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◆怖い体験 備忘録/第30話 先生の予言

死者から何らかのメッセージを受け取り、わたしたちに伝えてくださるお力を持ったY先生。
一番霊障のようなものに悩まされたあの頃、もし先生がおられなかったらと思うと本当にゾッとしますね。
先生はもう亡くなられて久しいですが、今でもあのお堂があったところへ曲がる道を通るたびに、先生のことを思い出します。

先生がいなくなってから、奥さまだけが残されてしまったあのお堂は、今はもう誰もいないのだと人の噂で聞きました。
先生がご健在の頃は、後任に同じ宗派のK先生と仰られる方が来られるのでは…と噂されていたのですが、K先生は日頃から「ぼくには、Y先生のような霊感はないですよ」と潔く仰られていたので、もしかするとY先生の代わりのような形であのお堂に住まわれることに躊躇があったのかも知れません。
しかし、あの鬱蒼とした、何とも言えない霊気が凝縮されたようなお寺…
誰も居なくなって大丈夫なのかなぁ…と時折心配にはなりますが…
君子危うきに近寄らず、ですね。
※Y先生にまつわるお話の始まりはコチラから↓↓↓

さて、Y先生とのエピソードもだいぶ残り少なくなってきましたが、今回は妹が体験した不思議なお話をお届けしたいと思います。

あれは、前話でご紹介した大祭の日だったかと思います。
春か秋かは忘れましたが……ともかく、その大祭の日は、一般参加者が火渡りの儀をおこなったあと、順番に並んで先生の前に立ってお祓いをして頂く時間がありました。

その頃には、Y先生はもうだいぶお年を召されていて、足腰もかなり弱っておられました。
前年まではご自分の足で山頂のお堂まで登られていたのですが、その年はもうそれが不可能になり、御輿のようなもので山頂に運ばれていました。
降りてこられてからのお祓いも、前年まではしっかりと大地を踏みしめ、木剣を振り回しながらされていたのですが、その年は椅子に腰を降ろしてのんびりと、という風情だったように記憶しています。

ただ、その霊力のようなものはあまり衰えているようには見えませんでした。
相変わらず、わたしたちの前の順番だった人たちにも何かしらのアドバイスをされ、時間は過ぎていきます。
そして、とうとうわたしたちのお祓いの番が来ました。

わたしは、特に何も言われることなく儀礼的にお祓いを受けて先生の前を通過したのですが、妹がその後ろに続こうとしたとき、不意に先生が「待て」と仰られました。
足を止めた妹は大人しく先生の前に立ち、首を傾げています。
うーん、と唸った先生は非常に厳しい顔つきで木剣を翳し、それを何度か妹の体の前で上下に往復させました。

こういう時の先生は、多分この世ならざる何か…もしくは、この世ならざる何かや、人知を超えた何者かからのメッセージを受信していたのではないかと思います。
遠くを見ているような…何かを見据えているような…そんな不思議な眼差しで妹の周りをじろじろ見回していたかと思うと、先生は急にピタリと木剣を妹のおなかの前で止め、切っ先を向けました。
そして、こう言ったのです。

「うん。ここに、何かおる。あんた、しばらくはおなかに気をつけなさい」

はい、と返事はしたものの、その当時の妹の体調は絶好調だったと言います。
まったく思い当たる節も気配もないまま、わたしたちはその年の大祭会場を後にしました。
何だか解んないけど、先生も不思議なこと言うよねー、まぁ気をつけようねー、ぐらいにしか考えていなかったわたしたちは、後に先生のお力を思い知ることになるのです。

それから本当にぴったり一週間後。
妹は、まさに尋常ではない腹痛と高熱を発し、救急車で病院に運ばれることになりました。
運ばれたその日は意識も朦朧となり、点滴の投薬も効かなければ、もしものことも覚悟してください、と言われました。
大病院であらゆる検査を受けても、原因は不明。わたしたちは泣くことしかできませんでした。

その後、幸いなことに投薬が奏功し、一週間も経つ頃には熱も痛みも落ち着いて、妹はすっかり回復することができました。
結局何だったんだろうね?と後に首を傾げることができたのも、命あってのことです。

しかし、先生はあの時、妹のおなかを木剣で指しながら「何かおる」と仰られたんですよねえ…。
妹のおなかに居たのは、一体何だったのか……
先生がおられなくなってしまった今となっては、すべてが謎のままです。

ただ、妹はおなかが痛くなった瞬間に、あの時の先生の言葉を思い出した、と言いました。
うちの妹は大変負けず嫌いでプライドが高く、我慢強い性分です。
なので、以前熱中症になった時も、ヘルニアが悪化した時も、だいたいは救急車で運ばれたあげくお医者さんに「どうしてもっと早く病院に来ないの!」と叱られるのですが、この時は先生のお言葉があったおかげで、いつもより早くに「これは尋常じゃない」と思い、速やかに救急車を呼ぶ決断ができたそうです。
もし、それ以上遅れていたら…
ただでさえ「覚悟をしてください」と言われる症状、どうなっていたことか…

やはり、こうして振り返ってみるだに、わたしたちが先生に救われた場面は枚挙にいとまがありません。
もう、あれほどの方にお会いできることもないのかもしれないと思うと、何とも寂しい気持ちになります。

それでは、このたびはこの辺で。

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