[ Magic ] Reverse Reality : 逆の現実
Magic / 魔法
本日の魔法の講義は「Reverse Reality : 逆の現実」についてだ。この魔法が行使されると、対象者の現実が逆さまになり、その効果は恒久的であるため非常に危険である。
どれほどテクノロジーが覆い尽くそうと、我々の世界には至る所に真理が見え隠れしている。自然しかり、遺跡しかり、古き書物しかり。君が元々いた機械だらけの都市ハイ・メトロでさえも、容易く真理を目にすることが出来る。
しかし、Reverse Reality 通称「R2」の対象者は現実を逆さまに認識してしまうため目の前の真理を目にできても認識はできない。同様に、真理を説いている者の言葉も逆さまにとらえ、"悪き者"との先入観から声は聞こえど聞く耳は持てない。
なんせ当人にとっての現実は逆だからな。
人の心理的盲点を見事に突いた魔法である。それもそのはず、「R2」の考案者は"元々は人間だった三大老"なのだから。
2914年の"三大老の召命"で The T-E-N にのぼった白衣の愚者の3人だ。神聖なる山に召命の記念として自分たちの姿を削り込むほどに驕り高ぶった愚者。あの巨大な3体の彫刻はいずれ破壊し山を自然に戻さねばならない。
人間をよく知る三大老は、人間と言う生き物から自由を取り上げることは不可能だと理解していた。要するに、自分たちの思い通りに人間は動かせぬと分かっていたのだ。どれほど説き伏せようとも、力で奪い取ろうとも、いずれは抵抗され矛先が自分たちへ向いてしまい、数で勝る人間に屈することとなる。ならば人間が自ら自由を差し出すように「逆の概念」を植え付けようと考え「R2」が創造された。
「自由を奪おうとすれば抵抗するのだから、
自ら差し出させれば良い」と。
今となっては、細かな事から大きな事まで
世界のほとんどが逆さまになってしまった。
と言っても”逆さまの世界”から脱出したばかりの君には
何のことかさっぱりわからないだろう。
例をあげ、
君の現実が逆さまであることを実感させてあげよう。
まずは細かな事から。
「細かな逆さ」
君は今、
私の魔法の講義を受けながらノートに記録をとっているが、
左から右へ向かい書いている。
なぜだ？
そう教えられたからか？
ではその教えに疑問を持ったことはないか？
なぜだ？
皆が左から右へ文字を書いているからと言って、
それが本当に正しいかどうかは分からんだろう？
自分で調べたのか？
左から右へ書く理由を調べたのか？
この世の事象すべてに理由が存在する。
君は何か一つでも、その理由を突き詰めたことはあるか？
"曖昧な現実"を"確かな現実"だと思い込んではいないだろうか？
では先ほどの問いである「文字を書く方向」についてだが、結論を先に述べると、本来、文字を書く方向は右から左である。その理由はとても古き時代へと遡る。と言っても以前の講義『象徴の威力』で話しをした歴史である。言語的象徴の祖を覚えているだろうか？
不死鳥の民と呼ばれた民族が生み出した、簡素な22個の幾何学的イメージの組み合わせで音声言語の全てを表せる象徴。これが言語的象徴の祖である。この言語的象徴の祖を生み出した不死鳥の民は”どちらの方向へ文字を書いていた”と思う？
右から左だ。
その理由は、
知識を己の心臓へ向かい綴るため。
この最も古き理由を真に理解するためのポイントは二つある。
まずは一つ目。心臓は母親の子宮の中で最初に形作られる臓器である。その心臓を元に黄金の比率で体が形作られる。人がこの世に生を受けた時から死するその瞬間まで動き続ける、言わば人間の核が心臓である。
二つ目。音声は波動であり文字はそれを記したものである。また、文字の元は幾何学であり幾何学もまた波動を備える。故に言語・文字は共に波動を備える。
この二つの理由から、古き賢人は文字を記すとき、言語的象徴で記した知識の波動が己の心臓へ達し、ひいては己の血肉となるように、文字を”右から左”へ書いたのだ。
ではもう一度尋ねよう。
君は文字をどちらからどちらへと記すのかね？
その場合、知識の波動はどこへ飛んでいくのかは言うまでもないな。
どう？「R2」を実感しただろうか？
君自身の文字を書く方向がよく物語っていると思わぬか？
「Reverse Reality : 逆の現実」というものを。
では次。今度は大きな逆さまのお話し。
「大きな逆さ」
「逆さに学ばせよ」とはよく言ったものである。逆さまの概念の者へ向けた、最も簡潔に、また最も要点を突いた"啓明の言葉"といえよう。しかし、少し前まで君がいたハイ・メトロの世界では、この言葉は逆さまの意味で次のように語られてる。
「逆さに学ばせよ」とは、「まともな概念とは逆さまな事を学ばせ」悪の道へ導く言葉である!!とね。
この「逆さに学ばせよ」は、とあるヘソ曲がりの賢者の言葉。
彼の魔法名は「Perdurabo / ペルデュラボー」といい、その意味は「われ耐え忍ばん」である。最終的に彼の魔法名は「Perdutab-O / われ最後まで耐え忍ばん」となったが、アダムが変容させた世界に絶望してもなお歩き続けた彼の人生をよく表しているといえよう。
彼はキャンプエリアの人間に真理を説いて回った稀有な伝道師である。その言葉、書籍は、まごう事なき真理であり多くの人間の心を揺さぶり啓明の助けとなった。結果、その勢いはキャンプエリアにとどまらず、ハイメトロにまで届き広まりかけた。
しかし当然の事ながら、
大衆の啓明をアダムは許さなかった。
三大老に命じ、
ペルデュラボーに対する大衆の概念を逆さまにさせたのだ。
ハイ・メトロでのペルデュラボーの呼び名を知っているか？きっと彼の魔法名は知らなくとも、その肩書きは知っているはず。ハイ・メトロでの彼の呼び名はいくつかある。「世界最大悪人」「悪魔崇拝者」そして「最も邪悪な男」である。どれもひどいネーミングセンスだとは思わぬか？
ペルデュラボーに対する大衆の概念を「真理の伝道師」から「邪悪な洗脳師」へと逆の現実へ置くことで、彼の精緻に綴った書籍や鋭き言葉などの全てが、 "大衆にとって邪悪なもの"という概念になった。
結果、彼は人々を救うべくして差し出した手を払われるどころか、容赦無く追い立てられ迫害された。彼の言葉は邪な誘惑とされ、書籍はことごとく燃やされ、失われた記憶の一つとなった。臍曲がりになるのも無理はない。
しかしそれでも彼は膝をつくことはなかった。キャンプエリアに点在する、人が居るかもわからないクリフォトを訪ね歩き、ごく少数の志を同じくする者に智慧を分け与えた。どれほど迫害されようとも、どれほど心無い言葉を浴びせられようとも、彼は真理の伝道師であることを諦めなかったのだ。
彼の魔法名の意味が分かったか？
Perdutab-O / われ最後まで耐え忍ばん
そんな彼が、古き時代に我々のクリフォトを訪れたことがあった。旅の途中で「凍りついた時計」を目にし、我々のクリフォトに立ち寄られた。彼は私に"凍りついた時計"の意味を尋ねた。私が"動かぬ針"の意味を伝えると、「それならば」と６日間ほど滞在し貴重な講義を行なってくれた。
中でも「人間の権利」の話に登場する印象深い一節を伝えよう。
彼はこう言った。
汝の意思するところをおこなえ。それこそ「法」の全てとならん
この言葉は、君たちの世界では最も邪悪な男の言葉と前置きがついた上で以下のように解釈され広められている。
己の欲望のままに行動しろ。それが法だ。
Reverse Realityがまだ抜けきらぬ君の目にはどう映る？最も邪悪な男が「汝の意思するところをおこなえ」と言っていたら「己の欲望のままに行動しろ」という解釈が自然なことと思うだろう。
だがしかし。
彼が邪悪な男ではなく「真理の伝道師」だと知った上ではどうだろうか？
真理を説くような賢者が「己の欲望のままに行動しろ」と言うだろうか？
そんなはずはない。
ハイ・メトロで真理・真実・常識だと考えられていることが
逆さまなのである。
はっきり言おう。
君の概念は逆さまになっているのだ。
しかも概ね大体のことが逆さまだ。
気づいたであろうか？
この考え方がReverse Realityを解呪する唯一の方法である。
"もしかして常識が逆なのでは？"と己で疑問を持ち、
己で事実を調べ記憶し、己で考え答えを出す。
解呪は己で行うしかないのだ。
だから彼は何度も何度も繰り返し説いていたのだ。
「逆さに学ばせよ」と。
この言葉は「逆さに考えさせよ」と換言もできる。
では本日の講義の最後は「汝の意思するところをおこなえ。それこそ「法」の全てとならん」の真の意味を述べて終わりにしよう。この言葉の真意はこうである。
賢者の「道徳」は、強固な意思に基づいた自由な行動を生み出す。それは欲望による暴走ではなく、意志の制御による正しき生き方の推進である。己の意思に基づき生きることの困難さを知り、それでも己の改善行動によって、いかにそれを実現するのかを考究する。
要するに賢者の歩き方の基本である。
先にも述べたが、この話は「人間の権利」と言うテーマの中の、一つの教えでしかない。彼は簡素ながら宣言書という形で大切な言葉をまとめた。それは５つの文から成り立つ宣言書。これについては次回以降の講義で詳細を説明する。
さぁそろそろ時間だ。
本日の魔法の講義はこれまでとする。
凍りついた時計に向かい誓いの復唱も忘れずにな。
いつ何時も
不死者の如く、不死鳥の如く、星座の如くあれ。
新刊：『Divine Ratio Re:Decode』
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