「アマデウスの魔笛の秘密」 第二章
はじめに
本件は「アマデウスの魔笛の秘密」第一章の続きです。本件では第一章最後に述べたアマデウスを取り巻く陰謀説「毒殺・暗殺・イルミナティ」についてDecodeしてゆきます。語呂が良かったため「毒殺・暗殺・イルミナティ」と綴りましたが、実際は「毒殺、イルミナティ、暗殺」の順で述べてまいります。
確執が見え隠れするサリエリの毒殺説。現代においてもなお悪名高い秘密結社イルミナティや秘密結社フリーメイソンとの関わりによる暗殺説。どれも非常にドラマティックで、人々の想像力をかき立て、心を揺さぶる話です。しかし、こうした物語性に富んだ話だからといって、それがそのまま真実であるとは限りません。
長い歴史の中で真実と虚構は交錯し、後世の人々が抱くイメージや憶測が新たな物語を作り上げてゆくこともしばしば。下手をすると物語が史実になっているなんてこともしばしば。重要なのは、これらの説をただ受け入れるのではなく、その背景や根拠を慎重に見極めることです。本件で取り上げるトピックを正しく理解したなら、本シリーズ最大のテーマである「魔笛」の秘密もより良く見えることでしょう。
では順にDecodeし「魔笛」を目指す智慧の旅を続けましょう。
旅路
・毒殺
まずはサリエリによるモーツァルト毒殺説からDecodeしてゆきましょう。
まずはじめにはっきり申し上げちゃいますが、サリエリがモーツァルトを毒殺したという説は1984年の映画「アマデウス」で広まった説で、実際のところ当時の公的な資料やモーツァルトの死因に関する医学的調査には一切見られません。現代医学に基づく推測でもモーツァルトの死因は腎不全や感染症などが有力で、毒殺説は否定されております。
また映画「アマデウス」には元ネタが存在します。それは18世紀当時ささやかれた毒殺説であり、この噂話を元にドラマ性を強調しモーツァルトとサリエリの対立を大きく脚色した作品が映画「アマデウス」。このような噂を元にしたフィクションが映画という伝達手法で世界的に広まった結果、多くの人々がこれを事実と誤解することになりました。天才の早世に毒殺のカップリングはとってもドラマティックでしょ?
さらに重ねるなら、実際のサリエリとモーツァルトの関係を示す史料からは、二人が敵対していたことを示す明確な証拠はありません。当時サリエリ自身も毒殺の嫌疑をかけられ精神を病むほどに悩まされたようです。この毒殺説が流布された原因はアマデウスとは関係がなく、宮廷楽長という立場のサリエリ自身が全く別の権力闘争に巻き込まれてのこと。
実際のところサリエリはモーツァルトの才能を高く評価し、その音楽を頻繁に演奏しており、「魔笛」についても高く評価していました。また、1791年にモーツァルトが亡くなった際には葬儀に参列し、その死を悼んでいます。
さらにサリエリは、1793年にゴットフリート・ヴァン・スヴィーテン男爵の依頼を受け、モーツァルトの未完の遺作「レクイエム ニ短調 K. 626」の初演を指揮しました。このように、彼はモーツァルトの音楽を後世に伝えるために尽力していたことが分かります。
これらの事実から、本来サリエリには毒殺の動機すら存在しません。つまり毒殺説は完全なるフィクションということ。この説が今なお語り継がれているのは、真実性というよりも、人々の心を惹きつける物語性の強さに依るものと言えるでしょう。
・イルミナティ
現代においてはこの馬鹿げた陰謀本のおかげで大いに汚名を着せられた啓明結社イルミナティ。見る目を持つ者なら表紙に書かれているタイトルを見ただけで疑念が湧きます。しかしながら常識的には上記の本の馬鹿げた概念が拡散しており、それにより十八世紀やそれ以前のイルミナティが正しく認識できず、「やばい秘密結社イルミナティと関わりのあったアマデウスは、、、」なんて誤解が生じます。よってここではイルミナティという結社を正しく認識しましょう。
「イルミナティ」を日本語にすると「啓明」です。簡潔に申し上げれば、当時の支配者が作り上げたMatrixから脱出して光を得た人々のこと。
…もう少しはっきり申し上げましょう。
上記の一神教が支配する世界において…
そんなのは関係なくて、神は自然法則だと気づいた人々ということ。そう、「Da Vinci Code Reloaded」で綴った十六世紀の啓明の波は、アマデウスの生きた十八世紀でも脈々と受け継がれております。ここでしっかりと記憶して頂きたいのは、イルミナティという語句は特定の団体・結社を示すものではなく、Matrixから抜け出した人々の呼び名、またはその集団の名称として一般的に使われていた名称です。
では誰が何のために、たった12年しか活動のなかったヴァイスハウプトのイルミナティに全ての悪事をおっかぶせて伝説の悪の秘密結社にまつり上げたのでしょうか?
これもまた毒殺説のようにそれぞれの思惑が入り乱れておりますので順にご説明いたします。
イエズス会の司祭バリュエル神父。肩書きからも明らかなように、彼は徹底した反啓明主義者でした。当時、啓明主義が台頭しつつあった時代にあって、彼はそれを脅威と見なして迫害しました。その弾圧の手段の一つとして用いられたのが、啓明主義を陥れるための文書の作成でした。
これらの文書には、啓明組織に対する誇張や偏見に満ちた記述が含まれ、彼らの思想や行動を悪意をもって解釈した内容が多く盛り込まれていました。その結果、啓明主義は一部の層から不当に危険視されることになり、さらなる迫害の口実を与える結果となりました。マンリー氏は著書の中でこう述べています。
第一章の「光溢れる」の項の人物たちの肩書を思い出してください。みんな何らかの形でイエズス会に関わっています。教育を受けたり関係機関に勤めたりと。そうして聡明になり気づいたわけです。神は物理法則だと。そうしてイエズス会に背を向け、または内緒にしながら、啓明結社の門を叩きました。バリュエル神父が偏屈になるのも、また熱狂的な反啓明主義になるのも無理はありません。自分の同胞だと思っていた人々が真理を悟り、一緒に信じたはずの神を捨て次々と啓明主義に転じて行ったのですから。
しかしながらバリュエルらの頑張りも虚しく、その後、啓明主義者たちの力によりフランス革命を迎えます。”ペン革命”とはよく言ったものです。ひっくり返された方の王族・貴族・聖職者などの旧権力者は、大衆を啓明してしまった人々を何とか陥れられないかと考え、一昔前の偏見に満ちたバリュエルのもっともらしい陰謀論に飛びつき拡散しました。これが時代とともに翻訳を重ね各国へと出回り「イルミナティは悪の秘密結社だ!」となったわけです。そして更に尾鰭がつきます。それが今現在一般的に出回っているイルミナティの歴史です。
ですから注意深く見てみれば、どういう人々が「悪の秘密結社イルミナティ」と喧伝しているか分かるのですよ。以下の画像から、現代でも啓明を嫌がる人々が啓明組織を陥れていると分かりますね。何事にも言えることですが、他者を陥れようとする人々は、陥れて利益があるから行うのです。
そしてもう一つの思惑も忘れてはいけません。フランス革命でひっくり返した側は、ひっくり返すために流出させてきた古き智慧を、今度は隠さなければならなくなりました。旧Matrixを破壊するために自分たちが流出させた智慧は、自分たちの新Matrixさえ破壊しかねませんから。そこで、著名人が会員でヴァヴァリア政府から活動を禁じられた汚名をもち、かつバリュエルの怪しい資料付きで、たった12年の活動で解散してしまったヴァヴァリアのイルミナティに全てをおっかぶせました。
この終始隠れたままの状態にある有力な人々ってのが、中世に智慧を流出させ大衆を啓明しフランス革命で旧体制をひっくり返した人々。そして現行の世界の支配者です。
イルミナティという語句の説明は以下の引用が最も正確だと考えます。
ただちょっと引っかかることがありますの。
教育の質の高さというのもあるかとは思いますが、なぜにイルミナティやフリーメイソンに転じた聡明な人々は、揃いも揃ってイエズス会なのでしょうか?MatrixシリーズのCode Crimson Redで綴った歴史を思い出してください。
イエズス会という青いスパイ組織を赤いローマンカトリックに捩じ込んだのはパウルス3世です。
バリュエル神父のお家の紋章。公には繋がりは定かではありませんが、紋章の色の重なりは魔術師ならば看過できません。つまり、もしかしたらバリュエルでさえ、、、
本物のスパイについて高橋五郎氏が講演で語っていたのを思い出しますね。本当のスパイとは裏の裏の裏の裏まで考え抜いて行動するものだと。表面的な情報や、容易に手に入る安直な情報だけに頼ることの危険性を、彼の言葉から強く実感します。
これらの事実から、イルミナティという組織は啓明結社だったのにも関わらず新旧支配者双方の思惑も重なり悪の秘密結社となっていることが分かります。よって「アマデウスが悪の秘密結社イルミナティに関わりがあったことによる暗殺説」は毒殺説と同様フィクションです。
・暗殺
フリーメイソン暗殺説はイルミナティ暗殺説と同様です。その原因と言われているのがくだんのオペラ「魔笛」。その作中の中で結社フリーメイソンの秘密を暴露したことにより暗殺されたというお話。ではDecodeしてゆきましょう。
「魔笛」はシカネーダーが自身の一座のために台本を書き下ろし、アマデウスが作曲したもの。…というのが表向きのお話。本シリーズ冒頭で述べた通り「魔笛」というオペラはとても深淵なる作品です。マンリー氏が「賢明ではあるが深淵ではないこの人物」と評するシカネーダーが、果たして本当に書けたのでしょうか?
もったいぶらずに結論を申し上げましょう。実際、歌詞の大部分を書いたのはギーゼケで、象徴部分をになったのはフォン・ボルンです。つまり「魔笛」はアマデウス、ギーゼケ、フォンボルンの賢明であり深淵な3人によって作成されたものであるということ。
ですから、もし「魔笛」で秘密結社の秘密を暴露したためにモーツァルトが暗殺されたというなら、同じく深く関与した人物であるフォン・ボルンやギーゼケも暗殺されていなければ辻褄が合いません。普通に考えれば作曲者であるアマデウスよりも、物語にあれほど露骨な象徴を組み込んだフォン・ボルンや歌詞を書いたギーゼケが、むしろ標的にされてもおかしくないはずです。ではアマデウス以外の二人を見てみましょう。
フォン・ボルンは、魔笛の完成を待たずして亡くなってしまいます。奇しくも「魔笛」が公開された1791年でした。ギーゼケはそこそこ波瀾万丈な人生を送り1833年に没しています。どちらも同じ「魔笛」の関係者ですが暗殺とは程遠い人生を送りました。これらの事実を考えると、フリーメイソン暗殺説はイルミナティのお話と同様、そうすることで利益が生じる人々によるフィクションであると結論づけられます。
また少々付言しますと、シカネーダーのように自身で功績を吹聴するような人物に「魔笛」は相応しくないのですよ。それは「魔笛」に組み込まれた象徴体系を理解することで分かります。
・死後
アマデウスの死後についても色々な説が囁かれますが、そのことについてマンリー氏は以下のように述べております。
きちんとフリーメイソンの一員として同胞により葬られたアマデウス。さらに、残された家族にはフリーメイソンから保証が与えられたという事実を考えると、彼の墓が謎に包まれているのは決して粗末に扱われたからではなく、むしろ、彼の遺骨は非常に丁重に扱われ、大衆の目に触れない静かな場所に祀られているからではないでしょうか?マグダラのマリアのように。
陰謀説の的となった「魔笛」や第一章でも触れた啓明結社の重要なアデプトの一人フォン・ボルンのために作られた曲はもちろんのこと、その他アマデウスの名曲の数々は、破棄されるどころか未だに大切に演奏されているのですから。
さて、「魔笛」解読の旅路に立ちはだかるモンスターたちは、あらかた斬り伏せました。これでいよいよ「魔笛」の深淵を歩む準備が整ったわけです。ここから先は、あなたの望む「魔笛」の深淵へとお連れいたします。
・深淵の入り口
多くの論者が「魔笛」にはフリーメイソンの秘密が隠されていると声高に語ります。しかし、その具体的な内容や何が象徴されているのかを問われると、途端に言葉を失いはっきりとした説明を避けることが少なくありません。実のところ、かく言うわたくしも、かつてはそんな一人でした。おそらくこうであろう、といった予測はできても、確信を持って他者に説明できる根拠を示すことができませんでした。
これまでは。
今では確信を持ってお伝えすることができます。その鍵となったのは、たった一枚の象徴画。この絵には、「魔笛」が象徴するすべてが描かれていました。そしてさらに興味深いことに、わたくしはその絵を何年も前から持っておりました。何度も目にしていたはずなのに、その真の意味にはまったく気づけなかったのです。それはひとえにわたくしの智慧が達していなかったからに他なりません。そして気づいたとき、その象徴画に描かれた意味と「魔笛」に隠された本来の意図が、鮮やかに結びついたのです。そして同時に、その意味の大切さも実感し経験として胸に刻みました。
では、そんな深淵なる象徴画と共に、「魔笛」の深淵へ足を踏み入れましょう。
といったところで第二章は締めとなります。あなた様の心にわたくしの秘密の旋律が響きましたなら引き続きお付き合いをお願いいたします。
続きはこちらから。
作品紹介
新刊:Da Vinci Code Reloaded
デジタルBook:『ヨハネ黙示録 完全解読』
デジタルBook:『Decode of the Matrix』
デジタルBook:『ダヴィンチコードを乗り越えて』
本:『Divine Ratio Re:Decode』
本:『As above So below』
アパレル&小物:Cavalier Camp