Artist Note vol.10 GROUP
「Art Squiggle Yokoyama 2024」では、「アーティスト・ノート」というコンセプトを掲げ、各参加作家に本フェスティバルの準備段階で、まだ頭のなかにしか存在していなかった展示についてのインタビューを行いました。作品に込める思い、悩みや葛藤、インスピレーション源についてなど、まさに「Squiggle」の最中にいたアーティストの声がここには綴られています。
建築設計を、広く外に開く建築グループが描く 人間とサポテンが築けたかもしれない風景
GROUPは建築コレクティブとして活動をされていますが、実際にはどのような体制でプロジェクトを進めているのでしょうか?
いまGROUPは、かねてからのメンバーと新規メンバーの計6名のコレクティブで活動をしています。プロジェクト毎に手を挙げたメンバーが中心になってチーム編成を決めるのですが、そこに加えて外部から建築畑ではない方を招くこともあります。例えば、映画監督、美術作家、写真家といった方たち。そうした非・建築領域の人と交わす設計のための会話のなかには、建築を専門にしている人間には発見できないキーワードがたくさんあり、いわゆる設計のセオリーからは生まれない方法や発想が出てくるので勉強になるしそれ自体が楽しいんです。
2021年にGROUPが改修・設計を行った《海老名芸術高速》でも他業種との協働がありましたね。
はい、そのときは劇作家・写真家と映画監督が共同設計者でした。これは神奈川県海老名市にある、米軍の寮として使われていた集合住宅の痕跡をリサーチして場所を立ち上げる、というプロジェクトでした。一般的に引越しなどで建物を引き払うときは、自らの痕跡を消しますよね? それを踏まえて、あえて消えなかった痕跡を探し、それらを表すかたちを探りながら壁に切れ込みを入れていきました。
開口部が印象的な、「表現者のためのアトリエ付きアパート」として
媒体で広く紹介されていたのを見かけました。
海外からいろんな展示や講演などに呼ばれるきっかけになったプロジェクトですね。印象深いのは、欧米の人たちと話すとき、まず日本の状況を聞かれるんです。日本はもう、海外からはお金がない固として認知されていて、「国として予算がなく、新築が以前のように建てられない建築家に何ができるのか?」と。いずれ各国でも似た状況になることを見据えたうえでの問いなんでしょうね。海老名のプロジェクトが評価されているのは、改修のなかにコンテキスト、物語性を含んでいる点だとよく言われます。少し恥ずかしいですが、「フィクション」や 「ポエジー」というキーワードで紹介されることが多くありました。
展示作品《港/Manicured Cactuses〉(2024)においても、「サボテン」や 「港」をモチーフにしながら少しSF的な想像力を感じます。
そうかもしれません。今回の展示プランを立てるにあたり、山下ふ頭の会場を訪れて考えたのは、まずものすごく天井が高いなと(笑)。そして、かつて日本の玄関口であった港という場所に絡めてどんな話ができるのか思いを巡らせました。サポテンも16世紀に渡来品として港を介して日本に伝わりました。この場所にサボテンが立っているとおもしろいなという直感的なイメージとともに、日本では固定的な使われ方しかしていないサボテンという植物に興味が湧いてきたんです。見つめ直すと、不思議な植物だなと。リサーチを進めていくうちに、どのようにサボテンが日本に渡来したかについては諸説ありますが、実際とは異なる伝わり方をしていたら、人間とサボテンとはもっと違った関係が築けたのではないかと思い始めました。 例えば、生きたサボテンを使って家具をつくってみることもあったかもしれないと考え、それを実践します。
実際に生きたサボテンが、家具として使用されている文化囲があるのでしょうか?
いえ、サボテンに穴を空けて住んでいる鳥類がいたり、南米では建材としても使われていますが、日本にはそのようなことは伝わりませんでした。植物ということで言えば、アマゾンでは生きた樹木を橋にしたり、家具やインフラの一環に使われることがあります。そういうことが、サボテンで もできるのではないでしょうか。本展が開催される45日間で、植物としての成長も予想しています。会期中にサボテンの世話をしながら、そうした変化過程も含めて展示にできればなと。そうすると、今とは全然違ったサボテンと人間の新しい関係が生まれるんじゃないかと期待しています。
非・建築領域を設計に迎え入れながら、チーム内でも客観性を保ちつつ、
展示プランを引き止め、推進している態度に 「SQUIGGLE」な印象を受けました。
活動を始めた当初から、建築の専門家だけで閉じないあり方を考えてきました。 GROUP は『ノーツ』という雑誌を刊行しているのですが、第一号の特集を「庭」、次号を「引越し」としました。庭の植栽を考えたり、手入れをしたりすること、引越しのために寸法を測ったり、家具の配置を決めたりすること、これらは設計だと考えています。そうした建築と生活の接点に着目し、その地点 からものを考えていけば、今までにない空間の捉え方ができるのではないでしょうか。雑誌づくりを通したリサーチや思考を、今回のような展示にも展開していくことで、建築領域に閉じない、より多くの人に共通する課題の延長にあるものを提示できるのではないかと思います。
Interview Date: 2024/06/25
Text by Shun Asami
PROFILE
建築プロジェクトを通して、異なる専門性を持つ人々が仮設的かつ継続的に共同できる場の構築を目指し、建築設計・リサーチ・施工をする建築コレクティブ。 「海老名芸術高速」(2021)「新宿ホワイトハウスの庭の改修」(2021)「Involvement/Rain/Water passage」(金沢21世紀美術館、石川、2023)「手入れ/Repair 」(WHITEHOUSE、東京、2021)など。
About "ARTIST NOTE"
会場では、それぞれの作家ごとに用意されたテーブルの上に普段制作に使用している道具やアトリエにあるもの、影響を受けた書籍などが並ぶほか、インタビューや制作プロセスが垣間見れる写真などが掲載された「アーティスト・ノート」が2枚置かれています。会場を巡りながらそれらを集め、最後にはご自身で綴じ、自分だけの一冊をお持ち帰りいただけます。