エアコンの風に吹かれて

退院が決まった。
昨日、主治医からそれを告げられる。ははぁ、さいですか、ありがとうございます、とペコペコしつつ診察室を出ると、入る前とはなんだか病棟の空気が変わったような。いや、というよりは自分の感じ方が変わったんであろう。
些細な言葉や些細な出来事で、自分が立っている場所や環境の見方であったり感じ方であったりというのはガラリと変わるものだ。

病棟に戻ってベッドにゴロリと寝転がって、天井をしばしじっと見つめては、退院の2文字を頭に浮かべて天井に飛ばした。のも束の間、直ぐに浮力を失い真っ逆さまに落ち、おれの体にズシリと音を立ててぶつかり、そのうち内部に沈んでいった。
気が重いのだ。もちろん退院自体は嬉しい。退院出来るに越したことはないのだけれど、退院してからやる事がとにかく大量に待っている。
何しろ入院なんてまさか考えてもない出来事だったから、それにより色々と予定が狂ってしまったのも確かだ。とはいえ、自業自得なので嘆いても仕方ないのだが。
出来れば手放しで退院を喜びたいものだが、これからを思うとそうは行かない。暑さも手伝ってげんなりする。しかし、やるしかないんである。

「…自愛。人間これを忘れてはいかん。結局、たよるものは、この気持ひとつだ。」

先日読み返した太宰治「新樹の言葉」の中の登場人物の台詞を思い出す。
退院する自分への餞にすると共に、しばらくはおれの中でこの言葉が頼りに、或いは御守りに、また或いは支えになるのだろう。
まあまずはとりあえず、残りわずかの入院生活を、相変わらずのらりくらりしつつ無事に終えたいものである。


退院したらビール飲みながら散歩したい。夏。

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