見出し画像

【特別授業】自由権と死刑制度は矛盾しない?

自由権と死刑制度について考える

自由の女神:みなさん、こんにちは。今日は少し難しいテーマだけど、自由権と死刑制度について一緒に考えてみましょう。私、自由の女神と一緒に、弁護士の佐藤さん、そして中学生の田中さんが参加してくれるわ。どんな疑問でも大丈夫よ。一緒に学んでいきましょう。

佐藤弁護士:はい、よろしくお願いします。難しい話もあるかもしれませんが、できるだけわかりやすく説明していきますね。法律の専門家として、憲法や人権について日々考えています。今日はみなさんと一緒に、自由権と死刑制度について深く考えられることを楽しみにしています。

田中さん:よろしくお願いします。ちょっと難しそうですけど、頑張って理解したいと思います!私、最近学校の社会の授業で日本国憲法について勉強し始めたところなんです。自由権っていうのは基本的人権の一つだって習いました。

自由の女神:そうね、田中さん。難しくても一緒に考えることが大切なの。自由権は確かに基本的人権の重要な部分よ。さて、佐藤さん、まずは自由権と死刑制度の関係について、簡単に説明していただけますか?

佐藤弁護士:はい。自由権というのは、みなさんの自由や権利を守るものです。例えば、好きな本を読んだり、自分の意見を言ったりする自由がありますね。その中でも最も大切なのが、生きる権利です。これは「生命権」とも呼ばれています。

一方で、死刑制度は、国が人の命を奪う制度です。つまり、最も基本的な自由権である生命権を、国家が剥奪するものなんです。だから、自由権との関係でよく議論になるんです。

田中さん:えっと、でも憲法で自由権が守られているんじゃないんですか?どうして死刑制度があるんですか?ちょっと矛盾しているように感じます。

佐藤弁護士:いい質問ですね。実は、日本の最高裁判所が、死刑制度は憲法に違反しないと判断しているんです。憲法第31条には、「法律で決められた手続きによらなければ、命や自由を奪われない」と書いてあります。つまり、法律で正しく手続きを踏めば、死刑も認められるという考え方なんです。

ただ、これは簡単な問題ではありません。世界の多くの国々が死刑制度を廃止している中で、日本がまだ死刑制度を維持していることについては、国際的にも議論があります。

自由の女神:なるほど。法律で決められた手続きを守れば、命を奪う刑罰も認められるという解釈なのね。でも、田中さん。何か疑問はない?

田中さん:はい。でも、一度死刑にしちゃったら、もう取り返しがつかないですよね。もし間違えて罪のない人を処刑しちゃったら...怖いです。学校で習った「冤罪」というやつですよね?

佐藤弁護士:その通りです。「冤罪(えんざい)」とは、罪のない人が罰せられることを言います。それが死刑制度に反対する人たちの大きな理由の一つなんです。死刑の場合、後から無実だとわかっても、もう命は戻ってきません。

これは本当に重大な問題です。例えば、DNA鑑定技術が発達したことで、過去の判決が覆されるケースもあります。しかし、もし死刑が執行されていたら、もう取り返しがつかないんです。

自由の女神:そうね。以前、免田栄さんや袴田巌さんという方の冤罪事件について学びましたね。彼らは幸い、後から無実だとわかりました。でも、もし死刑になっていたら...と考えると本当に怖いわ。

田中さん:え!その人たちのことを詳しく教えてください!

佐藤弁護士:はい。免田栄さんは1948年に起きた強盗殺人事件で逮捕され、1950年に死刑判決を受けました。しかし、彼は一貫して無実を訴え続け、1983年に再審で無罪が確定しました。実に33年もの間、冤罪によって自由を奪われていたんです。

袴田巌さんの場合はさらに長期間でした。1966年に強盗殺人放火事件で逮捕され、1968年に死刑判決を受けました。そして、なんと2014年に再審開始が決定されるまで、48年間も拘束されていたんです。

田中さん:えっ!そんなに長い間...。でも、どうしてそんな間違いが起きちゃうんですか?

佐藤弁護士:その理由はいくつかあります。例えば、取り調べの際の自白の強要や、証拠の扱いの問題、そして当時の科学捜査技術の限界などが挙げられます。

これらの事例から学んで、今では取り調べの可視化(録画)やDNA鑑定技術の向上など、冤罪を防ぐための取り組みが進められています。

田中さん:う〜ん、怖いなあ。じゃあ、どうして死刑制度をなくさないんですか?

佐藤弁護士:死刑制度を続けるべきだという意見もあるんです。例えば、とても重い罪を犯そうとする人を止める効果があるとか、被害者のご家族の気持ちを考えて必要だという意見があります。また、世論調査では、まだ死刑制度に賛成する人のほうが多いんです。

2019年の政府の世論調査では、約80%の人が「死刑は場合によっては止むを得ない」と回答しています。ただ、この数字の解釈も難しくて、「本当に必要な場合だけ」という意味合いも含まれているんです。

自由の女神:ここで大切なのは、みんなの自由や権利を守りながら、同時に社会の安全も守ること。そのバランスをどうとるかが難しいのよ。

田中さん:うーん、本当に難しいですね...。でも、私たち中学生も、こういう問題について真面目に考えたほうがいいんでしょうか?

自由の女神:もちろんよ、田中さん。この問題に絶対的に正しい答えはないかもしれないけど、みんなで考え、話し合うことがとても大切なの。それが、みんなの自由や権利を大切にする社会をつくることにつながるわ。

実は、世界人権宣言という国際的な約束事があって、その第3条で「すべての人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する」と定められているの。これは、生きる権利がとても大切だということを世界中の国々が認めているってことよ。

佐藤弁護士:そうですね。それに、世界の様子も考える必要があります。現在、世界の約70%の国が法律上または事実上、死刑を廃止しています。特に先進国と呼ばれる国々では、死刑廃止が主流になっています。

例えば、ヨーロッパのほとんどの国では死刑が廃止されていて、EUに加盟するためには死刑廃止が条件になっているんです。アメリカでも、州によって対応が分かれていて、23の州で死刑が廃止されています。

田中さん:世界のことまで考えないといけないんですね。でも、どうやって考えればいいんでしょう?

自由の女神:そうね、田中さん。世界のことを考えるのは難しいかもしれないけど、例えば、ニュースを見たり、先生や家族と話したりするのも良い方法よ。少しずつ、自分なりの考えを持つことが大切なの。

佐藤弁護士:そうですね。また、図書館で本を読んだり、インターネットで調べたりするのも良いでしょう。ただし、インターネットの情報は正しくないこともあるので、複数の情報源を見比べることが大切です。

例えば、国連のウェブサイトや、アムネスティ・インターナショナルという人権団体のサイトなどで、世界の死刑の状況について知ることができます。また、日本弁護士連合会のサイトでも、死刑に関する様々な情報が公開されています。

田中さん:なるほど。少しずつ勉強していけばいいんですね。でも、死刑制度について考えると、犯罪被害者のご家族のことも気になります。彼らの気持ちも大切にしないといけないんじゃないでしょうか?

佐藤弁護士:とても大切な視点ですね、田中さん。確かに、犯罪被害者やそのご家族の気持ちは非常に重要です。彼らの悲しみや怒り、苦しみを社会全体でどう受け止めていくか、これも私たちが考えなければならない課題の一つです。

被害者支援の充実は、死刑制度の議論と並行して進めていく必要があります。例えば、経済的支援や心理的なケア、そして加害者からの二次被害を防ぐための制度など、様々な取り組みが行われています。

ただ、被害者やそのご家族の中にも、死刑に反対する方々もいらっしゃいます。「命の大切さを訴えるためには、加害者の命も奪うべきではない」という考え方です。この問題の難しさを表しているともいえますね。

自由の女神:そうね。被害者の方々の気持ちを大切にしながら、同時に加害者の人権も考慮する。これが、民主主義社会における難しさでもあり、大切なポイントなのよ。

私たちは、被害者の方々の痛みを理解しようと努めながら、同時に「人の命を奪うこと」の重大さについても考え続ける必要があるわ。簡単なことではないけれど、これこそが成熟した民主主義社会の姿なのよ。

田中さん:うーん、本当に難しいですね...。でも、少しずつ考えていけば、いつか自分なりの答えが見つかるかもしれないって思えてきました。

自由の女神:その通りよ、田中さん。こういった難しい問題に、完璧な答えはないかもしれないわ。でも、みんなで話し合い、考え続けることが大切なの。それが、より良い社会をつくることにつながっていくのよ。

佐藤弁護士:そうですね。田中さんのような若い世代が、こうした問題に関心を持ち、考えようとしてくれることがとても大切です。これからの社会を作っていくのは、みなさんなんですから。

ところで、死刑制度以外にも、自由権に関わる重要な問題がたくさんあります。例えば、プライバシーの権利や表現の自由の問題。インターネットが発達した現代では、これらの問題も新しい形で現れています。

田中さん:へえ、そうなんですか?例えばどんな問題があるんですか?

佐藤弁護士:そうですね。例えば、SNSでの表現の自由と、他人の名誉やプライバシーをどう守るかというバランスの問題があります。また、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための行動制限と、移動の自由をどう両立させるかという問題もありました。

これらの問題も、みなさんの日常生活に深く関わっています。だからこそ、自由権について考えることは、とても身近で重要なことなんです。

自由の女神:そうね。自由権は、決して遠い世界の話じゃないの。みなさんの毎日の生活の中にも、たくさんの自由権に関わる場面があるわ。それを意識しながら生活することで、もっと自由権について深く理解できるはずよ。

田中さん:なるほど!死刑制度のことだけじゃなくて、もっといろんなことを考えないといけないんですね。ちょっと大変そうだけど、でも面白そう!

自由の女神:その通りよ、田中さん。自由権について考えることは、時には大変かもしれないけれど、とてもやりがいのあることなの。みんなで考え、話し合い、そして行動することで、より良い社会を作っていけるわ。

田中さん:はい!難しいけど、これからも考え続けたいと思います。でも、まだちょっと気になることがあります。死刑制度をなくした国では、どうなったんでしょうか?

佐藤弁護士:いい質問ですね。死刑を廃止した国々の多くでは、最高刑として終身刑を導入しています。例えば、ドイツでは1949年に死刑を廃止し、最高刑は終身刑となっています。

興味深いのは、死刑を廃止しても、凶悪犯罪が増えたという明確な証拠はないんです。むしろ、死刑の抑止力はあまり効果がないという研究結果もあります。

田中さん:へえ、そうなんですか。でも、終身刑って一生刑務所にいるってことですよね?それって人権的にどうなんでしょう?

自由の女神:鋭い指摘ね、田中さん。確かに、終身刑も人権の観点からは問題がある可能性があるわ。例えば、ヨーロッパ人権裁判所は、「更生の可能性」を完全に奪う刑罰は人権侵害だと判断しているの。

佐藤弁護士:そうですね。そのため、多くの国では定期的に仮釈放の可能性を審査する制度を設けています。つまり、刑務所の中での更生の努力次第で、社会に戻るチャンスがあるんです。

これは、人間の可能性を信じ、更生の機会を与えるという考え方に基づいています。同時に、被害者や社会の安全も考慮しながら、慎重に判断が行われるんです。

田中さん:なるほど...。本当に簡単には答えが出せない問題なんですね。

自由の女神:そうよ、田中さん。でも、こうして一つ一つ疑問を持ち、考えていくことが大切なの。それが民主主義社会を支える市民としての第一歩よ。

佐藤弁護士:本当にその通りです。田中さんのような若い方が、こうした難しい問題に真剣に向き合ってくれることがとても嬉しいです。これからも、いろいろな角度から物事を見て、考え続けてください。

自由の女神:素晴らしいわ、田中さん。こうして真剣に考えてくれて、私もうれしいわ。みなさん、今日の話し合いはいかがでしたか?自由権と死刑制度の問題は、簡単には結論が出ないけれど、こうして話し合うことで理解が深まりますね。

これからも、この問題について考え続けてほしいわ。そして、自分の意見を持つだけでなく、他の人の意見にも耳を傾けることを忘れないでね。それが、みんなの自由と権利を大切にする社会をつくることにつながるのよ。

田中さん:はい!今日学んだことを、友達にも話してみようと思います。きっと、みんなで話し合えば、もっといろんな意見が聞けると思うんです。

佐藤弁護士:それは素晴らしいアイデアですね。友達と話し合うことで、新しい視点に気づくかもしれません。ただ、この問題は人それぞれ強い意見を持っていることもあるので、お互いの意見を尊重しながら話し合うことが大切です。

自由の女神:その通りよ。違う意見を持つ人を尊重し、対話を続けることも、民主主義社会では大切な態度なの。

今日はみなさん、本当にありがとうございました。これからも、自由や権利について、そして社会の仕組みについて、興味を持ち続けてくださいね。一人一人の小さな関心が、より良い社会をつくる大きな力になるのよ。

そして、難しい問題に直面したとき、今日のようにみんなで話し合い、考えを深めていってください。それが、自由で公正な社会を作り、守っていく力になるのよ。

みなさんの未来が、自由と希望に満ちたものになることを、心から願っています。これからも、頑張ってね!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?