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鈴の音

鈴の音が静かに鳴り響く

大きな駅を降りる時、たまに托鉢をされている顔馴染みの僧侶に出会います。
その時は必ず少ないですがお布施をして「ありがとうございます」と挨拶をし、息子がいれば息子に任せます。
すると僧侶の方はにっこりと微笑み、鈴を鳴らしてくださいます。

僧侶の方が遠くなっても、人混みの間から、はっきりと聴こえる鈴の音。

僕が選べなかった人生。このように、静かに祈りを込めて生きたかった。
20歳、井の頭公園でござを引いて描いていた似顔絵。300円。僕にとって最低限の生活の糧と、祈りの作業だったのかもしれません。完成した絵は鈴の音のように。
たくさんたくさんの人を描きました。過ぎ去る人生に、さまざまな物語を感じました。絵の具と筆と紙さえあれば満足でした。笑顔で去るお客様に、逆に感謝していました。

父もまた、鹿児島の山奥で、誰にも知られず戸籍も残さず、俗世の執着を捨て、生きてきました。父は父で、先祖の生き方を周到したのでした。僕だけが、右往左往しているような気がします。これじゃ、ガンジス川の火葬でも焼けないでしょう。

祈りを込めて、ただ立つ。
それが今、出来るのでしょうか。
今の人生は今の人生で、おかげさまの上になりたってます。
それでも、あの僧侶のように、路上の片隅で、ただ仏と対峙して祈っていたかった。
なんて清い存在だろう。どこまでも静かで、安定しています。

もう一度、井の頭公園に戻ってみようか。300円で絵を描いて、全部寄付する。そんな時間がないと、僕はもう狂ってしまうのかもしれません。自分の人生を生きたい。
僕の仏と向き合いたい。その間には、何もない。そこに純粋な祈りだけが存在するような。

そんなことを考えながら、重い身体をひきづって、ベビーカーと子供の手を引き、改札を抜けました。
鈴の音は、もはや聞こえなくなりました。

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画家・ペーの日記
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