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言葉の奥にあるもの。
登山道、といってもここは整備されたハイキングコースだ。休憩スペースは定期的に設けられている。
お年寄りがベンチで休んでいる。「こんにちは」と声を掛け合い、僕は彼らを追い越し先へ進む。
ゆっくり歩く人を、僕が追い抜く時もあるし、逆に、下山してくる人とすれ違う時もある。
追い抜いたり、すれ違うたび「こんにちは」と一言声をかける。別にそんなルールはないし、人があまりに多すぎる時はそんなこと逐一全員に言ってはいられないが、今日くらい空いていると、いい気分で挨拶ができる。
山ですれ違う時の、見知らぬ人への「こんにちは」の一言の中には、マンションの敷地内で近所の人にいう“こんにちは”とは、ずいぶん違ったものになる。
同じ「こ・ん・に・ち・は」という5文字でも、情報量が違うのだ。
我々は言葉でコミュニケーションを取る。しかし、本当に知りたいのは、その言葉の奥。言葉の奥を伝えるセンス(感覚)と、受け取るセンス。
双方の共鳴が、交流を、そして、人生を豊かにするのではないのだろうか?
便利な動画コンテンツで、上滑りの言葉を聴いてるだけで、「情報」という名の下に“わかったつもり”になってはいやしないだろうか?
高尾山はいくつも登山道があるけど、僕は大抵『稲荷山コース』か『6号路』のコースを選ぶ。理由はその二つが一番「山」とか「森」とか、自然を楽しめるコースだからだ。他のコースは途中から寺院になったり、アスファルト敷だったりする。
つい数年前まで長野県に住み、3000メートル級の山々に登っていた僕にとっては高尾山は登山というより散歩のようなものだが、交通の便の良さとその気軽さで、多い時は週に一度、少なくても月に一回は来る。
平日にやってくると、幼稚園、小学生、中高生の団体グループがいつもいて、大学生のような若者の集団もいるのでなんだかんだで賑わっているが、都内は連日最高気温が37度の酷暑が続き、熱中症を恐れてなのか、その手の団体はいなかった。
しかし、それでも登山客はいた。平日なのでやはり年配の人が多い。
実際にやって来て足を踏み入れるまでは、高尾山くらいの低山だとさぞかし暑いのだろうと思っていたが、森の中に入ると途端に涼しげになった。
おそらく、気温ではないのだろう。都会の暑さは「不快」なのだ。その不快さは、熱を溜め込むアスファルトやコンクリートの建物。そしてエアコンの室外機の吐き出す熱風だ。
都内でも、明治神宮や新宿御苑など、緑の多い森の中の木陰などは、まだ涼しい。
暑さは確かにあるけど、我々が感じる「不快さ」は、自然なものよりも、圧倒的に人工的なものだということだ。
人間というのはおかしなものだと思う。自分達で土をアスファルトで覆い隠し、樹木を切り倒し、コンクリートの建物を建てておいて、「暑い暑い」と不平不満を漏らし、その不快を解消すべくクーラーをガンガンつけて、ますます街の中は熱風にまみれる。
昨今だと、その中でマスクをして歩いているのだ。もはやコントとしか思えないが、マスクをしながら、手持ちの扇風機を顔に当てて歩いている女子高生がいて、この国の行く末に不安になったほどだ。
そんな街の中を離れて、山へ。森の中には涼しい風が吹き抜け、流れる汗も心なしかサラッとしている気がする。
何人もすれ違う年配の人たち。みんな汗をかき、息切らしている。
ニュースを見れば熱中症熱中症と言っているし、確かにそういう人は多いのだろうけど、多分、こうして山の中で汗をかいて歩いている人は、熱中症になんてまずならないんだろうなと思った。
一概には言えないけど、クーラーの中にずっといて、体は逆に冷えて、その中で水分だけを摂り、体を冷やすものを食べるから、ますます血行は悪くなり、食欲も衰える。そして、弱ったところに、ちょっと外へ行ったり、冷房の温度を節電として緩めたら、そこで熱気にやられてしまう。
自分の足を使って自然の中を歩き、汗を掻いて心肺を活動させることで、血行は良いし、肉体は疲労するからよく眠れるし、お腹も空く。だから元気だ。
山へ行くから元気になる、なんて書くと「元気だから山へ行けるんだよ」と反論が来るかもしれないが、そんな「鶏が先か?卵が先か?」論をやりあうつもりはない。
山は、一歩が大事だ。ゴールが大事なのではない。もちろん、「ゴールがある」という目標設定があるから、モチベーションが続くのかもしれないけど、とにかく目の前の一歩だ。
山道は、自然の道。斜面があり、木の根があり、石や岩があり、ザレ場があり、ぬかるみがある。遠くのゴールばかり見てたら、足元が疎かになり、つまずいたり、滑ったりして危険だ。
だから、一歩、が何よりも重要だ。目の前の一歩に集中。
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一歩一歩を、確実にしていく。さっきの一歩を出した自分と、新しい一歩を出してる自分は、同じ自分じゃないという、不思議な感覚になってくる。
歩く瞑想。ウォーキングメディテーションなんてものがあるし、僕はとても意識している。
だけど新たな一歩を踏み出す自分はさっきとは違う自分だとしても、それが“新しい自分”という気もしない。
“自分”はいつも、古くも新しくもない。自分はいつも『今』にしかない。そんな感覚だけど、言葉にしてしまうと愚かな言葉遊びにしか聞こえないから、これ以上はなにも言えない。
目の前の一歩が重要だけど、山登りには山頂という中間ゴールがあり、下山してまた登山口に戻るというゴールがある。それはわかる。僕もずっとそう思ってやってきた。
でも時々こうして、ゴールのない道のりにただ存在している自分を意識することで、完結している瞬間瞬間に出会える。それは、普段感じる「楽しい」という感情を超えた、もっと深い深い「楽しさ」だ。
高尾山の6号路の山頂手前のクライマックスは、長い木道の階段がある。
登山や山歩きした人ならわかるだろうけど、階段が一番疲れる。太ももを上げる運動がなかなか“くる”のだ。
でも、1時間ちょっとのコースなので、このくらいの階段はなんなく引き受けるので、楽しく歩ける。一歩一歩。一段一段。
稲荷山コースも、仕上げは長い階段だが、6号路の方が階段の数は多い。ちなみに数えながら登ってみたら382段だった。
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汗だくで山頂に行き、絶景の景色を眺める。
眺めてから、写真を撮る。
ついつい、目と心で味わう前に、スマホで撮ろうとしてしまう自分がいて、それを堪えて、まずは心で観る。
現代人はなんでもスマホに収めるので、実は風景やらなんやらをあまり記憶してない、というデータもある。何のための目であり脳なのか。スマホに見せて、スマホに覚えさせても、それはデジタルデータに残るのだろうけど、そこに何の「感動」があるだろう?
それにしても暑かった。高尾山の山頂は石畳だ。
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ビールを飲んでいる人がたくさんいた。いや、いつもいるんだけど、普段は子供たちの方が目につくせいか気にならなかったけど、木陰でうまそうにビールを飲む人たちを見ていると、我慢できなくなってしまった。
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これほど美味いビールを飲むのは久々だった。やはり、暑いからこそビールは美味い。キンキンに冷えた店内では、冷たいビールも、アイスコーヒーも、その美味しさを味わえていない気がする。
これも、瞬間なのだとろう。暑いから、暑さの時を味わう。寒いなら、寒さを味わう。スマホに味わってもらっても意味がない。
自分を使って、世界を味わおうと思う。どんな世界だとしても。異常気象でも、猛暑でも、今あるものを、感じるのだ。
それにしても、山へ行くと元気になる。たっぷり疲れるから、元気になる。元気は使うから、元気なのだ。
「こんにちは」
もしどこかの山で僕に会ったら、声をかけてくださいね。いや、僕から声をかけるかもしれないので、その時は言葉を返してくれると嬉しい。まあ、あまりにも混み合ってたら声をかけれるかわからないけどね(笑)。
きっと、僕らはそこで「元気」を共有できる。
☆ アーティストチャンネルに「LOVESONG」、アップしました。
LIVE予定。
生歌アコースティック「声浴」
8月21日(日) 東京
8月27日(土) 大阪
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