マンションのリノベーション。間取り変更を楽しむコツ - リノベーションコラム
リノベーションではそれぞれ人の希望に合わせて間取りを作っていきます。せっかくなら、自分たちらしい間取りにしたい!このコラムでは、間取り変更を楽しむコツと、「間取り変更ってどこまで可能なの?」「間取を考える時に注意することは?」「そもそも、どうしてマンションの間取りってどれも同じなの?」など、よくいただく疑問についてまとめました!
どうしてどのマンションも似たような間取りなの?
「どのマンションを見ても間取りも内装も同じに見えて…」
リノベーションの相談にきてくれた人からよくそんな話を聞きます。確かに、60平米〜70平米だと3LDK、それより狭いと2LDKや1LDK、広いと4LDK…そんなマンションがほとんど。選択肢といえば、バルコニー側にリビングが横長にあるか縦型にあるかくらい。どうしてこんなに同じような間取りばっかりなんでしょうか。
nLDKの歴史
従来、日本の一般的な住まいでは、ひとつの部屋が寝室、食堂、団らんなど複数の用途を兼ねていました。その暮らし方を批判したのが西山夘三。合理的な暮らしには「食寝分離」つまり、食事をする場所と寝室は別であるべきだと批判しました。戦後、住宅が大量供給される中で西山夘三の考えに基づいて間取が考えられたコンクリート住宅が誕生し、その後、台所を広くして食堂を兼ねる(DK)、その隣に居間をつくる(LDK)という一連の発展を経て、現在の間取りの元となる考え方が作られてきました。
新築マンションの間取りの”セオリー”
nLDKの考え方が作られて、すでに50年余り。1970年頃の団地やマンションでは、田の字形の間取りやDKが住戸の真ん中にある間取が中心でしたが、1980年代頃からはほとんどがバルコニー側の明るいところにLDKを配置した間取になりました。築30年ほどのマンションの間取りと今販売されている新築マンションの間取りを比較すると、ほとんど同じだということに驚く人も多いでしょう。設備や内装材は変化しているものの、間取りは殆ど30年以上前から変わっていないのです。
というのも、分譲マンションの事業スキームから考えると仕方がないのが事実。建築時点では購入者が決まっていない分譲マンションではほとんどの場合、両親+子2人(または1人)のファミリーを想定して間取りが計画されます。また、間取りを作る時には当然そうするべきという業界内のセオリーがあります。
例えば…
・どの個室にも小さくても必ず収納があること
・洗面やトイレなどの水廻りは廊下からアクセスすること
・キッチンは対面が当たり前 など。
これではどんどん自由度がなくなってしまうのは当たり前です。
中国ではマンションはスケルトンの状態で分譲され、購入者は自由に間取りや内装を作れる、というのが一般的だそうですが、日本ではスケルトンの状態は工事途中とみなされて新築住宅の完了検査が受けらないため、完成した状態でしか引き渡しができないという事情もあります。
どんなマンションを選ぶか?
もちろん、一般的な間取りがダメという話ではありません。その間取りがフィットする人もたくさんいます。一方で少し自分には合わないな、と思う人はリノベーションでの間取り変更を検討してみるのが良いかと思います。
また、始めから特徴のあるマンションを選ぶのもひとつ。新築の際のフローが分譲マンションとは異なるコーポラティブハウスや、ユニークな間取りで多くの集合住宅を設計している遠藤剛生氏のマンション、メゾネットやトリオネットのマンションなど、面白い物件もたくさんあります。
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リノベーションできるところ、できないところ
解体できる壁とできない壁を確認しよう。
鉄筋コンクリート造のマンションの場合、隣家との境の壁、床と天井のコンクリートスラブに囲まれた専有部の壁はほぼ解体可能なことがほとんどです。ただし、稀に5階建て以下の低層のマンションや団地などで、壁式構造(柱と梁の代わりに壁で建物を支えている構造)で建物が作られている場合が稀にあり、その場合は室内の壁でもコンクリートでできていて解体ができない場合があります。また、おおまかに1980年代前半以前のマンションだと水廻りがコンクリートブロックで作られていて解体はできるが騒音と振動が発生するためできるだけ避けた方がいい場合もあります。また、100平米を超えるような広いマンションの場合など専有部の中にコンクリートの壁が存在することがあります。
壁がコンクリートでできている場合は、叩いてみても音が響かないのが特徴。軽く叩いてコンコンと音が出る壁は大体の場合解体ができる(中にコンクリートが隠れている場合も稀にあります)とかんがえてよいでしょう。壁が解体できるかどうかは竣工図書でも確認が可能です。
PSの位置と水廻りの移動にご注意!
その他、間取りにPSと書かれたところは専有部の中でも移動はできないので要注意。PSとはパイプスペースのことで、上下階と繋がった雑排水や汚水などの配管が通っています。
水廻りの移動もPSの位置と関係してくるため、よく確認が必要です。
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リノベーションで間取り変更を楽しむ7つのコツ
1)間取りのヒントは現地にある。
いざ、リノベーションが始まる時、図面を見ながらどこに何を持ってくるか、皆さん色々考えると思います。もちろんそれも良いですが、工事をする部屋で過ごしてみるのもおすすめ。
引渡しがすでに終わっていたり、空き家になっていて比較的自由に内覧させて貰える場合は、少し長い時間を現地で過ごしてみたり、窓を開けて風の通りを感じてみたりすると、部屋の中のどこが心地よいか、どんな風景が見える化など、間取りづくりへのヒントがたくさんあるはずです。アートアンドクラフトの設計士もよく、現地に紙を持ち込んでそこでエスキス(間取りやデザインのベースを考えること)をしています。
また、可能であればマスキングテープなどを使って壁を立てたい位置や手持ちの家具を置きたい位置に印をつけてみると、よりイメージが湧きやすくなります。
物件の引渡しがまだだったり、他の人が居住中だったりして現地に長時間いるのが難しいときは、できるだけたくさん写真を取りましょう。その時、空間全体のきろくだけではなくて椅子を置くところは座った高さで、寝室に使うところは寝転んだ高さで写真を取ってみるのも良いかと思います。
新築と違って現地の様子を実際に目でみてから検討できることも中古物件のリノベーションの大きなメリットです。
2)間取りの”当たり前”から離れてみよう。
多くのマンションが似た間取りになっている理由を先述しましたが、リノベーションをする際にもnLDKや一般的には”こうあるべき”という考えを一度捨ててみても良いかもしれません。アートアンドクラフトの施工事例にも、「うーん、この間取りはなんて呼ぶんだろう」と悩んでしまうような、でも居心地がよくとてもその人らしい住まいがたくさんあります。
例えば、間取りを作る時に空間の仕切り方は壁だけではありません。収納は細切れで各部屋に有るより、ガツンと大きい方が実は使いやすいという方も多くいますし、キッチンも対面でなくても使いやすい形や配置はたくさんあります。「リノベーション 間取り」と検索すると、例えば、リビングを広く取るのが流行り、などとたくさん情報が出てきますが、もちろんそれも素敵だし、そうじゃなくて個室が大きいのが過ごしやすい人もいます。
コンパクトなマンションだったら、リビングをなくして大きなダイニングでくつろげるようにするのも有りだし、ホテルみたいに洗面が寝室にあってもいい。極端に言うと間取りを決める必要もなくって、大きなワンルームに、その時の気分で家具をおいてベッドスペースにしたり、ダイニングにしたりすることだってできるのです。
当たり前を忘れて考えてみると面白いアイデアに出会えるかもしれません。
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3)まずは10年の暮らしで考えよう
住まいを作るとなるとどうしても将来のことまで考えてしまいます。例えば生まれたばかりの子どもがいる、ファミリー。子ども部屋を確保しておきたいという話が出ることもありますが、それ、本当に今から必要ですか?もちろん、最初から確保したいファミリーもいてもいいですし、まずは広くつかって、将来個室を作るという考え方もありだと思います。
10年後、家族構成が変わっている人もいるでしょう、仕事が変わっている人もいるでしょう、思っても見なかった趣味ができてスペースが必要になる人だっているかも知れません。まずはここ10年程度をいかに過ごしやすくするかで考えてみると間取りの自由度はアップします。
また、ご希望がある場合は将来の間仕切りを想定して扉やスイッチの位置を調整したり、壁を作るための下地を入れておくこともあります。
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4)少し余白を残しておく
図面を眺めているとどんな隙間でも有効に活用したい、と段々盛りだくさんになってしまいます。無駄なスペースはもちろん無い方が良いですが、ちょっとした隙間に気に入っているインテリアが飾れたり、用途を決めていない小さなスペースに椅子をおいたら、思いの外くつろげる場所になったり…ちょっとした余白や、用途を決めないスペースが暮らしの変化を受容することもあります。
収納も同様に、今現在のものを見て場所を決めすぎるよりも、少し余白を残しておくほうが、ものの多さが代わった時に融通がきくので使いやすい場合が多くあります。少し余白を残す余裕も持って間取りを考えるのがおすすめです。
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5)既存を残すおもしろさ
リノベーションして「新築みたい!」と言う売出しの物件や施工事例を見るとちょっとモヤッとしませんか。間取りも、スケルトンにしてイチから作るのもいいですが、まずは既存の状態をよく眺めてみると、「あれ、ここそのまま使えるんじゃない?ちょっと面白いかも。」というような間仕切りやパーツを見つけることがあります。
紙の図面の上で壁をずらすのは簡単ですが、実際には壁を解体する他にも壁を撤去したことによる天井や床材の補修、内装材のやり変え、壁についていたスイッチやコンセントなど電気関係の工事など、多くの手間と費用がかかります。リノベーションと言っても、すべてを新しくする必要はありません。
元々ある壁やパーツを活かして思いもよらなかった空間ができることもリノベーションの醍醐味です。新築だったら個室にしないような、元がキッチンや押し入れだった2畳くらいの空間が小さなこもれる書斎になって、家の中で一番お気に入りの場所になることだってあるんです。
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6)事例をたくさん見よう
あとは、当然ですがとにかく事例を見ること。こんなことやりたいと、イメージ写真をたくさん集めるのもいいですが、できるだけ実際に脚を運んでリノベーション事例を見てみると、「このくらいの広さが落ち着くな」「こんな空間のつながりがすてきだな」など、間取りづくりのヒントがたくさんあります。
イメージに近いものも、少し違った事例でも大丈夫。まずは実際に見て体感してみるのがおすすめです。
7)設計士に”編集”してもらう
最後のコツは、最終的には設計士にまとめてもらうこと。イメージやアイデアを沢山集めても、パーツを集めるだけでは全体としてチグハグになったり、使いにくい空間になってしまったり。
美容院になりたい髪型の写真を持っていくときのことを考えてみてください。イメージに近づけるのはもちろんですが、髪の癖や頭の形、手入れのしやすさなどを考えてカットしてくれると思います。住まいの設計でも、設計士がご要望をうまくまとめ、バランスを整え、時には思ってもみなかったような提案をしながら一緒に形を作り上げていきます。さらにデザインや使い勝手はもちろん、実際に工事で実現できるかを検討するのも設計士のしごと。
「こんなことできるかな?」と思ったら、恥ずかしがらずにまずは設計士にご相談ください。設計士がご要望を編集し、形にしていきます。きっと面白い提案をしてもらえるはずです。
ユニークな間取りを実現したリノベーション施工事例
・玄関に入ってすぐ、どーんと大きいLDK。真ん中には約4.7メートルの大きなキッチン兼ダイニングテーブル。格子で仕切られたリビングスペース、トイレと一体化した洗面に、WICをアレンジしたDENなど、間取りを楽しむアイデアがもりだくさんの事例です。
・L字型の少し変形した形だったこちらの部屋。あえてキッチンを対面から壁付けに。寝室は細長くて一見使い方に迷いそうですが、奥を収納にすることで広く明るく使いやすく。個室が合ったところにリビングを。玄関横の個室は収納兼、ちょっとした作業スペースに。ひとつひとつは小さな工夫ですが、じっくり見るととても工夫された間取りだと気が付きます。
・壁の穴から顔をのぞかせる子どもたち。約90平米の広い間取りを、緩やかにつなげながら、ユニークな間取りにリノベーション。キッチンを部屋の中心に動かして元のスペースには洗面からつながるWIC、脱衣室から廊下に出してきた洗面台、寝室の前に小さな間を設けていたり・・そして全体を回遊できる。見れば見るほど楽しい間取りになっています。
・特徴は室内より大きなルーフバルコニーと、たくさんの明るい窓。キッチンを部屋の真ん中に持ってくることで、どこにいても外を感じられる明るい住まいになりました。元々キッチンだった場所をつかった小さなDEN、緩やかにつながる寝室も見どころです。
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その他にもたくさんの施工事例があります。ぜひ気になる事例を見つけてください!!
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文:松下文子 Arts &Crafts 取締役副社長