麒麟が来た
龍、という動物を、見たことがある。
動物、と表現していいのかわからないけど、人間ではないし、鳥や虫でもないので、“動物”と表現してみる。
と言っても龍は普通の動物とは随分と違った。
現れたかと思うと、その姿をすぐに空間に溶け込ませるように、まるで映画プレデターの光学迷彩のような状態になり、螺旋を描きながら空へ消えていった。
他にも、これは「動物」という表現には当てはまらないけど、ある時目を閉じていたら、はっきりと瞼の裏にやって来て、七色に鱗を輝かせる、その美しい姿を見せてくれたこともある。
妖精、と呼ばれるような存在を、見たことがある。でも、それも同じように、一瞬の光の姿で、すぐに陽炎のような、空間のゆらめきに変わった。
天狗、を見たことがある。大きな木の上。枝の上に立ち、僕をじっと見下ろしていた。でも僕が驚いて声を上げる間もなく、すぅっと、消えてしまった。
絶滅したはずの動物とか、いるはずのないところで、いるはずのなか動物を見るとか、何度かそういうこともあった。
動物だけではない。
例えば実家で、僕の部屋は二階なのに、足場のない窓の外に、人が立っていたとか(それも3人もいて僕をじっと見ていた)、数人が気づいていたけど、廊下を人が横切ったけど、誰もいなかったとか。
一人暮らしのアパートで、壁から手が出てきて腕を掴まれたとか、八ヶ岳の麓で畑作業中に、空に飛行機時ない丸い銀色の物体がくるくると回りながら飛んでいたとか、そういう不思議なものも目にしたことあるし、目に見えなくても、音や気配、空気感、質感だけなら、もっとたくさんある。
おそらく僕はそのような不思議な体験の回数として、一般的な平均値がどういうものかわからないけど、一般平均よりは多い(それもかなり)方だと思う。
でも、それは「幻覚なんじゃないの?」「勘違いだよ」「気のせいだよ」と言われてしまったら、反論する余地はないし、自分自身も「そうかもしれない」と思えるくらい、一瞬だったり、ちょっと曖昧だったりする。
でも、今から伝えるその動物は、「伝説的」な生き物であり、当然世界中のどんな動物園にだっていないし、動物図鑑にも載っていない。
でも確かにいたのだ。それもチラッと見たとか、空間に消えたとか、「ひょっとしたら違うかもしれない」などという曖昧なものではなかった。
で、何を見たのか?
この話は、言わないつもりだった。どこにも書かないつもりだった。しかし、あえて自分の体験を綴ってみようと思う。
僕はある日“麒麟”を見た。
☆
実はこの話はごく一部の人にしか話していたことがない。ずっと秘めていた。なんとなく「これは言わない方がいい」と思っていたのだ。
ちなみにそれを初めて見たのは、2020年の11月2日の午後23時半を回っていた。
日にちや時間まではっきり覚えているのは、その時、自分の大きなプロジェクトがあり、その最終日で、佳境に迫っていたからだ。
どうして言わなかったのか?
それは「本物」だったからだ。
本物、というのは「リアル(現実)」であるということ。疑いようのない現実だったということ。
例えばあなたの「右手」があるとか、あなたの目の前に「ペットボトル」があるとか、「マグカップ」があるとか、目の前に「壁」や「天井」があるとか。そこに曖昧さがないのと同じように、疑いようのない事実。
そんな感じではっきりと、この目で確かに見た。それも一瞬のことではない。数分間だ。
距離は30メートル以上はあった。だけど僕は目が良い。
あまりに本物だった。しかし、それを話してしまうと、もはやそれは本物でなくなってしまうような気がしたし、それを「見た」だの「見える」だの言って、自分をさも「特別です」としたくなかった。
☆
僕が住む都内某所(23区ではない)の住宅街。近くのマンションの屋上にそれはいた。
僕はその時、自分の部屋のベランダに出ていた。4階で、その建物も同じくらいの高さ。(自宅近辺は高い建物はない)
だからほぼ同じ高さだったのでよく見えた。
プロジェクト云々と書いたけど、わかりずらいと思うので、念のために詳細を述べておこう。すごく個人的なことだけど。
僕は2020年秋、自身のオリジナル楽曲「龍の唄」のミュージックビデオ制作の資金の「クラウドファンディング」に挑戦し、その日は最終日だった。
目標額100万円はとっくに超し、支援は250万円を突破。300万に迫る勢いだった。最後の追い上げで、チームメンバーとグループLINEで連絡をとりながら、支援が入るたびに感謝と興奮が入り混じる、エキサイティングな感覚の中にいた。
とはいえ、僕は「興奮」ってものは好きじゃない。だから一息つきたくなり、ベランダへ出た。ベランダに出るのは珍しいことではなく、目の前に公園があり、深呼吸したり、夜空を眺めるためによく外には出る。
すぐに目についた違和感。なぜなら、隣の隣の建物の屋上が、明るく光っているのだ。明るい照明に照らされているらしい。
そしてその光の中に、動いている生き物がいる。
(あそこって照明なんてあったっけ?)
と先に思ったけど、それよりも、
(…てゆーか、あの生き物……なに?)
目が釘付けになった。
僕は子供の頃から動物が好きで、いつも動物図鑑を眺めていた。動物園もしょっちゅう行った。大人になっても一人で動物園に行くやや「イタイ男」の僕ですら、まったく見たことのない動物がいるのだ。
そもそも建物の屋上に動物がいること自体おかしいのだけど、それよりも自分の知らない動物がいたことに驚いた。
大きさは、大型犬よりは大きいけど、鹿よりは小さい。ヤギくらいかも。でもヤギとはまったく違う顔で、全体にフサフサしている。ライオンのたてがみほどではないが、頭や首の周りが特に毛が豊かだ。毛が多くてわかりずらいけど、ツノのようなものがあるようにも見える。
毛の色は単色ではなく、赤っぽかったり、黄色が混じっていたり、照明の金色の光でキラキラと輝いている。
特徴的なのは長い尻尾で、ふさふさの長い毛が生えて靡いている。ライオンの尻尾の先端のふさふさ部分が、もっと大きくて長いというか…。他に例えようがない。熱帯の猿で、そういう尾を持つ猿がいたけど、もちろん猿ではない。
(なんだあれは…)
ベランダから身を乗り出しそちらの方向を凝視する。その謎の動物はベランダの上を行ったり来たりと徘徊している。弾むような歩き方だ。
時間も遅いせいか周りには人はいない。もし道を歩いてる人がいても、屋上だから気づかないだろうとは思うけど…。
何分くらいそうしていたかわからないが、その動物は突然屋根からひょいと飛び降りて、横の並木道の欅の枝の中に消えた。猿ならともかく、あの大きさの四つ足動物がビル4、5階の高さから木の枝にむかって飛び降りるなんてありえない。
いや、ありえないことだらけだ。
動物がいなくなった後、屋上は眩い照明に照らされたまま、金色に光っていた。僕はその光を眺めながら、ただただ呆然と、今見たことについて思考を巡らせていた。
そこで別の案件を思い出す。いや、むしろ今自分の置かれている状況を思い出す。
ポケットの中のスマートフォンには、何件もグループからLINEが入っていた。普段からマナーモードなので気づかなかった。
そうだ。今は自分の一大イベントが進行中で、いよいよフィニッシュだ。
不思議な光景だったけど、僕はそれどころではなかった。そもそも、近所でハクビシンやタヌキなんかも何度も見ているので、野生動物がいてもおかしくないだろうと、それくらいに思考をとどめて、自分のことに、今起きていることに集中した。
SNSで近況を伝えながら、ラストに高額の支援が立て続けに入り、目標の三倍を超える300万を超えた。そして0時で終了。チームメンバーと喜びを分かち合った。
さらに個人的な話を挟むけど、このクラウドファンディングのおかげで、自身の作品を形にして、世に送り出すことができた。資金のおかげで、アルバム制作のレコーディング費用や、CDを作る資金なども得ることができた。
しかも人数が300人以上もいて、今こうして思い出しても、応援してくださった方には感謝しかない。
さて、その晩はやはり興奮冷めやらず、関係者にメッセージを送ったりしてるうちに、眠くなって床に着いた。
そして翌朝、昨夜の興奮冷めやらず、……なんだけど、冷静になって思い出す。というか、ずっと目の前のクラウドファンディングに集中するために、目にした“あれ”について考えるのを止めていた”という感じだったのだ。しかし、とりあえずクラウドファンディングは終わり、心置きなく考えることができるようになった。
と、ここまでが僕が謎の生き物を目撃した前後の、状況説明だ。
(……あれは、一体なんだったんだ?)
続く
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