生き物らしくあれる居場所をどうつくれるか? - 五感を解放する「野台」をまちに(後編)
都市体験のデザインスタジオ「for Cities」とYAUが連携し、大丸有エリアのアーバニストを育成・発掘するプログラム「Urbanist Camp Tokyo」。講義・リサーチ・アイディエーションを行った第1期のレポート前編につづき、後編では第1期で生まれたアイデアをもとにfor Citiesと建築家・アーティストのEugene Solerも実際に取り組んだ第2期の制作、第3期のまちへの実装の模様をお届けします。
文=for Cities(石川由佳子 / 塚本亜里菜)
写真=Daisuke Murakami / Aiko Oka
◉レポート前編
◉Urbanist Camp Tokyo 2023 後編
◉インスタレーション設計
Eugene Solerからの提案
はじめに、「Urbanist Camp Tokyo」のデザイン・制作パートナーを務める、建築家・アーティストのEugene Solerから、第1期のプレゼンテーションやディスカッションをもとにしたデザイン提案がありました。
■土を敷き詰めたオフィス空間
都市開発において最初に取り除かれてしまうのが土であることに着目し、大丸有には剥き出しの土がとても少ないことから、オフィス空間に土を敷き詰め大地との繋がりを取り戻すアイデア
■冬の森
冬の間の植物の変化を目にすることはなかなかないが、都市空間における植物が入った箱のインスタレーションを通して、冬の植物の様子に目を向ける体験
■Slow Lane
大丸有を行き交う人々は常に急いでいる印象があるため、靴を脱いでゆっくりと大地の上を歩く体験を提供する
■Tree Hug
木を囲い込む装置を配置することで私たちと木との距離を縮めるモジュールをつくるアイデア
ディスカッションを経て、植物との距離を縮めるTree Hugのアイデアを元に具体的な設計案をかためていくことに。2月からは毎週メンバーも含めたデザインミーティングを開催し、進捗状況の共有や意見を交わす時間を作り、デザインを詰めていきました。
野生を感じる屋台「野台」
提案のひとつ「Tree Hug」をアップデートする中で、視覚に頼りすぎている我々の身体を解放して、視覚以外の感覚を使って野生のスイッチを促すための3種類のモジュールの提案があり、今回の「Urbanist Camp Tokyo」のアウトプットのコアコンセプトとなった「野台」が生まれました。体験のサイズごとに、再野生化のレベルや快適さの度合いをチューニングした複数のモジュール案を考えていきました。
それぞれのモジュールを考えるにあたり、以下の「3つのインパクト」を前提に考え、そこから生まれたのが以下の3パターンです。
L - 触覚、特に足の裏にフォーカスした土の道を裸足で歩く体験。
M - 味覚・嗅覚にフォーカス。頭をくぐらせてモジュールの中に入ると、目の高さには野原、上は青空と、感覚をフォーカスさせるような仕様。
S - 聴覚にフォーカス。街中の小さな音をキャッチするデバイスを持ってまちを歩き回る体験。
◉展示場所の調整、申請
実装のアイデアが固まったところで、インストール場所の決定も進めていきます。YAUスタジオから近く、2つのビルの間に位置するSlit Park YURAKUCHOをインストール会場として使用できることに。
東邦レオさんの運営するこの空間は、都市の中で緑に触れ一息つける場所として、オフィスワーカーの憩いの場となっています。次のステップとして、今回の展示はスケールの大きい構造物を含むため、インストールにあたっての許可申請を各所に行い、高さや素材等の許可が降りるまで、何度も設計案のディスカッションと改訂を繰り返しました。
◉制作、インストール
許可申請等が全て済んだところで制作に移っていきます。制作場所は三ノ輪にあるスタジオStudio KOTOBAをお借りして、Eugene Solerとインストーラーの専門家チームを中心に進めていきました。必要な木材の調達や野草の採集も進め、for Citiesやメンバーも制作に取り組み、インストールを行いました。
インストール日は2日間設け、MとLのモジュールの組み立て、植物のインストール、山から運んできた土と落ち葉の選別等を手分けして進めました。
展示「野台〜五感を解放する都市の居場所〜」
触覚野台1つ、嗅覚味覚野台3つの合計4つの野台とワークショップ型の聴覚野台を含んだ展示「野台〜五感を解放する都市の居場所〜」がスタートしました。以下に、展示内容を紹介します。
■「触覚野台 - 裸足で大地を感じてみよう -」
触覚にフォーカスし、足裏で大地を感じるための道をつくりました。細長い構造物の地面には、森からお裾分けしてもらった、土、枯葉、小枝など様々な質感の素材が敷かれています。入口で靴を脱ぎ、裸足になり、足の裏で土を感じながらトンネルを歩く野台。土との距離が離れてしまった都市の中で、裸足で地面を歩く体験を通して、普段使うことのない感覚に意識を向ける仕掛けです。
■「嗅覚・味覚野台 - 小さな野原に顔をうずめてみよう -」
かつては何もない野原だったここ大丸有。パーク内に点在する丸い野台の中に入ると、まるで野原にいるように、小さな草や花たちに囲まれます。普段顔を近づけることの少ない植物の近くによってみると様々な香りがしたり、実は口にできるものもあります。葉っぱに顔を埋めてみたり、ハーブを一枚口に含んでみたり、嗅覚、味覚を研ぎ澄まして、ほっと一息ついてみることのできる場所を用意しました。
《ぶわぁ》
もともと野原だった大丸有。その原風景を思い起こすような、ひろい大地に寝そべるような体験を。
《さらさら》
春の訪れを感じるような野台。大丸有に映えている野草や、ここにあった植物たちを感じてみよう。
《もわっ》
一番ワイルドな野台。土っぽくて森のよう、自然のワイルドさを感じてみよう。
■「聴覚野台 - 生き物たちの小さな音をキャッチしよう- 」
車の音、地下鉄の音など、常にたくさんの音で溢れている都市の中で、小さな音に耳を澄ませるとどんな音が聞こえるのでしょう?植物、土、建物はどんな音を発しているのでしょう?
そんな問いを手がかりに、音を聞く装置を手に、まちを歩き回り、様々な音をキャッチするワークショップ型の体験を行いました。
展示期間中のイベント
オープニングトーク、サウンドフォークワークショップ、YAU Open Studio連携トーク、クロージングトークなど、展示期間中には様々なイベントやワークショップも実施しました。また、参加者の提案でSo Tierd Collectiveによる企画、参加者の一人でもあるばー子さんとEugeneの娘さんによる野台を使ったダンスパフォーマンスもあり、多くの近隣企業の方にも体験していただきました。
◉効果検証
今回の「Urbanist Camp Tokyo」では、効果検証パートナーとして東京大学総括プロジェクト機構特任講師の山崎先生に参加いただきました。第1期から展示までの全体を通じて、展示の効果検証を実施。体験者に向けたアンケートなどの調査を行いました。
◉まとめ
約半年間かけて、じっくりと進めていった今回のプログラム。さまざまなバックグラウンドの参加者と共に、アイデアを形にし、まちへの実装まで行うには色々な障壁や苦労もありました。一方で、その苦労を経てこそ得た学びや、何がこのまちに必要なのかを実感をもって掴むことができました。本プログラムは今後も継続予定で、引き続き実践的な学びを通じて大丸有でのアーバニストを輩出していくことを目標に活動していきます。
■参加者の声(一部抜粋)
◉運営メンバー
主催:一般社団法人for Cities(石川由佳子・杉田真理子・塚本亜里菜)、有楽町アートアーバニズム[YAU]
展示デザイン:Eugene Carlos Soler(建築家・アーティスト)
アドバイザリー:山崎嵩拓(東京大学総括プロジェクト機構特任講師)
協力:エコッツェリア協会、Sutudio KOTOBA
イラスト:nico ito
デザイン:Slogan
ゲスト講師:足立泰啓、景浦由美子、原田芳樹、松井宏宇
インストーラー:相澤安嗣志、黒田基実、永井誠人
展示会場:Slit Park YURAKUCHO
また、これらの学びと都市における活動を経験に、2024年は「Emotional City: 都市の"感情価値"」をテーマにして、新たなプログラムを9月〜11月まで行います。
詳細は次のリンクより(参加申し込み締め切りがありますのでご注意ください)。