「ファンダムの暴走」
K-POP界を騒然とさせている、
RIIZEのスンハン脱退事件。
スンハンさんはRIIZEのメンバーとしてデビューしたものの、デビュー同時に複数のスキャンダル(キス写真流出、路上喫煙など)で活動を休止。
そのまま10ヶ月経って、復帰を発表。
すると抗議が殺到。
SMエンタの社屋の前に抗議の花が千個並ぶ事態に。
花が並ぶ光景はよく見るが、1000台は多すぎる。
(シュガ飲酒運転騒動のとき30台)
そして復帰発表からわずか2日で脱退発表。
それで今度は、
「メンバーを脱退にまで追い込んだファンダム」
としてRIIZEのファンダム(BRIIZE)が炎上している状況だ。
今回、スンハン復帰に猛抗議していた人たち、
特にお金を出して花まで並べていた人たちは、
RIIZEのアンチではなくファン(BRIIZE)である。
だからこそスンハンさんとSMエンタにとって事態は深刻で、2日での脱退発表という流れからしても、本人と会社の両方が「脱退」という選択にすんなり同意したと考えられる。
スンハンさんの立場では、自分が炎上するだけならまだしも、チームのファンに歓迎されず、仲間に迷惑をかけながら復帰するというのは精神的にかなりキツいし、チームのために脱退を選択せざるをえないという心境に追い込まれたのだろう。
(前にもそんなことがあったね。)
ただ今回の件は、校内暴力のように被害者がいる事件でもなく、小粒スキャンダルが複数出てきてイメージが低下したに過ぎない。
スキャンダルだけでみれば、どう考えても脱退には至らないレベル。だからこそ流出時も脱退にはならず、活動休止という措置だった。
それなのに10ヶ月もの活動休止(=禊)を経て、いざ復帰しようという段階での「脱退」なので異様に映る。
これに関してはSMエンタが悪いとは言わないが、ちょっと判断ミスだったとは思う。
デビューからほとんど活動もせず、10ヶ月も活動休止すれば、それは最初からグループにいなかったのと同じだ。
Red Velvetのアイリーンも同じくらいの期間を謹慎したことがあるが、彼女の場合はデビュー7年目で、すでについたファンがたくさんいた。
抗議した人々は口では
「素行が悪いスンハンの復帰に反対」
とスンハンが悪いかのように言うが、実際はスンハンが悪いかどうかはあまり関係ない。
ただ、彼らは「6人のRIIZE」を見て応援してきたので、それが壊されるのが嫌だっただけだ。
人は自分が見てきたものが全てだから。
今回の状況でスンハンさんは「ちょっと評判の悪い追加メンバー」みたいなものだった。
スキャンダル流出当時に、1ヶ月くらいの活動休止で復帰させておけば。
せめて6月のカムバックから参加させておけば。
その時は炎上したはずだが、いずれ炎上は収まり、ファンが増えるにつれて「RIIZEは7人」と認める人が増えていっただろう。
結局は「大衆の前にいたか、どうか」が全て。
この10ヶ月間、RIIZEの6人は大衆の前で努力して成長し、スンハンさんは大衆の目に触れるところにはいなかった。
そこでスンハンさんがどんなに真面目に生活しようとも、毎日練習しようとも関係ない。大衆が見ていないので、遊んでいたのと同じだ。
そういう大衆心理を理解し尽くしているSMエンタが、なぜ10ヶ月も謹慎させたのか。
本人の精神状態に配慮したのかもしれないが。
SMエンタはスンハンさんを復帰させるつもりなら、もう少し早く復帰させなければならなかったと思う。
葬儀用の花を並べるというのは韓国独特の抗議文化で、上述のスジン炎上のときもCUBEの前に花が並んでいたし、最近だとシュガさんの飲酒運転騒動でもHYBEの前に花が並んだ。
「ただのイジメだ」という指摘は分からなくもないが、彼らは面白がってやっているわけではなく、あくまで会社への抗議としてやっている。
「6人のRIIZE」を守りたい、という正義感でやっていると思われる。
スンハンが嫌いだからよりも、RIIZEが好きだから。
6人が好きだから。
だからこそあそこまで暴走できるのである。
もちろんスンハンが復帰してもしなくても「どっちでもいい」というファンもいるだろうが、そういうファンは熱狂的ではないので、金払いも良くない。
会社も、3千万円もかけて花を並べるファンの方が、そうではない温和なファンよりも金払いが良いことを知っている。
だからこそデモトラックや花は会社の決定を動かす力を持っている。
今回は推測だが、
まずスンハンさん自身が「やめます」と言って、会社も強く引き留めることはしなかったのではないだろうか。もちろんファンの反応を見て、である。
あるいは会社側が「やめますか」と打診して、スンハンさんが受け入れた可能性もある。
いずれにしろこのスピード感は、スンハンさん本人と会社の双方がすんなり脱退を受け入れたということである。
私はRIIZEのファンではないし、スンハンさんのファンでもなく、自分の興味範囲ではないグループに対しては大して感情を持たないので、
スンハンさんの復帰ニュースも「そうかー」だし、
脱退ニュースも「そうかー」で、特に悲しいとかはない。驚きはあった。
むしろ、ここで極端な行動に出ず、「脱退」という選択をしたことは冷静だとすら思う。
RIIZEじゃなくなっても、アイドルじゃなくなっても、人生は続いていく。
長年の練習生としての努力や、10ヶ月の謹慎が、理想的な形で報われなかったことは残念だとは思うが、まあ生きていればそういうこともある。
意気揚々と抗議していた人たちも、スンハンさんがいざ脱退したと聞いて少なからずショックを受けているだろうし、そういう気持ちをごまかすために、またスンハンさんの悪口を言って気持ちを上塗りしているかもしれない。
また今回の事件で、
「K-POP界の暗部」「韓国で自殺率が高い理由」
みたいに騒いでいる人がいるが、韓国だけかな?
とにかく気分を害されたので大騒ぎするが、
自分が怒っている理由もきちんと説明できず、
怒りを自分の問題と省みることはなく、
正義感というエンジンで暴走するのは韓国人だけかな?
私は少なくとも日本に住んでいて、日本人はそうではないと思ったことがない。
英語圏の海外ドラマにハマっていたときの、欧米の視聴者の騒ぎ方も凄まじかった。
気にくわないことがあれば大量の抗議文、ハッキング、殺害予告。
ファンダム同士の罵り合いも凄まじい。
K-POPファンが可愛く見えてくるレベルである。
おそらく大衆はどこの国もそんなものである。
大衆は楽な方に流れる。
他人のふんどしで喧嘩をするのが大好きだ。
大衆を相手に商売するとはそういうこと。
しかしまあ最近のアイドル業界はそういう大衆心理を利用して金稼ぎをしているのだから、ちょっと危なっかしすぎる部分はある。
企業はファンダム名を与えることで、ファンのアイデンティティに侵入する。
アイドルの成功をファンの成功であるかのように錯覚させる。
ファンダムという社会を作ることで、中にいるファン同士を競わせ、お金を使わせる。
ファンは自分が欲しいものを買うだけでなく、ファンとしての倫理的条件を満たすため、自尊心を満たすためにお金を使う。
(これがとても楽しいことを私はよく知っている)
ファンにとってアイドルはプライドであり、自分の顔である。
SNSアイコンにアイドルの顔を使う人が多いことからも明らか。
「推し」は自分のアイデンティティを構成する要素となっている。
だから彼らが自分にとって理想的でない行動を取ると失望する。
企業側がそういう構造に乗っかり、商売している。
じゃあ、そんな構造をやめるべき!
と思うかというと、うーん。
その中にいる以上、完全に否定するのは難しい。
K-POPがそれをやめても、お金になる限り、別の業界が模倣するだけだろう。
もちろん、その構造を見つめ直す自浄や倫理基準の構築をする頃合いではないか、とは思う。
それは全員がやらなくてはならない。
まず大手事務所でありK-POPに強い影響力を持つSMエンタ、JYP、YG、HYBE。続いて全ての事務所。
消費者としてのファンたち。
そしてアイドル本人たちにも責任はある。
私からすると、アイドル本人だってその構造に乗っかり再生産する主体である。
それが悪いとは言わないが。
彼らの責任を無視することは、彼らの人格を無視することだ。
何か起こったときに、アイドルは無実だという人ほど、アイドルを一人の人間として見ていないようだ。
まあ、アイデンティティの要素としか思っていないんだろう。
「アイドルに罪はない」という言葉は、
「私に罪はない」という自己弁護の一種である。
彼らは自分で選択し、自分の意思でそこにいる。
おそらくK-POPの構造も理解してそこに立っている。
もちろん、少なくないケースで、年齢的にあまりにも若く、意思決定の主体となるには幼すぎる人もいる。
私はそういう人はデビューさせるべきじゃないと思う。
デビュー年齢を18歳以上に限定しても、今やっていることは十分にできるはずだ。
少し本題から外れてしまったが。
たぶんスンハンさんも、
今頃はメンタルが落ち込んで大変なことになっているかもしれないが、
いずれ回復するときが来るだろうし、
理不尽を経験したことで、良き表現者として帰ってくるのではないだろうか?
花を並べていた人たちも、「私が大好きな6人のRIIZE」が壊されるのが嫌だっただけで、スンハンさんが別の場所で活躍することは邪魔してこないだろうし。
ただSMエンタは、
大衆心理を利用するならするで、もう少し上手くやれなかったものかな…