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業火の街 3

【街の復興シーン:ナレーション】
この火災の結果、市議会は早速次のことを決議した。

・今後、屋根が焼失した家屋はスレート葺きかタイル葺きかにすること。
・既存の藁葺き屋根や茅葺き屋根については、十年以内に補強措置を施したタイル葺きかスレート葺きに取り替えること。
・なお、各ロッドスレートについて40スチバー、または各ロッドタイルについて24スチバーの補助金を付与するものとする。

なにしろ、もたもたしていると、またぞろ安価な萱や藁で急場しのぎの屋根を葺くものが続出しかねないというので、その決議は実に素早かった。

ただし、スレート葺きやタイル葺きの奨励金を捻出するために、ビールとワインの消費税をアップすることになったため、酒の値段が急騰。
おまけに、そもそもワイン、ビールとも在庫は火災のせいでほとんど払拭、どうにか飲める酒も味はがた落ち。
街の外から入ってくる酒類は馬鹿高くて、その辺の市民にはとてもじゃないが手が出ないという有様。
そこへつけこんで、劣悪な、本来なら捨てるような樽底ワインまでかき集めて高く売りつけるという手合いまで登場。
街の呑兵衛連中は不満ブーブーだった。

【街の居酒屋】
不景気な仏頂面をして不味そうに酒を飲む客、やけくそめいた陽気さで調子の外れた唄を歌う酔っ払いグループ、無気力そのものの様子でちびりちびりと思い出したように酒をすする老人たち…、そんな中に、いやにとんがった勢いで入ってきてワインを注文し、グイっと口に流し込んだ客A、いきなり傍らの床にぺッ!と吐き出す。

客A「なんだ、こりゃ? 酸っぺえじゃねえか!」
客B「そうなんだよ、相棒。今時のこの街のワインは、めっぽう酸っぱいのさ」
客A「なんだ、てめえは? 俺はてめえなんぞの相棒になった覚えはないぞ」
客B「あんた、どこからきなすった?」
客A[どこから来ようと、てめえの知ったこっちゃねえわ。そういうあんたは、この街のお方かい?」
客B「いや、わっしもよそ者でさ。ただ、おたくよりゃちとばかり先にここへやってきたようですな」
客A「ふん!」そっぽを向く。
客B「ま、そうカリカリしなさんな。あんた、こういう諺を知ってなさるかい?」
客A「諺? どんな?」
客B「取れない葡萄は酸っぱい、だが、酸っぱい葡萄酒は飲めなくもない」
客A「なんだ、そりゃ?」プッと噴き出してしまう。「おめえ、意外と話せる野郎だな。気に入った、一杯おごるぜ、飲みな! おい、ねえちゃん、こちらのお方にワインを一杯やってくんな! といっても、どうせ酸っぱい葡萄酒だろうがな。わっはっは」
客B「ははーっ、ありがたく頂戴いたしまする。あははは」急に声を落として、「あんた、実はわっし、一度あんたに折り入って話ができればと思っておったところなのじゃが、いかがかな?」
客A「ほうほう? 俺のことを知ってたのかい?」
客B「もちろん。蛇の道はなんとやらといいますでな」と、テーブルの下に片手を落とし、クイッと指を曲げて見せる。「こちらの方では、なかなかの腕とお見受けいたしましたぞ」
客A「ほお…、おもしれえ。その話とやらをきこうじゃねえか」
客B「そうこなくちゃ。実は、あっし、急に相棒がいなくなって、ちょいと困ってるんでさ」
客A「相棒?」一瞬きょとんとするが、すぐにしたり顔でうなずき、「なるほど、そういえば、あんたの顔、どこかで見たような気がすると思ったら、あのイカサマ…」
客B「シッ!」
客A「おお、悪かった悪かった。話は読めたぜ。具体的な打ち合わせは、飲んだ後でということで」
客B「ところで、あんた、今度からはこんな樽底ワインなんかじゃなくて、もっとうまいワインが飲み放題になりますぜ」
客A「へへっ、そうこなくちゃ。乾杯といこうぜ」
二人、馬鹿笑いしつつ乾杯。

映像プロモーションの原作として連載中。映画・アニメの他、漫画化ご希望の方はご連絡ください。参考画像ファイル集あり。なお、本小説は、大航海時代の歴史資料(日・英・西・伊・蘭・葡・仏など各国語)に基づきつつ、独自の資料解釈や新仮説も採用しています。