研究アソシエイト事業公開研究会#02前編「TERATOTERA(テラトテラ)の活動とボランティアマネジメント」
アーツカウンシルさいたまでは、 公募した外部調査員とともに文化芸術活動に関する研究を行う「研究アソシエイト事業」を昨年度から実施しています。研究アソシエイトの2名とともに、生活都市さいたまにおける「オルタナティブスペース」、「市民サポーター」の2つのテーマについて、定期的に研究会を開きながら調査研究を行っています 。今回は、公開研究会として、ゲストに高村瑞世さん(Token Art Center代表)を迎え、事例紹介とディスカッションを行いました。
アーツカウンシルさいたま 研究アソシエイト事業公開研究会#02
日時:2024年5月17日(金)19:00~21:00
会場:RaiBoC Hall(市民会館おおみや)6F 集会室8
ゲスト:高村瑞世(Token Art Center代表)
高村瑞世(たかむら みずよ)
1985年、静岡県生まれ。設計事務所、制作会社に勤務する傍ら、JR中央線沿線上で展開するアートプロジェクト「TERATOTERA」に2011 年よりボランティアスタッフとして関わり、約10店舗を舞台とした若手アーティストによる展覧会などを企画。2014年より「TERATOTERA」の事務局長を勤める。2013年よりアートスペース「モデルルーム」、2019年より「Token Art Center」の企画運営をしている 。
「こんな生き方もあるんだ」
以前は、建築事務所でサラリーマンをされていたという高村さん。友人に誘われて行った「アサヒ・アート・フェスティバル※1」で、「八尾スローアートショー※2」のディレクターに声を掛けられたのが、アートプロジェクトにはまるきっかけになったそうです。
高村:ディレクターをしている建築家の方に、「建築やってるんですか!?手伝って!」といきなり言われ、アルバイトとして手伝うことに。準備や会期中は、肉屋さんの上階でアーティストと雑魚寝で滞在していました。ある会期中に部屋でみんなとビールを飲んでいると、あるアーティストは「僕だらだらするの大好きー」と言って寝ながらビールを飲みはじめて…アートプロジェクトの展示会場では、ひたすら落書きのようなドローイングを1日中描き続けていました。こんな生き方もあるんだと衝撃を受けました。
それから3年程は普通にサラリーマンとして働きました。仕事にも慣れて何か新しいこと始めたいなという時に、TERATOTERA※3のアートプロジェクトを学ぶ講座「アートプロジェクトの0123」に出合います。
受講中に「実践の場もあるよ」と言われ、「実践って何?」と思いながらも、TERATOTERAのボランティアスタッフに参加することになりました。
ボランティアが活躍するアートプロジェクト「TERATOTERA」
高村:TERATOTERAは、JR中央線の高円寺駅から国分寺駅の間を舞台に、まちなかでの展覧会、音楽ライブ、パフォーマンスイベント等を実施していたアートプロジェクトです。
参加し始めた2011年度は、企画の部分はTERATOTERAディレクターの小川希さん(以下、小川さん)が、会場交渉、予算管理、広報などを事務局長が行っていました。
TERATOTERAのボランティア「テラッコ」は約30人以上いて、作品の設営や、ライブ・トークの当日運営、記録、ワークショップ担当等、5〜6名ずつのチームに分かれていて、それぞれチームごとに予定を合わせ2週間に1回位は集まっていたと思います。また、月に1度は全員で進捗を共有して、小川さんや事務局長がアドバイスをするという形で進めていました。
私はライブチームでしたが、音楽関係は全然知識がなかったので、会場での受付や誘導を担当しました。あとはお酒が飲めるということで、自分のチームだけでなく、ほとんどの企画で打ち上げの幹事をすることになり、毎晩打ち上げに参加して終電を逃して、朝はそのまま会社に出社するという生活をしていました。テラッコは20〜60代まで、学生、サラリーマン、ミュージシャン、デザイナー等いろんな人が参加していて、飲みに行ったり、芸術祭を見に旅行に行ったりもしました。
テラッコのやってみたいことを企画で実施
高村:2012年度からは、TERATOTERAが人材育成に力を入れることになりました。
テラッコの定例会議で、ディレクターから「一人ずつTERATOTERAでやってみたいこと挙げてみて」と言われ、まさか本気で実施するとは思わず「ボランティアについて哲学者をゲストにトークをしてみたい」「夏しか使われていないプールで映像の上映をしたい」「街中で映像祭をやってみたい」等の意見を出していると、その場ですぐ「じゃあ、それは何駅がいいかな」と検討が始まりました。そして、ボランティアが企画したイベントも、TERATOTERAの中ではディレクター企画のイベントと同列で実施されました。
高村:わたしは西荻窪の店舗をつかった映像祭「TERATOTERA祭り2012@西荻窪 西荻映像祭-TEMPO de ART-」を企画して、やがてアーティスト・イン・レジデンスへと形式を変化させながら6年間毎年企画を行っていました。
当時は西荻窪に住んでいて、同じボランティア仲間のおじさんや大学院生の子も近くに住んでいたこともあって、偶然会ったり、一緒にお酒を飲んだりしました。年齢も職業上の立場も関係なく、アートや政治の話をできる貴重な場でした。
とにかく楽しんでもらえるようにマネジメント
高村:それまで事務局長を務めていた方が、退職をすることになり2014年度に事務局長になりました。
ボランティアだった立場から、ボランティアのマネジメントをする側になったわけですが、「とにかく楽しんで関わってもらう」ということに気を付けました。
人によって、楽しさは違うので、企画をやってみたい人はやれると良いし、イベント当日だけプロジェクトの裏側を楽しむのも良い。だから、事務局長として、なるべく口を挟まずにがんばってもらおうとしていました。
テラッコが新法人を立ち上げ。新フェーズへ
高村:TERATOTERAは、東京オリンピックの開催年で終了するという方針でしたが、2020年の終了となる年が近づいてきた頃に「このまま終わらせていいのか?」という議論が持ち上がりました。
議論の末にテラッコが引き継ぐのが良いのでは?となり、2018年にテラッコの有志と、小川さん、私が理事になり、「Teraccollective(テラッコレクティブ/以下、テラコレ)※5」という法人を設立しました。メンバーは、設立時には20名弱、その後入れ替わりもありながら15名程が所属し、TERATOTERAで実施してきた企画を継続して実施しています。
例えば、プログラムの一つである「トーキョー・リアリー・リアリー・フリー・マーケット※6」は、TERATOTERA終了後もテラコレが中心となって場所を移しながら各地で開催しています。
質疑応答では、ボランティアから事務局長になった高村さんに、「立場が変わったことでプロジェクトへの関わり方について自身の中で何かが変化しましたか?」という質問がありました。高村さんは、「特に事務局長だから、とかボランティアだからということでの変化はなく、おもしろいと思ったことをプログラムとして成立させたいという気持ちで取り組んでいた」と話されていました。
「テラッコも、アーティストも、立場関係なくアートや政治の話をできる貴重な場だった」という高村さんの言葉もとても印象的でしたが、とにかく楽しんで関わってもらうというボランティアマネジメントの信念は、そのような場を体験してきたからこそのスタイルなのだろうと感じました。
後編では、Token Art Center についてのお話をレポートします。
(アーツカウンシルさいたまプログラムオフィサー 三田真由美)