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芸術の秋 -教養を磨く「以外」の美術の楽しみ方

最近は美術に関する本がたくさん出ています。

私のような素人向けの美術書で多いのが、実践面を重視したもの。
つまり、美術の知識を得て「教養」を磨いたり、「美的センス」を身につけたり、「ビジネス」に活かしたりするためのものです。

それはそれで面白いと思います。
しかし正直、画家の名前とか作品名とか〇〇派を知っていたところで、実生活ではほとんど役に立たないでしょう。
それに娯楽の多いこの時代、美術鑑賞以外に「感性を磨き」、「美的センスを身につける」手段は他にいくらでもあります。

ではなぜ美術を鑑賞するのか。

それは単に、美術が面白くて楽しいからです
今回は「楽しむこと」に重点を置いた、私なりの美術の見方を紹介します。

①まずは気負わない

美術の話は何かと「分かる・分からない」の文脈で語られがち。
しかし、趣味として楽しむなら、専門家になる必要はありません。

私のような素人にとって、専門知識より重要なのは自分の心が動くかどうか
作者が誰とか何派だとかばかりが気になって、目の前の作品を楽しめなかったら本末転倒です。

そもそも歴史的評価と個人の好き嫌いは全く別物。同じ作品を見ても感じ方は人それぞれですよね。

特定の作者が好きな人もいれば、美術作品に囲まれている空間そのものが好きな人もいます。一つの作品を穴が空くほど眺めてもいいし、たくさんの作品を一気に流し見してもいい。

それぞれが心地よいかたちで楽しめばいいんです!

「名作の価値を理解しなきゃ」「何か気の利いたコメントをしなきゃ」というプレッシャーを感じる必要はありません。
もっと気楽にいきましょう!

②作品をよく観察してみる

ここからはさらに美術を楽しみたい方に向けた話です。(①で満足、という方はそれでも全然いいと思います!)

美術館でも他の場所でも、心動かされる作品に出会うことってありますよね。
そういうときは、作品をよく観察してみると、いろいろな発見があります。

たとえば私はモネの絵に強く惹かれます。何だかキラキラ輝いていて、とっても綺麗!

なんでこんなに綺麗なんだろう…そう思って絵をよく見てみると、とってもたくさんの色が使われていることが分かります。

『積みわら  -日没』

たとえば積みわらの影に注目してみてください。緑や青、紫など、とっても繊細な色使いですよね!
影だからといって安易に黒く塗らないところがかっこいいです。

塗り方も特徴的です。輪郭を描いて中を塗りつぶすのではなく、細かーいタッチを重ねて形を表しています。
近くで見るとぐしゃぐしゃした絵の具の固まりにしか見えませんが、少し離れてみると一気に風景が立ち上がってくるのが不思議です

一見単純な作品でも、色使いや筆のタッチなど見どころは山積みです
絵は動かないので自分のペースで観察できるのも良いところ。
それに、作品をじーっと見つめていると、何だか絵の中に入り込んだ気になれて、非日常を味わえますよ!

③興味があれば調べてみる

作品を見たあと興味が湧いたことを調べてみると、いろいろ腑に落ちてスッキリします。

知識を蓄えるために調べるというより、興味があって調べていったら自然と知識が集積していくイメージです。

先ほどのモネについて調べてみると、いろいろなことが分かってきます。たとえば、

・筆触分割という、色をパレットで混ぜない技法を用いていること
・色は混ぜれば混ぜるほど暗くなるけれど、色を混ぜなければ明るいまま発色すること
などなど…

モネの絵が美しいのは、色が多いだけでなく、明るく見せるするための工夫がしてあったんですね。

さらに調べてみると、モネが同じモチーフを何度も描いていたことが分かります。

積みわらをテーマにした絵も何枚も描いています。

同じもの中から微妙な変化と多様な色彩を見出せる、この観察眼こそがモネの作品のキーとなっているのです

綺麗!すごい!から一歩踏み込むと、絵画の新たな一面が見えてきます。

なくても生きていけるけど

私は趣味として美術の知識を少しだけ蓄えています。それがなかったとしても生活には何の支障もないでしょう。

それでも私が美術について記事を書き、発信しているのは、作品を、そして人生をもっと楽しむためです

作品を見て感動するという非日常、その非日常は日常をちょっと豊かにしてくれます。

先ほどのモネの話で言うと、私はモネの絵を見ると、自分の身の回りの風景がいつもより美しく見えます。
彼が描いたのは身近な風景ですが、絵の中の世界はカラフルでキラキラと輝いています。
そんなモネの絵を見ていると、何気ない景色の中に色と光が溢れていることに気づかされるのです。

クロード・モネ『ロンドン国会議事堂、霧を貫く陽光


作品が国や時代を超え、自分の世界と繋がっていく…この感覚が楽しくて、気づけば10年以上も美術鑑賞を続けていました。

なくても生きていける、でも人生がちょっと豊かになる、そんな美術鑑賞をこれからも楽しんでいきたいです。


記事で何度も名前を出したモネについて、その魅力を深掘りしています。


遠くで見るのと近くで見るのとでは、絵画は全く別の顔を見せます。

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