友よ
二十代のどこからか、 小説をあまり読まなくなって
梨木香歩さんの本も 『りかさん』 で止まっていたのが
加藤さんの 個展 日記帳をきっかけに 再び梨木さんの本を読み始め
残すところあと一冊、 『村田エフェンディ滞土録』 読み終わる
本を、 読書をこえた体験に 胸が焼かれ ぼうぼうと涙が出る
この作品が、 『家守綺譚』 とつながっていること知らずに読んでいたから
また今朝見た夢ともあいまって ほうぼうに点在していた自分の思いが
開いた傘を閉じるよう 一本の軸なるものとひとつになる
朝の四時ごろ、いちど目が覚めて
ふっと頭に浮かんだものは ガザで殺されたひとの肉体がばらばらにつめ
こまれた ビニール袋 いったいどんな世界なのかを 思いながらまた眠り
そうして見た夢は 現実そのままを反映するような 悪夢の極みで
学校の視聴覚室、 誰かが見つけた 黒いボストンバッグ その中には
呪いを受けた 切断された肉体が 大きなビニール袋に入れられている
みんながこの場所にいることに気づいた悪魔がもうすぐ来ると
そのバッグを持って そこにいるみんな逃げようとするけど 校舎からは
誰も外へ出れないよう、 塞がれていて 逃げきれないぶん 隠れるしか
できない そうして迫る悪魔の動きや洞察は、 その残虐性に対して愚鈍で
みんなパニックになることなく 学校内、 安全な場所に身をひそるめる
避難していた女性がエマワトソンで、 それはなんでなのかわからないけど
ガザのひと覚めることないままの悪夢を わたしは夢で、 同じではなくても
垣間見るよう体験し 袋に入った肉体を目にして感じたものは 目覚めても
消えないでいて この夢は 絶望的な現実で それでもそこで、 そのなかも
笑顔を失わずに生きる方を向くひとたちの存在に、 夢の中、 希望を思った
ガザや世界で起きている殺戮 止まらない 止められないその意味
木が切られ 被災地は放っておかれる 切り捨て御免とも思っていない
いまこの日本に感じているもの 原爆の日、 欧米各国の無思慮な態度表明
導火線に火がつけられたイランの応戦 欺瞞でしかない平和の祭典
そうして読んだ 『村田エフェンディ滞土録』 この物語と対をなす作品が
わたしには、 それは並行世界のように心にあった、 そっちこそが現実にも
思う 『家守奇譚』 続く 『冬虫夏草』 で示された警告 その世界に見た
ものが わたしのこの現実へと すべてが 世界が 今日読み終わった物語
そのなかの ディミィトリスの言葉によって ひとつになる
本の中で村田さんが泣いたとき 一緒の想いでわたしも泣いた
ガザで起きていること 関心無関心をこえてみな わたしたちはそこにいる
貯水タンクに血が混じれば みんな同じにその水を飲む ひとが焼かれる
空気をみんな吸い 世界のどこかと自分のいまは すぐそば結びついている
なんで石川の復興がこんなにも進まないのかを思えば またあらゆるものことに それをわかる どこを見ても 何を見ても
二十数年の間にうまれた梨木さんの作品を わたしはごくごくと飲みほす
ように読み しみわたる、 冷たくてやわらかな 澄んだ水の喜びに浸っては
それでも 表紙の佇まいに距離と難しさを感じ 何となく手がのびずにいた
残るひとつの未読作品が あとのすべての本をつなぐ傘の軸の骨のよう
それぞれの物語をまとめ そのどの物語にもにある その骨は 読むわたし
にも きっとこの世の生きるすべてのひとのなかにもあると 信じたい
鸚鵡がとても 切なかった
生きるもの この世にいないものすべて ともにある