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恋するコラム「8ミリフィルムに恋する」

「8mmフィルムに恋する」
先日の恋するコラムを書いていた時に、思い出したことがありました。
そう、それこそ「恋」に関することです。
 
学生時代、東京の美大受験に失敗して、地元の教育学部に通っていましたが、東京への夢が捨てきれず、一度休学して、再び上京しようと決めました。
そこで、何かツテがあった方がいいなと思い、都内の映像専門学校に入学することにしました。
 
21歳。東京。田舎者にとっては煌びやかすぎる街でした。
その学校は、老若男女問わず、いろんな人が通っていました。しかも「8mmフィルム」の映像学校なので、とてもマニアックなのです。実験映画と言われるジャンルで、奇抜で抽象的な作風でした。
「おお、まさにTOKYO!!」なんて思ってた矢先に、同じクラスの女性が気になりはじめました。
5歳くらい?年上のお姉様。今思えば、同じ20代なのに、あの頃は、なんて大人に見えたのでしょう。澄んだ瞳と、凛として洗練した姿。ずいぶん背伸びして、何とか話しかけようとしたものです。
そんな田舎者の努力も実り、(といいますか、東京人のコミュ力のおかげですが)、何度かお茶をしたり、美術館に行けるようになりました。
 
そして、今日こそは告白しようと思い、公園に呼び出しました。ドキドキしながら何気ない会話を重ねていたら、彼女が1冊の写真集を出しました。
「私が撮った写真なの。映像作品にもするつもり。見てくれる?」
おお、これこそが、アーティストの会話だな、と感動しながら、写真集を開きました。
 
 
まず、SM女王様が写ってました。
2ページ目、3ページ目、女王様が勢いよく鞭を振るってました。
 
「私の恋人なの」
 
と彼女はいいました。

昼下がりの渋谷の公園はサラリーマンがサンドイッチを食べてました。
 
「あ、そうなんだ・・」
 
ページをめくり続けると、今度は全裸で縄に縛られた男が写っていました。
 
「2番目の恋人なの」
 
僕は完全にフリーズしながら、ページだけは機械的にめくり続けました。
その横で、まとわりつくような熱いまなざしを感じました。
涼しげだった彼女のまなざしは、一種の野獣性が宿っていました。
その時、彼女の心の声が聞こえました。はっきりと。
 
(あなたは3番目の恋人になってくれる?)
 
僕は、怯えました・・。
しかし、その野獣的なまなざしには、妖艶さすら感じました。
 
(全裸で縛られて、鞭でしばかれるために上京したんじゃない・・)
必死に理性を保つ心平。

何とか、声を振り絞りました。
「素敵な写真集ありがとう。映像の完成が楽しみだね!」
 
僕らは、沈黙して公園を後にしました。
 
2か月後、学生それぞれの完成試写会が行われました。
暗闇の上映室で、照らし出された8mmの世界。
4畳半の和室で、ヒールを履いた女王様が、永遠とプレイしてました。
教授は、「畳とヒールの組み合わせが最高だ」と言いました。
僕は、男性の悲鳴が聞こえるその上映室を、そっと後にしました。
 
それから映像学校には二度と行くことはありませんでした。
その後、ふらりと立ち寄った井之頭公園で、似顔絵を描き始めることになることになるのですが、それは皆さんもご存知のお話。
 
(おわり)

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