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私は良い子だから

タクシーを降りると目の前は高級マンションだった。
(一人でこんなところに住めるなんてすごいなぁ)
リアルにそう思ってた。
エレベーターを上がり、ドアの前に着くと声がする。
(誰かいるのかな?嫌だな…せっかく会えたのに)
鍵も開けずに入ると、私より小さい子が2人走って父に抱きついた。
奥から綺麗な女性(以下Kさん)が歩いてきた。
「いらっしゃい、あなたが娘さん?上がって上がって!」
心の動揺が顔に出ていたと思う。
「ねー、パパ!このお姉さん誰?」
「パパの子だよ」
「じゃあお姉ちゃんだー!」

(パパ?お姉ちゃん?何言ってんの…何見せつけられてるの?吐きそう)

父は違う部屋でその子達と遊びだした。
私はリビングで動けなかった。
Kさんが近寄ってきた。
「ビックリしちゃったよね。ごめんね。パパって呼んでるけど、私の連れ子なのよ。突然だと驚いちゃうって言ったんだけど、隠したくないっていうから。いつでも遊びにきていいからね!少しずつ仲良くしてもらえたらいいからね。」

呆気に取られた。なんて出来た女性なんだろう。

それなら喫茶店で言ってくれたら良かったのに…
でも言いづらいよね。
そうだ、私が我慢したら良いじゃないか。
私より小さい子なんだから。
いつもみたいに我慢したらいい。いつもの事。
そう、いつもの事だよ。
そう自分に言い聞かせた。

「ビックリしちゃいましたけど、全然大丈夫ですよ!Kさんみたいな綺麗な奥さんがいてくれて逆に安心しました。私も遊んできても良いですか?」

この頃のいつもの我慢に比べたらマシだった。
父も笑ってる。
これはいつも遊んでいるリカちゃん人形の世界。
私が欲しかった世界。

我慢を重ねれば重ねるほど、
人から言われることは決まっていた。
「良い子ね」
「笑顔が素敵ね」
この大人はなにを見ているのだろう。
私の心の闇は光の射す隙間がなくなっていき、
もう一人の私が闇を餌に育っていく。

本当の私に気づいてくれた大人は一人もいなかった。

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