生き物らしくあれる居場所をどうつくれるか? - for Citiesと32名のアーバニストの半年間の挑戦(前編)
2023年9月〜2024年3月、都市体験のデザインスタジオ「for Cities」とYAUが連携し、大丸有エリアのまちを自分たちの手でつくる人材(アーバニスト)を育成・発掘するプログラム「Urbanist Camp Tokyo」を開催しました。「再野生化」というテーマに集った32名の参加者と、「身体感覚」「生命力」「人間と人間以外の関係性」「土地との関係性」といったキーワードのもと、リサーチ・提案・効果検証を実施した様子を、前後編に分けてfor Citiesの石川と塚本がレポートします。
文=for Cities(石川由佳子 / 塚本亜里菜)
写真=Daisuke Murakami / Aiko Oka
◉Urbanist Camp Tokyo 2023ダイジェストムービー
◉Urbanist Camp とは?
Urbanist Campは、for Citiesが主催する、これからの「アーバニスト=都市の暮らしを創造していく人」に必要なスキルを身につけるための学びと実践の場です。多様化し、課題がより複雑になっていく都市の未来を考えていくために必要なスキルを、座学と実技を組み合わせたプログラムを通じて実践的に学びます。Urbanist Camp Tokyoでは、アートによる都市介入を実践するYAUと共に、大丸有を舞台とした6ヶ月間のプログラムを実施しています。
for Citiesが考えるアーバニストに必要な6つのスキルとは、以下を指します。
観察力/リサーチ力
視点の転換
表現力
時間軸のデザイン
参加型のデザイン
コミュニケーションデザイン
◉テーマは「Re-wilding/再野生化」
Re-wilding「再野生化」/生き物らしくあれる居場所をどうつくるか?
今回のプログラムのメインテーマは「人間」と「人間以外」の関係性をどのようにもう一度都市の中で繋ぎ直せるか?という問いです。かつて野原だった大地の上に、人間の創造力によって巨大なまちが出来上がった大丸有エリア。一方でそれは、人間や動物の身体性との距離を作ってしまったようにも思います。
昨今、世界的にも注目され始めている「再野生化」という概念には、効率的に綺麗に整えられたまちの中で、私たちが本来もっている身体感覚、生命力を取り戻していくという思いが込められています。また、その背景には人間以外の生物との共生、つまりまちの生物多様性を育むことを目指しています。今回のプログラムでは、人間と人間以外の生き物や土地との関係性をもう一度繋ぎ合わせる、再野生化のためのインターフェースをまちに仮設的に実装することを実施しました。プログラムは3つに構成され、第1期は講義とリサーチ・アイディエーション、第2期は制作、第3期はまちでの実装・検証を行いました。
◉プログラム講師・メンター
■デザイン・制作パートナー
デザイン・アイデアを考える上でEugene Soler(建築家・アーティスト) によるメンタリングを実施し、参加者から出たアイデアを元に、実装に向けた設計をEugene主導で行いました。
■効果検証パートナー
実際のまちで行う実証実験の効果検証を行うパートナーとして、東京大学特任助教の山﨑先生に協力いただき、アンケートと観察調査を行いました。
山崎嵩拓|東京大学総括プロジェクト機構特任講師
1991年生まれ。道産子。博士(工学)。東京大学特任助教、神戸芸工大助教を経て現職。探求している分野は「アーバンネイチャー:都市における人と自然の関わり合い」。現在の研究キーワードは、緑の指標開発、AIカメラ、鳥のさえずり音声解析、Park-PFIの公共性、公共空間利用とウェルビーイング、保育園児のお散歩など。編著書に『タクティカル・アーバニズム: 小さなアクションから都市を大きく変える(学芸出版社)』。
■ゲスト講師(敬称略)
テーマに沿ったゲスト講師をお招きし、レクチャーやワークショップを行いました。
景浦由美子|ムーブメント・メディスン講師
ボディーワーク「ムーブメント・メディスン〜自分の身体と世界を繋ぎ直そう〜」
原田芳樹|ランドスケープデザイン/都市生態学
テーマレクチャー「再野生化 / Re-wildering」について、世界的潮流や学術的な基礎知識を踏まえつつ、わたしたちなりの再野生化のあり方について考える。
足立泰啓|NHK「ダーウィンが来た!」「ワイルドライフ」プロデューサー
テーマレクチャー「生き物から見た都市とは?」
松井宏宇|樹木医・一般社団法人 大丸有環境共生型まちづくり推進協会 / エコッツェリア協会
テーマレクチャー「人間以外の生物から見る都市の姿と、共生のためのデザイン」・大丸有生き物ツアーの実施
◉開催記録
DAY1 〜私たちの「再野生化」について考えよう〜
自然に一番近い自分の身体と向き合うために景浦由美子氏による、踊る瞑想「ムーブメント・メディスン」のワークショップからスタート。皇居前の芝生で、裸足になり、自分の体の細部やそことつながる大地の流れを感じとりました。後半は、ランドスケープデザイナー/都市生態学者の原田芳樹氏によるレクチャーを通して、そもそも「再野生化」とは何か?その定義や各国の事例を交えながら考えました。誰のための「再野生化」なのか?私たちが求める「野生」とは何なのか?といった、さまざまな視点が生まれました。
DAY2 〜人間以外の生物から見る都市の姿〜
2日目は人間以外の生き物から都市を見ることをテーマとして探求。レクチャーには、NHK番組「ダーウィンがきた!」のプロデューサーの足立泰啓氏を招き、都市に生息する生物の視点で彼らの生態系や生き残り戦略について学びました。また、今回のプログラムを共に設計しているアーティストのEugene SolerによるEmphasy(共感)をテーマにしたワークショップも実施。
最後に大丸有環境共生型まちづくり推進協会 / エコッツェリア協会の松井宏宇氏による大丸有エリアの生態系の実態等についてお話しいただきました。2000種類以上存在するという大丸有の生物たち。都市の中でそうした数多くの生物と人間が共生するにはどうすれば良いかについてディスカッションしました。
DAY3 〜足元にある土地の解像度を上げる〜
レクチャーパートを経て3日目からはリサーチフェーズに入りました。4人1チームで有楽町の「再野生化」のための提案を考えていきます。最初のテーマは、今いる大丸有の「土地の解像度を高める」こと。この土地を構成している要素を採集したり、フロッタージュ(凹凸の上に紙を置き、鉛筆などでこすることで紙に写し取る画法)の手法を用いて、壁面や床面などまちのテクスチャを調査・分析し、生き物にとっての拠り所となる要素はどんなものがあるかをフィールドリサーチ。そしてチームごとに「再野生化」に向けてのアイデアについてブレインストーミングを行いました。
DAY4 〜生き物にとっての居心地の良さを考える〜
午前はDay 2 でレクチャーをしていただいた大丸有環境共生型まちづくり推進協会「エコッツェリア協会」の松井宏宇さんを招き、「生き物の生息地をめぐるツアー」を皇居周辺で実施。道路沿いに生えている植物やまちの生態系デザイン実施等について学びました。午後からは、for Citiesによる都市を知るための様々な手法についてのレクチャーを通して、このまちへの提案を行うにあたってのアプローチ方法について考えました。これらを経て、チームで「再野生化」に向けての提案内容についてアイデアを出していきました。
DAY5 〜このまちに提案するアイデアを計画する〜
アイデアの実装に向けて、Eugene Solarによるインスピレーショントークを実施。アイデア設計&プロトタイピングの際のヒントやアプローチ方法について学んだのち、大丸有エリアに提案するアイデア出しやリサーチ、フィードバックを受けてブラッシュアップを行うなど、発表に向けての準備を進めていきました。
DAY6 〜インストール〜
第1期のアイデア発表会に向けて、プロトタイプ制作に必要な材料調達、発表ボードのデザイン等、準備と制作を進めていきました。
第1期発表会 〜このまちに提案するアイデアの発表〜
第1期の最終発表では、8チームそれぞれが「リサーチボード」を使って、アイデアに至った経緯やつくった問い、提案内容についてプレゼンテーションをしました。この場は公開イベントとして実施し、一般の参加者とさまざまな視点での会話が繰り広げられました。
◉大丸有のまちへの8つの提案
第1期で生まれたアイデアを紹介します。
■「Botanicomm」
問い:都市の人々が日常の時間感覚から自由になり植物との関係性を築き直すことはできるか?
提案:街の中に電話ボックス的なブースを作り、そこに入ることで植物と対話ができる装置を提案。植物で覆われた空間で外からの視線をゆるやかに遮り、中では植物の音を聞ける装置を設置、植物との対話を通じて、人間が植物に水をあげる仕組みを考えました。
■「MADOWAKU for TWO」
問い:都市において人間と動植物がお互いにケアする関係性をつくるには?
提案:人間と動植物がオフィスの窓空間を共有してつながるという提案。オフィスの窓の内側と外側を挟むかたちでプランターを配置し植物を植える。土を介して人間と花の蜜を吸いにくるハチなどがお互いケアする関係性を築いていけるのではと考えました。
■「Sensuous Signs 」
問い:生き物の五感への作用によって、快適な共存空間を街に作り出すことはできるか?
提案:環境変化、再開発で生きにくくなってしまった生物を新たな生息域へ誘導するための標識を作るという、生き物のためのサイン計画の提案。香り、光など生物の五感に作用するものをまちに散りばめることで、生き物の循環や流れをつくることができるのではと考えました。
■「としのいぶきのあるところ」
問い:都市の中の「小さな風」はどうしたら対話のきっかけになるか?
提案:ビルの隙間や地下鉄の換気口からでる「小さな風」に注目し、それらの風を生かす体験設計をプロダクトと場のデザインで提案しました。
■「ウマバス」
問い:かつて共に暮らした生き物との関係性を編み直すには?
提案:かつて大丸有エリアにもいた馬との関係性を再構築していくためのモビリティの提案。東京駅から馬に乗り、大丸有エリアをめぐるツアーを通じて、ツアー参加者のみならず、オフィスワーカー等にも動物を身近に感じてもらえるのではないかとを考えました。
■「再野生化=脱家畜化」
問い:都市の人々が失った感覚とはなんだろう?
提案:再野生化のための思考プロセスを展示しました。再野生化とは、現代の社会によって“家畜化”された私たち人間が本来の感覚を取り戻すということだと捉え、現代の都市は使い方や目的が決まっているが、そうではない使い方をしてみるという提案をしました。
人間の本来の身体感覚に従うこと。古来から行ってきた踊りなど、本能的に身体を動かす機会をつくること。ゲリラ盆踊り、ラジオ体操等。こうしたさまざまな粒度で、人間が“脱家畜化”するための思考実験を繰り返しました。
■「大丸有リズムバンド」
問い:都市において心地良いリズムで生きるには?
提案:街中に等身大の人間像を配置し、その像の視線になってみると四季の植物等が観察できるもの。身体的な動き、アイレベルの変化等、身体を実際に動かすことがポイント。隣にQRコードを掲示し、補足情報を読み込めるような設計に。
■「鏡花水街」
問い:すべての生き物が生きていくのに必要なものとは?
提案:街の中に動植物の拠り所として、小さな水が溜まる様な仕掛けを作る提案。石畳の道の石を一つ取り外し、水が溜まるようにすることで、動植物の拠り所をつくると共に、ビルに挟まれて影ができてしまっているグランドレベルの道に、水面反射で光を取り込み、まちが明るくするという設計。
第1期では、さまざまな角度からの再野生化への提案が生まれました。次のフェーズでは、この提案をもとにfor CitiesとEugene Solerがそれぞれの要素を統合し、実際にまちへインストールするアイデアの設計をしていきます。後編では、第2期の制作のプロセスや、第3期の実際の展示内容について紹介します。
また、これらの学びと都市における活動を経験に、2024年は「Emotional City: 都市の"感情価値"」をテーマにして、新たなプログラムを9月〜11月まで行います。
詳細は次のリンクより(参加申し込み締め切りがありますのでご注意ください)。