お婆ちゃんの正体
今回はちょっと不思議なおはなし。
これは私が
訪問看護師として働いていたときのお話です。
訪問看護は、病院のように
内科・外科・小児科などの
くくりがないため、
担当する利用者さまは
子供から高齢の方まで幅広い。
基本的には一人で利用者さまのお宅へ行き、
ご本人の体調を見たり、
お風呂のお手伝いをしたり、
お薬をちゃんと飲めているかなどを
確認していきます。
少し前のことですが、
80歳くらいのおばあちゃんを
担当していたときのこと。
おばあちゃんは日常生活は
自立されていましたが、
最近認知症が進んだようだから見てほしいと
家族さんに依頼を受けました。
「お金を盗られたんだ」
「嫁が私の陰口を言っているんだ」
私が訪問すると顔を真っ赤にして、
しきりに家族への不満を話されていたのを
覚えています。
最初はうんうん、そうなんだねと
話をずっと聞いていたのですが
話せば話すほどに
おばあちゃんは興奮してしまうことに
気づきました。
どうしたらおばあちゃんの心を
安心させてあげられるかな…。
私はおばあちゃんの話を聞きながら
「ちょっと横になってくださいね~」
と声をかけ、
全身のマッサージをしてみることにしました。
最初に、手や足のマッサージ。
お腹や背中、腰、肩や首。
いつも体に力が入っているおばあちゃんは
体のあちこちが固くなり、
そして冷えていました。
マッサージを始めると、とたんにおばあちゃんは
しゃべるのをやめ、ふにゃふにゃになって
頬をピンクにして、うとうとし始めます(*^^*)
最後に頭皮のマッサージをしていると、
そのとき、見えたんです。
「見えた」と言っていいのか分からないけれど、
私のおでこの真ん中が
ピカッと光ったような気がして
まるで映画を見るみたいに
頭に直接、ビジョンが伝わってきました。
おばあちゃんは、小さな女の子だったんです。
まだ2歳くらいの、ピンクの服を着た女の子が
うずくまってわんわんと泣いているのが見えて
そのとき思ったんです。
おばあちゃんは、お婆ちゃんじゃなくて、
こんなに小さな女の子だったんだって……。
おばあちゃんは
この広い家の中で、いつも一人でした。
お嫁さんの愚痴を言っていた
おばあちゃんに見えたのは
さみしくて、不安で
誰かに甘えたくて泣いていた、
小さな女の子だったんです(*^^*)
人は、生きていれば
それだけ歳をとっていきます。
色んな事を経験して、知識も増えていく。
でも、心の奥の奥の部分は、変わらない。
子供のころに甘えられなかった気持ち。
さみしくても我慢してしまった気持ち。
満たされなかった心は、
いつまでも泣き止まない子供のまま
ずっと、その人の中にある…。
私たちは生きている上で
目に見えるものや、聞こえた言葉を
そのまま信じて、自分的に解釈して
しまいがちだけれど
目に見える景色の奥にある真の部分を
見逃してしまいがちなんだなって思うんです。
そのことに気付いて、ふと見ると
おばあちゃんは、なんとも気持ち良さそうな顔で
ぐうぐういびきをかいて寝ていました。
お婆ちゃんは不思議な顔で言いました。
「あんたは、魔法が使えるの?」
その表情が可愛らしい。
いいえ、とだけ答えたら
おばあちゃんは私に
手の平に乗るだけの、あめ玉をくれました。
デイサービスの職員にも、
みんなに配るんだそう(笑)(笑)
おばあちゃんはその後まもなく
施設に入りました。
ときどき顔を見に行くと、
楽しそうにお友達とお菓子作りをしながら笑う
おばあちゃんの姿がありました。
まるで、子供みたいな笑顔で!!