上海夜曲
夏の扉を開くとそこには白い一枚の手紙が置いてあった。
幻の手紙は心の中の琴線に触れ温もりを運んできてくれた。
そんな夢を見た事があった。
舞い戻る想い出が今度は秋への扉を叩こうとしていた。
1988年夏の終わり。
私は上海の地に降り立った。
少し砂っけ混じりの乾いた空気に大陸の空気を感じた。
上海の虹橋空港の滑走路では若い男女が自転車に二人乗りしている姿が見えた。
よく見ると滑走路はところどころ陥没していた。そしてその陥没したコンクリートの隙間から我先に咲かんばかりに白い小さな花が健気に顔を出していた。
強いな、と私は思った。
9月初めの上海はまだまだ夏の勢いを失っていなかった。
新しい土地での未知なる留学生活が始まろうとしていた。
10代の終わりにこの地を選んだのは何となく上海という響きが好きだったからと、租界時代にジンジャン飯店(和平飯店)のオールドジャズマン達が華やかな毎日を演出していたという過去への単純な憧れ。そしていつだったか書店で一枚の美しい上海外灘(ワイタン)バンドのポストカードを見た事がきっかけだったと思う。
忘却のアジアへの憧れ。それはとても心地よくてその想いは私の中で段々と膨らみ強くなっていった。
そして私の性格上あまり深く考えずに半ば時の流されるままここまで来てしまったのであった。テレサ・テンである。
大陸の強くて逞しい風が長く伸びた滑走路を撫でていく。
ごろごろと幾つも横たわる小石を引きずって荒々しい日常のように動いていく。
その瞬間、何故か私はもう戻れないなと思った。このままこの地で住むのかと思うと日本で考えていたような空想物語とはえらく違うなとう思いでいっぱいになった。
空はそこはかとなく晴れていた。
底抜けに青い乾いた空を見詰めていたら、もうどうでもいいやと思えてきた。
蘇州夜曲 Sandii
#Sandii #蘇州夜曲 #ワールドミュージック
theHS511 チャンネル
私は空港から所々錆びているような古びたバスに乗り込んで大学寮へ向かった。
途中、まるで空爆を受けたかのような穴がいくつも道路に空いていて少し心細くなった。
暫く何も考えずに窓の外に見えるポプラ並木をぼんやりと眺めていた。
私はどの木にも一筋の白い横線がひかれているのを不思議に思いながらその後ぼんやりと瞼を閉じた。
1時間も揺られていただろうか。空港からの疲れも頂点に達し座席からそのまま転げ落ちそうになった。
「え、嘘!」
私その時は突然の出来事に呆気に取られてしまった。
大きな揺れと同時にバスは傾きガタガタという音を立てながら急停車したのだ。
バスの運転手がなにやら大声で叫んでいる。
「何なん?」
すぐさま窓を開けて後方を覗いてみた。
その光景に目を疑った。後部座席下にあるバスのタイヤが砂利道の大きな穴にはまってしまって動かなくなってしまっていたのだ。
嘘!いつの時代?
私は心の中でそう呟きながらこれからの上海での留学生活が不安になってしまった。
果たしてこれからの1年間日本とは全く違うこの大陸のハードな環境に馴染めるのだろうかと心の中は恐々と後ろのめりになっていた。
そうこうしているうちにバスの車輪は運転手と、どこかしらから集まって来てくれた人達の手によって大人5人がかりで穴から引き上げられた。
そんな事もあって再び発車した時には空港から出発してから3時間は経過していた。途中、広大な土地にある上海動物園のこんもりとした森の緑を横目に夕暮れが朱色の顔を出していた。
その時ふと日本から持って来ていたカセットテープの事を思い出した。鞄の中からウォークマンを取り出してイヤホンを耳に詰め込んだ。
その時、疲れた体に染み入るように流れ込む音色はまるでエナジードリンクみたいにみうみる内に体中を駆け巡った。
夕暮れの砂利道を大型バスが走る。
勇敢に走っていくバスの窓からは西の空の果て山へ帰っていく鳥の群れが見える。砂埃をまとって走るバスに揺られながら、私は自分だけの世界に包まれる。イヤホンという名のの文明機器が外界との壁を作る。わたしの世界はバスの窓一点に集中された。
何故かは分からないが当時日本で流行していたGONTITIのお気に入りの音楽がやけにこの大陸の殺伐とした景色に似合っていた。
GONTITI 大陸風に向かって
チチゴン チャンネル
やがてバスが停止するその時まで、私は自分だけの世界に浸りきっていた。もう二度と穴に落っこちませんようにと祈りながら、朱色の空がすすり泣いているように見えた。
心に曇り空を残してはいけない。強く生きる事、等々…
いろんな呪文が現れては消え頭の中を駆け巡っていく。
窓からの景色はとうとう漆黒に包まれて大陸風は闇の中に消えていった。
記憶の中のささやかな音色に思いを寄せて
蘇州夜曲/夏川里美
Ming-wei Lien チャンネル
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
こんにちは😊
ここまで読んでくださってありがとうございます💕
今となっては懐かしい想い出を当時よく聴いていた音楽を織り交ぜながら書きました。空港から上海の大学寮まで向かうバスの中での記憶を想い出しているうちに、ほろ苦いあの頃の想い出に少し泣きそうになりましたがなんとか書けました😊短文で作文のようなものですが読んでくださって有難うございました。やっぱり私は断片的にしか書けないのでその時書きたいものをゆっくりと書いていけたらと思います。お気に入りの歌、「蘇州夜曲」にのせてゆっくりと呼んで頂ければと思います。1曲目は香港の大スターDick Lee(デウック・リー)さんのアレンジで当時流行していたWorldMusic調に美しくオリエンタルな雰囲気なメロディーに、これまた当時人気のサンディー&ザ・サンセッツのヴォーカリストのサンディー(Sandi)さんの伸びやかで華やかな声のトーンの蘇州夜曲。本当に素晴らしいです!2曲目はGontitiさんのアルバム「Legacy of Madam Q」マダムQの遺産からの1曲。大陸風を連想させる素敵な1曲です。そして3曲目に再び、夏川りみさんが歌う滑らかな蘇州夜曲。美しい胡弓の音色と望郷の念が深まっていく様を心の中に感じながら聴ける究極の1曲だなと思います🎶
終始歌を聴きながら書いたので心地よく文章と繋がっていてくれればと思います😊耳が痛いです~~~(TOT) 誤字があったらすみません🙇
夏川りみさんのオフィシャルサイト
最後に、夏川りみさんの蘇州夜曲をライブで👍🎶
蘇州夜曲 夏川りみ
東京 「 夏川りみ 」 倶楽部 ☆.。.:*・ Rimi Natsukawa in club Tokyo! チャンネル
🌸参考資料サイト🌸
皆様の今日一日が平和で安心出来る一日でありますように願って🍀
読んで何かを感じて頂ければ幸いです👍°˖✧
asa_Sante
☆ asa_Sante’s twitter ☆
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