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「ところでなにする?:さいたまアーツコモンズツアー2024~第1回語りと福祉の関係編~」レポート

「ところでなにする?:さいたまアーツコモンズツアー2024」の第1回目が2024年9月28 日に開催されました。
この企画は、アーツカウンシルさいたま(公益財団法人さいたま市文化振興事業団内)が、「さいたま国際芸術祭」などの取り組みにより創出された、市民などによる文化芸術活動の継続・発展を図るプロジェクト。
「アーツコモンズ」とは、創造活動を営み、誰でも参加できる「共有地」のことで、人々が集まる場所「寄り合い地」という意味でもあります。

このツアーでは、いわゆるアートスペースにとどまらない、福祉・環境・教育などの様々な領域の創造的な活動をおこなっている場所を「アーツコモンズ」と捉え、さいたま市内の6カ所を巡ります。

ツアープログラムは、3部構成で行われます。
1部は【場を知る】: 「アーツコモンズ」を担う人に出会い、その場で日常的に行われている活動を体験しま す。
2部は【表現を体験する】: ゲストアーティストによる表現活動やワークショップを体験します。
3部は、【体験を意味付けする】: 1部、2部の2つの活動を参加者で言語化していきます。このような3つの活動を通して「人と場所と表現の関係」を探っていきます。

第1回目は「語りと福祉の関係編」がテーマで、浦和区常盤にあるカフェマーブルテラスで9月28日に開催されました。

申し遅れました。毎回ツアーのレポート記事を担当させていただくこととなりました。
プロジェクトアーカイバー(テキスト)の皆川です。どうぞよろしくお願いいたします。

プログラムの登場人物は、マーブルテラス代表の若尾明子さんと、ストーリーテラーの テンギョー・クラさん。
カフェメニューを考案したり、地域や障害への理解を深めるカルタ遊びが賑やかに行われました。 マーブルテラスは、NPO法人クッキープロジェクトが運営する店で、障害者の手づくりのクッキーを販売するとともに、ランチや珈琲が楽しめます。

クッキープロジェクトは、障害のある人ない人まぜこぜな社会づくりを目指して活動しているNPOです。「さいたま国際芸術祭2023」では、国内外の障害のある人と交流を重ねているアーティストのテンギョー・クラさんの写真展やトークイベントがマーブルテラスを会場に行われたというご縁もあり、今回のゲスト出演となりました。

「~第1回 福祉の現場編~」開催概要、ゲストの詳細はこちら↓


はじめに:ツアーの概要、時間割の発表

事務局の森隆一郎さんから「アーツコモンズって何だか分かりますか?」と語りかけから始まり、ツアーの概要と、全6回の「場所」と「ゲスト」の紹介がありました。

アーツコモンズとは創造活動を営み、誰でも参加できる「共有地」のことで、昔日本にあったそこに暮らす人々が集まる場所「寄り合い地」という意味も込められています。

2回目以降の詳細はこちらから

「~第4回 詩と公園の関係編~」(2024年11月30日)申し込みはこちら ↓↓↓

そのあと、今回のタイムスケジュールが発表されました。テーマは「場所と人をつなぐ」で、3部構成となりました。

第1部(場を知る):カフェメニューを考えてみる

まず第1部は、【場を知る】をテーマに、実際にカフェで販売されている障害者の手作り クッキーを食べながら、そのクッキーを活用したメニューを考案しました。

その際に、若尾さんより、誰に届けたいメニューなのかの提示があり、テーブルごとに届ける相手についてグループトークしました。 提示されたのは、5つのメニュー。

1つ目は「1日誰とも話さないシニア向けメニュー」
2つ目は「目の見えない人でも楽しめるメニュー」
3つ目は「小さな子どもが1人で食べられるメニュー」
4つ目は「隣の席の他人に、つい話しかけたくなるメニュー」
そして5つ目は、「その他」(誰かを思い浮かべて考えたメニュー)

短い時間ではありましたが、ほぼ全員がメニューを自由に考案できた様子でした。各テーブルで話し合い、アイデアは一つに絞らず、代表者がどのようなアイデアが出たかをまとめて発表しました。
 
例えば、袋の中に文字型のクッキーを入れるというアイデアがあり、「ありがとう」などの定番の言葉だけでなく、「空を見よう」といった「深夜に会話が少ない一人暮らしの方」といった特定の方向けのメッセージも提案されました。
 
さらに、小さな子供向けとシニア向けのメニューを融合させる発想から、ご飯やおにぎりと一緒に選べるクッキープレート、またはパフェを平皿で楽しむといったアイデアも出ました。

目の見えない人向けには、クッキーにクリームやアイスを挟んだものなど、スプーンやフォークを使わずに食べられるメニューが考えられました。また、マーブルテラスのクッキーを少しずつ楽しめる盛り合わせメニューが欲しいという意見もありました。
隣の人との会話が生まれるようなクッキーの例では、相方を探すことが楽しめる貝合わせクッキーの案があり、参加者が実際にクッキーを合わせてみる姿も見られました。

男性が多いチームでは、普段クッキーを食べる機会が少ないということから、ガチャガチャのカプセルにクッキーとおみくじや小物を詰め合わせるというユニークな案が出されました。
 
会場にいた盲導犬ユーザーの女性からは、「マーブルテラスのパフェは、上に載っているものがわからないので食べたことがない」との話が出ると、参加者は「平皿で楽しめるパフェはつくれないか?」「クッキーにアイスを挟んだら、スプーンやフォークを使わずに食べやすいのでは?」などの、たくさんのアイデアが出されました。
 
 
参加者のアイデアのメモはまとめて若尾さんへ渡され、マーブルテラスで実現可能なものは検討したい、という前向きなご回答をいただけました。

第2部(表現を体験する):マーブルテラスに集う人と交流する

第2部では、「表現を体験する」をテーマに、障害のある人ない人まぜこぜで「幻聴妄想 かるた」等で遊びました。「幻聴妄想かるた」は、世田谷区の就労継続支援B型事業所 「ハーモニー」が制作しているもので、統合失調症の人の幻聴や妄想の体験を絵札で表現 しています。この事業所とテンギョー・クラさんが交流してきたご縁から、今回のツアーに施設長の新澤克憲さんも参加してくださいました。参加者は、絵札の奇抜さにおどろきつつも、その背景を新澤さんがユーモアを交えて解説してくださり、遊びを通じて精神障害者の暮らしについて知る機会となりました。

テンギョーさんの友人で参加されていた「ハーモニー」の施設長の新澤克憲さんが解説を加えてくださいました。ユーモアのある説明や絵柄の奇抜さに、参加者たちの笑い声が絶えず、終始楽しそうな雰囲気でゲームが進行しました。

就労継続支援B型事業所「ハーモニー」の施設長の新澤克憲さん(左)

若尾さんから急遽、かるた遊びで1位と2位に輝いた参加者には、賞品としてマーブルテラスのポップコーンと焼き菓子をプレゼントしていただきました。勝った方から、参加してくれた小学生へプレゼントする場面も。なんとも微笑ましい時間となりました。

第3部(体験を意味付けする):ゲストと語り合う

ゲストと語り合う最後は、プロジェクトファシリテーターの三浦匡史さんによるプログラムの体験を語り合う時間です。まず、三浦さんからの問いかけで、今回はじめてマーブルテラスを訪れた人に手を上げてもらったところ、参加者のおよそ半数程度の人の手が上がりました。そして三浦さんから、「さいたまのアーツコモンズを巡る連続プログラムの1回目として、今回は、多様な人々がまぜこぜに暮らす社会づくりを目指して活動してこられたクッキープロジェクトが開くマーブルテラスを会場にして、若尾さんたちが培ってきたコミュニティの力を借りて、はじめて訪れた人もすぐに打ち解けて楽しい時間を過ごすことができたと思います。でも逆に、親密なコミュニティは内側の人にとっては安心で心地よい場所でも、外側からは少し入りにくい内輪の世界に感じられてしまうこともあるかと思います。そんな中、今回のようなプログラムを通してふだんはなかなか交わらない人たちが出会うことがあれば、既存のコミュニティには外からの刺激がもたらされ、参加した人たちには新しい世界に踏み込み知るきっかけになるのではないでしょうか。テンギョーさんは、まさにそのような外から訪れて既存のコミュニティに新しい刺激を与えてくれる人だと思います。」とお話しがあり、テンギョーさんに活動紹介と自分語りをしていただくことになりました。

テンギョーさんからは、世界各国でヴァガボンド(よそ者)として滞在し、国内外の福祉施設と交流してきた経験や、能登半島地震の被災地での珈琲を通じたボランティア活動について語られました。 昨年のマーブルテラスとの出会いを振り返り、「俺の写真が、マーブルテラスの『場』に展示されると、これまでとはまた異なる輝きを感じた。芸術祭をきっかけに、 埼玉とのつながりが生まれ、今回のイベントもそのご縁から実現した。埼玉に『おかえり』と言ってくれる場所ができた」と話しました。 また、能登半島でのボランティア活動では、「被災した人たちは、辛さ・苦しさを抱えていても、コミュニティの中ではそれを言いにくいこともある。ヴァガボンド(よそ者)である自分が、珈琲を入れながら交流する中で、聞き役になれることもある。たとえ辛さを言葉にしなくても、いつもと違う時間を過ごしてもらえるだけでもいいと思って能登に珈琲を淹れにいっている」と、珈琲をツールにした人と場のコミュニケーションにつ いて話しました。

さらに、テンギョーさんのライフワークとして「すれ違う人に挨拶をする」ことを挙げ、 マーブルテラスがクッキーをツールにしているように、自分は「挨拶をツールにしている」と話しました。もう二度と会わない相手でも「こんにちは、今日も良い一日ですね」と声をかけるだけで、相手を認識したことを伝える。その出会いに感謝することが自分の幸せであり、今の活動の原動力だと語りました。

三浦さんは、「自分から新しい世界に踏み込むのは勇気やエネルギーがいるもので、興味関心や知識のない分野にはなかなか足が向かないと思います。今回のプログラムは分野の異なる6つの場所を巡るツアー形式になっているので、全部とは言わないけれど、ちょっと分からない、興味が持てないような回にもツアーに乗って参加してみると、新しい世界との出会いや発見があると思うので、ぜひ参加してみてください。」と話しました。このツアーの第2回は、10月19日「音と自然の関係編」で、中尾第二自然緑地で本物の竹を切るなどアクティブな内容となる。プロジェクトリーダーで、アーティストの浅見俊哉さんからは、「連続して参加することで、自分の暮らす地域の新しい発見があり、違った見方ができるようになればと思っている」と、このプロジェクトへの期待をこめて次回の案内がされました。

さいごに:ひとこと

私自身もマーブルテラスさんのランチやクッキーのファンでもある一人ですが、今回初めてイベントスペースに入り、新しい一面を知ることができました。
 
第1回目は、市民のみならず、市外から初めて訪れた方や、ゲスト、主催側と様々な人が集まり時間を共有したこと。「また逢いましょう」と言い合える時間となったことは、まさにこれがアーツコモンズなのですね!と感じました。

次回以降も、新しい出会いや発見を、そして完走した先に何が待っているか、楽しみにしています。ぜひ私たちと一緒に、場所と時間を共有してみませんか。

「~第4回 詩と公園の関係編~」申し込みはこちら ↓↓


アーツコモンズ リーフレット1
アーツコモンズ リーフレット2


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