◆怖い体験 備忘録/第31話 VS生霊バトル
これは、このマガジンではすっかりお馴染みになったY先生のお堂へ毎月お参りに行っている頃のお話です。
先生が突然色々なことを言い当てられたりすることは、以前このシリーズでもお話しましたね。
この時もまた、毎月のお参りで順番にお祓いをして頂いている時、先生がふと仰られたのでした。
「ん?お前どうした。女の生霊が来とるぞ」
突然、しかもカジュアルに怖いことをポロリと言う先生なので、この時もわたしは「え!?」と聞き直さざるを得ませんでした。
先生はちょっと眉間に皺を寄せて「女の生霊だ。あんた何か、恨みを買ったりはしとらんか」と仰る。
はて?と首を傾げたあと、わたしの脳裏には一人の人物の顔が浮かんできました。
それは前の会社の上司で、当時の彼氏の前の女の顔でした。
まぁ一方的な話になってしまうので、アンフェアかな?とも思うのですが、とりあえずその女上司が持っているエピソードをいくつか箇条書きでご紹介しますね
①月に10万溶かすスロット狂
②妊娠した部下の女性に「妊娠は病気じゃないんだから甘えるんじゃない」と激務から外さず、彼女が流産してしまい、仕事について抗議をしてきたら「自分の健康管理が甘いくせに人のせいにするな」と逆切れ
③自分の息子がサッカー部のキャプテンに立候補したのに、部員たちの投票で選ばれなかったのが悪いと学校に乗り込んでキレ散らかす
④部下の女の子がブランドのバッグを持って会社に来たら、なぜか「こんなものニセモノよ!」と言いふらして歩く
これだけで何となくどんな方かはお察し頂けるのではないでしょうか。
わたしは当時遠距離恋愛をしていた彼氏と一緒に居た時、この上司に「あんたみたいな女はそのうち捨てられるわよ」と何の脈絡もなく人前で嗤われたことや、まあ日頃の業務で理不尽な仕事を多々押し付けられることにそこそこの恨みを募らせていました。
なので、若気の至りで恐縮なのですが、わたしがフリーになったとたんにこの女上司の元彼氏が誘ってきた時、半ば復讐というか、仕返しのような気持ちで誘いに乗りました。
その会社はかなり前に退職していましたが、噂は耳に届いたのでしょうね。
時々嫌がらせのような電話はかかってきていたのですが、何しろ距離的にかなり離れた場所に引っ越したもので、彼女的にはもう生霊飛ばすくらいしかなかったのかも知れません。
とりあえず、先生は「一応祓っておくけどなあ」と、お祓いをしてくださいました。
それから2〜3週間も経った頃でしょうか。
真夜中に寝苦しさで目を覚ますと、また例のごとく金縛りにかかっていました。
あー、またか…ぐらいに思っていると、ふと人の気配がする。
不思議と目玉だけは動いたので、そーっと目だけを動かしてみると、そこには例の女上司が立っているではありませんか!
しかも、物凄い形相でわたしを見下ろしている彼女の右手には、しっかりと鈍く光る包丁まで握られています。
──これ…ヤバいかも。
一瞬、恐怖に支配されそうになった瞬間、今度は声が聞こえてきました。
「あんたなんか…死ねばいいのに…」
えー…。
うん。まぁ。
状況的には恐怖に違いありません。ね。
ただ、その言葉を聞いた途端、わたしの中には恐怖とは全く別の激しい感情が湧き上がってきました。
そう。
それは『怒り』
いつだって底意地が悪く、彼女のせいで退職させられたり鬱病を患ったりした女子社員は数知れず、常に好き勝手に振る舞い、嫌な仕事は人に押しつけ、あげくの果てに人の色恋沙汰にまで口を挟んでわたしに向かって「あんたみたいな女、そのうち捨てられるわよ」まで言い放っておいて、いざ自分の男がわたしに鞍替えしたら「死ねばいいのに」だぁあ???は??はぁあ???
次の瞬間、わたしは金縛りをも力任せにぶち破って立ち上がり、精一杯出せる限りの声で
「こっちの台詞じゃクソBBAー!!!!!」
と怒鳴り返していたのでした。
その昔、幽霊に出会ったら全裸になってお尻を叩きながら「びっくりするほどユートピア!!!」って叫びつつ、ベッドの上にジャンプするのを繰り返してたら幽霊が逃げていく、っていう有名な都市伝説があったんですけどね。そんなことされたら人間でも引くわ。
…で、この時もあれでした。
わたしの激昂に生霊が引いたんですかね。
ヒィィィイイイ!!みたいな声を発して消えました。
わたしは「二度と来るんじゃねえぞ!!!」と更にキレ散らかして、そのまま寝ました。
ええ。次にY先生のところで聞いてみたところ、「お祓いしたんだから、もう生霊なんかついとるわけないだろう」と言われました。
お祓いもかも知れないけど、多分生きてる人間の怒りパワーも相当強いんだろうな!
おかげさまで、その後は生霊らしきものがやってくることもなくなり、彼とも別れました。
良からぬ感じで始まったものは良からぬ感じで終わるもので、最終的に彼にはお金を300万ほど貸したまま、四股をかけられていたという事実が発覚して散々な終わりとなりました。
今にして思えば生霊よりそっちの方が怖い。
それでは、このたびはこの辺で。