言葉の輪郭
今日はトモコさんからのご質問です。先日、"permission"について書いたブログを読んで質問を送ってくださいました。ありがとうございます!
日本語にするのが難しいシンプルで素敵な英語
いつも興味深く読ませていただいてます。”give your self permission to“という表現、自分の中でここ1年ほど、日本語でなんて言い換えるべきか繰り返し考えていた表現でした。わたしは、ヨガを教えていて(まだ見習いですが)、わたしの師匠の1人が使う表現”Give yourself permission to rest.” “Give your self permission to be heavy on the ground.” “Give your self permission to take a moment to breath”などという言葉を、日本語で伝えたいなと思うのですが、「~する許可を与えてあげましょう」だとレッスン中の声かけとしては長いし、少し重たくて。「休んでも良いんだよと自分に言ってあげましょう」「地面の上で、身体を重たく感じて」「ゆっくりと呼吸に意識を向けてみましょう」というような声かけをしていたのですが、もっとしっくりくる表現がないものか日々考えていました。”Give yourself permission”というのは、ここで改めて、襟を正して(?)その行為をするのに積極的な努力を伴うようなニュアンスを感じていて、意識的にその行為をすることで安心感が生まれそうな希望を含んでいるような気がして、素敵な表現だなと思うのです。もし、アドバイスがありましたら、教えていただけるとうれしいです。ヨガのクラスの中でよく使われる言葉では、他に”let go”とか、”surrender”とか。すごく良いのですが、なかなか日本語にしずらいです。”breathe!"にしても、「呼吸を続けて”とか言いますが、ちょっとテンポが違うのですよね。日本語の奥ゆかしさも良いですが、こういう時、英語ってシンプルでいいなと思います。
訳し難い言葉の正体?!
トモコさん、こんにちは!ご質問ありがとうございます!こちらのブログを読んでくださったんですね!嬉しいです♪
このブログに出てきた"Giver yourself a permission"(自分に許可を与える)という表現。あいちゃんがお友達からもらった励ましのメールに書いてあって、「素敵な表現だけど、日本語にしようとすると何だかニュアンスが違っちゃうのよね」と話していたものです。(そして、ブログに書くことにしました 笑)
こういう「訳し難い言葉」って通訳をしていても頻繁に遭遇します。いわゆる「定訳」が決まっている言葉や、業界独特の表現などは「必ず覚えなくてはいけない!」というプレッシャーで苦しいのですが(苦笑)、定訳がない言葉は話し手の意図や、聞いている側の特性(そこで話されている内容の専門家なのか、一般の方々を対象とした講演や公共の電波に乗ってお茶の間に届けられる番組なのか、などなど)によって、どれくらい噛み砕いた表現にするのかを常に考えながら訳します。通訳はリアルタイムで訳出することが求められる「瞬間芸(笑)」なので、「もうちょっと考えたい〜!!!」と思いつつ「エイヤっ!!」とばかりに訳してしまうことも多々あります。そして、終わってから「あの言葉は、こっちの表現の方が良かったかな」などと、一人反省会よろしくウジウジと考えるのが通訳者というものです。(とほほ)
そもそも言葉が表しているものが難しい!
さて、「訳し難い言葉」について考えてみると、実は「訳し難い」というより、言葉そのものが難いことが多いような気がします。 ”permission”もそうですが、ご質問に書いてくださった”let go” や”surrender”なども、改めて言葉の意味を説明しろと言われたら、それが英語でも日本語でも難しい気がするのですよね。
言葉って「この言葉はこういう意味」と明確な場合もありますが、殆どは周りにボワーっとした曖昧な部分があるように思うんです。ニュアンスとか呼ばれるようなものでしょうか。私は「言葉の輪郭」という言い方をしたりするのですが、ボワーっとした曖昧な部分が多い言葉は輪郭がはっきりしないので、そもそも言葉に意味を格納するのが難しい。だから訳すのも難しいのだろうと感じています。通訳していても、「伝えたいことはホントはこの表現では納まらないのに〜!!」って思いながら、無理やり「意味」を「言葉」に閉じ込めているような気分になることもあります。
感覚を表す言葉
トモコさんはヨガの先生をされているということ。素晴らしいですね!ヨガは体だけではなく、感情も整えてくれるような気がして私も大好きです!ご質問の内容からすると英語の先生に習って、日本語で教えていらっしゃるのかしら?
私の経験では、感情や体の状態など感覚に関わる言葉というのは、とても訳し難いです。感覚というのは、そもそも言葉で表現するのが難しいし、「自分が感じること」なので同じ言葉でも人によって受け取り方も違ったりもするし、「どうやったら伝わるんだろう」と悩むことが本当に多いんです。きっとトモコさんがヨガを教えているときも、感情や体の状態など感覚に関わる言葉がたくさん出てくるのでしょうね。悩ましい・・・。
もう随分前の話ですが、アメリカで国際交流のプログラムに参加したときに皆んなでソウルミュージックを合唱する機会があったんです。百人以上での大合唱で、私を含め参加者の殆どはソウルミュージックを唄うなんて人生で初めての経験でした。そのグループの中に抜群に歌が上手いマテッサという黒人の女の子がいました。合唱していても彼女の歌唱力は飛び抜けていて、皆んなの羨望の的。そんなマテッサにある人が「ソウルミュージックはどんな感情で唄えば良いのか教えて」って聞いたんです。そうしたら、マテッサは「I can only tell you how “I” feel when I sing the song but I don’t know how “you” are supposed to feel.(この歌を唄うときに”私“がどんな感情になるのかを話すことは出来るけど、”あなた”がどんな感情で唄うべきなのかは私にはわからないわ)」って言ったんです。唄うときの感情は人それぞれ。そして、「自分がどんな感情で唄うか」は「自分」で決めれば良い、ということでしょうか。
「これ何て訳したら良いんだろう???」とか「意図した通りに伝わっていない〜」とか、悩むときに私はなぜか、このマテッサの言葉を思い出すんですよね。思い出しても答えが見つかるわけではないですけどね〜(笑)。
言葉の輪郭を広げて考えてみる
話が逸れてしまいましたが(汗)、ヨガを教える立場のトモコさんとしては悩みますよね。すごーく良くわかります!とはいえ、give yourself a perissionをはじめ、質問の中で挙げてくださった言葉それぞれについて「こう訳せば良い」という「絶対的な正解」というものがある訳でもない気がします。
質問の中に書いてくださった表現で十分な気もするし、もしかしたら状況や生徒さんによっては違う言い方の方が良いのかもしれない。ご自分で違和感を感じるのだとしたら、その言葉についてトモコさんご自身が先生に言われて気づいたことや学んだこと、ヨガの生徒さんにどんな感覚を持って欲しいのかを考えながら、「言葉の輪郭」を少し広げて「日本語だったら、どんな表現になるだろう」と探ってみるとヒントが見つかるかもしれません。
私はトモコさんが質問の中で書いてくださった「”Give yourself permission”というのは、ここで改めて、襟を正して(?)その行為をするのに積極的な努力を伴うようなニュアンスを感じていて、意識的にその行為をすることで安心感が生まれそうな希望を含んでいるような気がして、素敵な表現だなと思うのです。」という感覚がとても素敵だと思います。私たちは気づかないうちに頑張りすぎていたり、自分で自分に意味の分からないルール(?)を課してしまったりすることがあるので、意識的に自分にpermissionを出すことって大切だと思うんですよね。トモコさんの感性で、「伝えたいことを伝えるのにふさわしい言葉ってなんだろう?」って考えたときに、giver yourself a permissionはどんな表現になるのか、とても興味があります。
なんか、、、ご質問のお答えになっていなくて申し訳ありません(泣)
でも、これに懲りずに是非またご質問を送ってください。一緒に考えましょう〜!(あ、最後まで頼りない・・・汗)
慶子