沈丁花の香り

夜風に漂う沈丁花の香りで、可愛がってもらっていた父方の祖母に、何歳頃だったか、祖母の庭にあった立派な沈丁花の木を誕生日にもらった事を思い出す。

自分より大きな、花が満開の沈丁花。

嬉しくて日に何度も水やりをして、他のプランターや植木鉢の観葉植物たちにもついでにたっぷり水をやり、庭用のサンダルと足を泥だらけにして、冬眠から目覚めたガマガエルをバケツに獲って遊んでいた、やんちゃな就学前の小さい春先の思い出。

そこから二十年以上経った今もなお、冬の耐え難い寒さに凍え疲れ、冷たい雨にうんざりして、春前の嵐は来ても気温が高くなる事がなかなか無い、春が待ち遠しく感じる2月の終わり頃、沈丁花の花は住宅街の隙間を縫うように春の便りとその思い出を、他より強い花の香りに乗せて漂ってくる。

「そろそろハナニラと菜の花と桜が、街や公園のあちこちに広がり、植え込みのツツジも咲かせてくれるから、もうひと辛抱だよ」と。

幼い頃泣きじゃくってた自分を宥めていた祖母のような優しさがその香りにはずっと息づいている。

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