七夕の短冊に想いを込めて
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七夕、7月7日、人々が短冊に願いを込めて笹に飾る日
これは、七夕に迫る日の夜、小さな仕立て物屋さんで起こった、少し不思議なお話
お空の上の、さらに上
そこには星たちの世界が広がっています。
星たちは、人間の世界をのぞいたり、照らしたり。
流れ星が願い事を叶えるのも星たちのしわざです。
星の世界に住む琴音(ことね)は、織姫星(おりひめぼし) ベガの使い。
1年に1回、七夕の短冊に書いてあるお願い事を叶えるのが仕事です。
でも、琴音は自分の仕事について悩んでいました。
人間たちは、時を経るごとに、技術の力で
自分達だけでなんでもできるようになっていく。
それでも、短冊に書かれている願い事を叶えているのはなぜだろう。
私の仕事って本当に必要なのかな?
そう思い始めた琴音は、次の七夕までの1年間、人間に姿を変えて
人間の世界で、一人の人間として暮らすことにしました。
自分の仕事の意味を知るために。
琴音は、はた織りの技術を生かして、洋服の仕立て直し屋さんで働き始めました。
人間と一緒に働き、暮らすことで何かわかることがあるんじゃないかと。
そう思いながら、生活を続け、七夕の日が迫ってきました。
今年も笹があちらこちらで飾られ、短冊にはお願い事が書かれています。
そんなある日の夜のことです。
閉店間際、男性客のケンジが、琴音の働く仕立て直し屋さんにやってきました。
「すみません。まだ開いてますか?」
急いで来たケンジに、琴音は優しく答えます。
「いらっしゃいませ。まだ大丈夫ですよ」
「良かった。スーツを直していただきたいんです。」
「かしこまりました。お急ぎですか?」
「はい。週末に友人の結婚式があって」
「それは急がないといけませんね。スーツの生地なら、店に用意がありますので、すぐに直せますよ」
「ありがとうございます!」
「すぐに取り掛かりますので、おかけになって下さい。」
「はい。」
ケンジは、受付表に名前を書いて、お店にある椅子に腰掛けました。
琴音は作業に取り掛かります。
お店には、琴音の織った生地がたくさん飾られています。
そして七夕の笹や飾りも。
「綺麗な生地がたくさんあるんですね」
「洋服直すだけじゃなくて、空き時間で生地を作ったりしてるんですよ」
「素敵だなあ」
「ありがとうございます。そう褒めていただくこともあまりないので。」
琴音は、機織りに興味を持ってくれて嬉しい気持ちになりました。
「もうすぐ七夕ですか」
「お客様は何か短冊にお願い事を書かれましたか?」
「いえ、ダメですね。仕事が忙しくて、こういう行事には全然。」
「そうですか。今どき、お願い事なんかしなくても、なんでもできる世の中になりましたからね」
「そうですね。便利になりましたよね。」
琴音は、1年間人間界に降りてずっと知りたかったことをケンジに聞いてみることにしました。
もうすぐ7月7日。七夕を迎える前に、自分の役目である短冊に書かれている願い事を叶える意味は何なのか聞こうと。
「...こんな時代でも、人がお願い事をするのはなんででしょうか。」
「えっ?」
急に聞かれたケンジは少し驚きます。
琴音はゆっくりと話を続けます。
「スマホ一台あれば、欲しいものはすぐに買える。自分の健康は自分で管理できる。知りたいこともすぐ知ることができる。それでも、七夕にお願い事をする。そんな願いに意味はあるのでしょうか?」
ずっと気になっていたことです。もしかしたら人間にとって七夕はもう形だけの意味のない行事かもしれません。琴音は少し怖くもありました。
ケンジは少し考えてから答えます。
「そうですね...私は七夕は素敵な行事だと思いますよ」
ケンジは七夕の笹に近づき、笹に飾られた短冊を手に取ります。
「ほら、この短冊のお願い事。」
「クラスの友達と仲良くなれますように」「おばあちゃんが長生きできますように」「将来、消防士になれますように」
「お願い事って、自分の想いを確認する作業なんだと思うんです。」
少し想像もしていなかったケンジの答えに、琴音は少し戸惑います。
「想いを確認?」
「はい。このお願い事のように、当たり前に思っているけど、短冊に書くことで表に出てくる、自分の想いに気付かされることってありますよね。だから、こうなりたいと思ったり、他の誰かを想ったりする限り、人は願い続けると思うんです。だから、七夕は年に一度の願い事をする大切な機会なんです。」
願いを叶えてきた琴音にとって、人にとって願いとは、自分の想いを確かめることだという考え方に触れ、少し考え込みました。
「想いを願いに...」
「そう。時代が変わって、人が変わっても願い事をすることは変わらない、私もなんだか願い事が素敵に思えてきました笑」
「そうかもしれませんね」
願い事をする、ということが時を経ても決して無駄なことではない、大切なことなんだと思うと、琴音は少し気持ちが楽になりました。
少し時間が経ち、琴音はスーツの手直しを済ませました。
「はい。終わりました。綺麗に直せましたよ」
「助かりました!遅くまでありがとうございます。」
「いえ、お役に立てて何よりです」
「本当にありがとうございました。では、遅いので私はこの辺で」
ケンジは店を出て、歩き始めました。
琴音も何だか、もやもやが解けてすっきりした気持ちになりました。
今年ももうすぐ七夕です。たくさんの願い事が星の世界まで届きます。
まもなく天の上に戻らなくてはなりません
琴音は、七夕の大切さに気づかせてくれたケンジを追いかけます。
そして、呼び止めます。
「ケンジさん」
ケンジは、振り返ります。
そこにいたのは、琴音でした。
それも人間の姿ではなく、元の織姫星 ベガの使いの姿の。
「ありがとう。あなたと話せてよかった。私は大切なことに気づくことができました」
「大切なこと...?」
「黙っていてすみません。実は、私は織姫星ベガの使いなのです。」
「織姫星ベガの使い?」
ケンジは驚きます。
「そう。私の役目は、短冊に込められた願い事を叶えること。でも私は、たくさんの願いを叶える中で、自分のやっていることに意味を見いだせなくなっていました。でも、こんなことに悩む必要なんてなかったんです。人の想いに応える使命なんて、とっても素晴らしいことじゃないですか。」
琴音のスッキリした表情を見て、ケンジは笑顔で返事をします。
「そうですね」
「また私は役目を果たせます。ぜひ、ケンジさんも短冊に、大切な人への思いをお願い事にして書いてくださいね。楽しみにしています。」
「はい」
「それでは、私は空へと帰ります。ありがとう」
琴音は、空へと帰っていきました。
七夕、織姫星と彦星の力で願いを叶え、人々を悪いものから守る、古くから伝わる行事。
琴音はケンジから、人の想いを形にすること、使命の大切さを教えてもらった。
そして、今年も短冊に書かれた願い事を叶えていきます。
大切な人へ想いを込めて、願いを天に届けていく
7月7日、大切な想いを受け取って、願いを叶えていく
今年の七夕も素敵なことがありますように
最後までご覧いただきありがとうございました。
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