからないように偽名で入院しました。
そんな僕を、ある親切な看護師の女性が優しくいたわってくれた。
彼女は、一晩中僕の手を握り、水に浸した布を何度も取り換えながら、腫れた目を冷やし続けてくれた。
僕は、その看護師から優しさを学び愛を知ったんです。。。」
Waldinger教授は、アルコール依存症の人たちもずっと研究していました。
「ついに愛を知らずに年老いていく人たちもいました。
ある資産家の息子は、アルコール依存症で、結婚を3度していた。
3人目の妻は彼を心から愛して彼に尽くしていましたが、その男性は妻の愛を受け入れることができず、逆に、妻にひどい仕打ちを続けたのです。
看護師の献身に愛を知った男性とは対照的な、惨めな人生と言っていいと思います。」
惨めな人生・・。
わたしたちは、人生を振り返りそこにストーリーを見る。
良い人生なら恵まれた境遇だったからだと、悪い人生なら不遇だったからだと原因を探す。
資産家の家に生まれたのに惨めな人生になったというのなら、貧乏人はどんなに救われないことになるんでしょう。
でも、わたしは、外部要因のせいにします。
だから、すこしでも良さそうな(評判の、人の言う)選択をしようとする。
でも、これって人生に対する責任放棄かもしれない。
幸福は、じつはわたしたちが思っている前提にはいない。
それは、わたしたちが責任を持って唯一、選び取ることのできるものかもしれません。
2.ハーバードに入れたなら
バラク・オバマを含む8人のアメリカ大統領と、100名以上のノーベル賞受賞者を輩出している名門校ってあるんです。
ハーバード大学。
東京大学と同じ偏差値80以上といっても、ハーバード大学はペーパーテストだけで合格できるわけではなくて、願書や作文、推薦書、面接いっぱいあります。
東大の合格率が35%だった年の、ハーバード大学のそれはわずか5%と合格率にかなりの差がありました。
すごいのは、なんてったって学費です。年間1000万円ほど。
授業料、寮費や食費、保険料も込みの額で高額です。
たいがいのサラリーマンの年収を上回る。 4年で総額4000万円。
このとんでもなくお高い私立大学では、給付型の奨学金制度も充実している。
なので、7割の学生は何らかの給付型奨学金を受け取ってる。
ですが、いずれにしろ、裕福な家庭の子弟が通い易い。
ここに入れる子は、頭脳ともどもリッチな血筋に生まれてる。
ここに入れたら、さぞ凄そうな幸せストーリーが始まりそうです。
とうぜん、本人も自分が“上級国民”となることを期待する。
ぱっとしないサラリーマンで終わりました、なんていうストーリーに我慢できるはずもない。
なにせ、初期投資に4000万円もかけてるんですから。
きっと、わたしが世界のハーバードを出たなら、穏やかな妻がそばにいてくれることだけでしあわせだぁと感じる人間にはなっていなかった。
3.グラント研究
むかしむかし、いくつかのデパートを所有していたグラントという人がいました。お金持ちですね。
自分の会社の管理職には優秀な人を採用したかった。
で、グラントさん、ハーバード大学に研究を委託した。
いったい人の幸福度は、生まれや学歴、環境に依存するんだろうかと。
そして、この「ハーバード成人発達研究」は75年以上にわたり実行された。
2つのグループにおける心と体の健康を追跡しました。
対象となったグループは、ボストンで育った貧しい男性456人(グラント研究)と、ハーバード大学を卒業した男性268人(グリュック研究)でした。
第二次世界大戦以前から始まりました。
研究チームは血液サンプルをコツコツ分析し、脳スキャン技術が登場したらそれを導入し、アンケート回答を丹念に読み込み、被験者とまめに面談し、調査結果をまとめてきた。
がんばった。で、結果はどうだったのか?
ハーバード成人発達研究のディレクターを務めるWaldinger教授によると、重要性においてあるひとつのことがほかのすべてに勝っていた、というのです。
「75年間におよぶこの研究が明確に示しているポイントは、”良い人間関係”が私たちの幸福と健康を高めてくれるということです。
これが結論です。」
一流企業の幹部にまでなったとか、すごい成果を出して業界やメディアでも有名だとか、神の手といわれる高名な外科医だとか・・
ノーベル賞を受賞したとか、本が売れたとか、老後の資金がいくら積み立てられているかとか、総理大臣になったとかとか・・。
ブログ記事を何本書いたとか、フォロワーを何万人獲得したとか・・
それらは、あなたの幸福と健康に貢献しない、というのです。
ひとに幸福や人生の豊かさをもたらしてくれる最大の要因は、「良い人間関係」に尽きるという。
なぜかっていうと、もしあなたのそばに頼れる人がいれば、あなたの神経系は緊張から解放されます。臓器や脳の健康が保たれる期間が長くなる。
心と体の苦痛が和らげられるというような効果があることを、この研究は明らかにしました。
いっぽう、孤独を感じている人は、肉体的な健康が早くに衰え、短命である傾向が強いこともこの研究は明確に示した。(日本の独身男性の寿命が異常に短いのとよく一致しています)
でも、「良い人間関係」を明確に意識して生きている人は多いんでしょうか?
学校や塾で、愛の話は出ない??
わたしは、お金や地位やページビューを気にしている?
「大切なのは、友人の数ではありません。交際相手がいるかどうかでもありません」と教授はいいます。
「身近にいる人たちとの人間関係の質なのです」。
あなたは、パートナーや子と良好な関係であると言えるかという問いでもあります。
もちろん、胸張ってYesと言える人は少ないかもしれない。
それを明確に意識して夫はごくごく少ないでしょう。
わたしは、Yesと言いたいのですが、かのじょがわたしとのことを”良い関係だ”と捉えているかに自信はない。
でも、わたしには、妻しかいない。
おお、、たった一人でもいいの?
いつも会えなくとも、いやもう生涯会うことがなくともよい?
あなたのこころに住み、思い出すたびにいつも暖かな眼差しをあなたに向けてくれる者でもいいということになります。
4.あの畜生は今
読んで涙した記事があります。
京アニ放火殺人事件容疑者に主治医・上田敬博が伝えたことと題されたものでした。
36人もの命を奪った、京都アニメーション放火殺人事件です。
この記事を読むと、主治医・上田さんが必死に殺人犯を支えてゆく経過を通じて、なぜ犯人が自暴自棄になったのか、そして今犯人が何を思っているかがうかがわれます。
あまりにも切ない物語。
主治医は、殺人犯の青葉に詰め寄りました。
どうせ人を殺してしまったのだからおれは死刑になるんだとうそぶく殺人犯にいいました。
『悪いことをやったという自覚があるんやったら、まずは自分がやった行為と向き合え。
それから罪を償え、そのためにおまえを助ける。
主治医である自分をしっかり見ろ。
俺はおまえに向き合う。絶対に逃げるな、もう逃げられへんぞ』。
主治医は、皮膚の9割を失いいつ死んでしまうかもわからなかった青葉を延々と壮絶な手術を繰り替えし回復させます。
犯人の青葉は、自分は「低の低」の人間で、生きている価値がないと投げやりでした。
主治医は言ってました。
「彼は家庭的なネグレクトもあって、勉強ができなかった。
それでも定時制高校を卒業して派遣の仕事についた。それがリーマン・ショックで突然解雇になった。
それで、昔から好きだった小説のようなものを2年間かけて書いて応募した。しかし、はねられた。
そのとき、食べていく術(すべ)がなくなったと感じたそうです。
後から自分が書いたものと同じような内容の作品が出たと思い込んで、カッとなって事件を起こした。稚拙(ちせつ)なんです。
ただ、誰かが奴の話を聞いてやれば、思いとどまったかもしれないと思いました」。
青葉は、やがて病院で自分が厄介者扱いされていることに気づきます。
その青葉を上田さんは守った。
そして上田さんに青葉は、自分みたいな人間を治療してもなんのプラスにもならない、なぜ自分を守ってくれるのかと聞いた。
上田さんはこう答えます。
「目の前にいる患者を助けるのが僕らの仕事だ。バックグラウンドは関係ない。犯罪者でも政治家でも一緒や」
取り調べに堪えられる状態となり、青葉は近大付属の病院から京都第一赤十字病院に戻ります。
別れ際、上田さんは「おまえ、生きている価値がないって言っていたけど、俺と4ヵ月接して少しは考えが変わったか」と問うた。
で、青葉はこう返した。
「変わらざるをえなかった。こんな『低の低』の自分にぶつかってくれる人が赤の他人でもいるんだって」 。
人がひとを信じた。厳かな、そして胸の詰まるような切なさがそこにあります。
主治医は治療が終わった現在でも不眠症に悩まされています。主治医にとってもたいへんなプレッシャーだった。
青葉のじんせいとは、なにもかもが壮絶なストーリーでした。
しかし、たったひとりでも、信じられる存在が人を変えてしまう。
たとえ死刑しか先になくとも、しあわせ?というのはありうるということです。
しあわせとは多幸感、満足感という意味ではないのです。
そのたったひとりに出会うためにわたしたちはここに来たのかもしれないとまで思ってしまうほどの安堵感、いや諦めでしょうか。
ああ、ここに来た意味がわかった、、という感覚でしょう。
もちろん、殺された36人とその遺族たちは今でも無念でしょう。ぜったいに許せない。
犯人も許してもらおうとも、許してもらえるともおもってない。
でも、彼は、いまだに投げやりで人のせいにばかりにしてます。
稚拙なままの人生を語り続けている。
でも、この青葉の人生のストーリーの最後のさいごで、彼は信頼できる人間に出会ったのです。
今の青葉は、死刑になるからといって不幸せではないかもしれない。
やったことの罪は償うけれど(一人分じゃ償いきれないけれど)、
たったひとりの存在によって、全て惨だった、言い訳にばかりの人生から救われるということもありえるのです。
これは大逆転かもしれないと思いました。
おかした罪も死刑も変わらないとしても、大逆転だって。
5.あなたの人生の物語
大切なのは「人間関係の質」だということは、「人間関係の深さ」と言い換えてもいいでしょう。
お互いが手を結び、お互いがいっしょにいてどれくらい安心できるか?
どれだけ本当の自分を見せられるか?
”わたし”とは、外の社会的な関係で安堵する存在ではなく、唯一、あなたとの関係で満たされる生き物です。
人生の困難に打ち勝つことができる人は、愛することを自ら知ることができた人、あるいは、愛することを身をもって教えてくれる人を見つけられた人だとWaldinger教授は言います。
「愛は、学ぶものではありません。自分を愛してくれる人から吸収するものです。
私自身、これまで多くの人々の人生のストーリーを検証してきましたが、そのストーリーから愛を学んだわけではありません。
私を愛してくれたすべての人たちから、愛とは何かを直接伝えてもらったのです。」
教授はこう付け加えました。
「もちろん人間関係というのは、乱雑で複雑なものです。けれどもその一方で、研究に基づいてこう結論できるでしょう。
良い人生は良い人間関係からできているのです。」
https://www.lifehacker.jp/2017/03/170309_science_of_good_life.html
幸福な人生はどうしたら手に入るのかに、このハーバードの研究は答えていました。
どのようなあなたの環境においても、絶対に信頼できる人がいるかということに尽きる。
その人のことを想像すると、胸が暖かくなる。
滅多に会えなくとも、いいえ、もう生涯会うことは叶わなくとも。
あなたが感じるしあわせの源泉は、一貫して通奏低音のようにこころに流れているものということになるでしょう。
その感覚が、あなたを愛から遠ざかることなく向き合う励ましと勇気を与えると言うのです。