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この「すばらしき世界」に

お知らせ 

⭐︎  3月5日(金)「奥平亜美衣さんと『真の目醒め』について語る」。アーカイブ録画を12日まで視聴できます。(こちらから

⭐︎  3月14日(日)14時〜

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以前、こんなエッセイを書いたが、

今回もそんな感じでよろしくです。

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当時、と言っても今から十数年前。僕が住んでいたアパートは西側が開けていて、そこは広い畑だった。練馬区には畑が多く、初めてこの辺りに来た時は「ここは東京か?」と、不思議に思ったものだ。

畑が広いおかげで、天気の良い日には、西に奥多摩地方の山々が連なっているのが見えて、窓辺に座って空や遠くの山を眺めるのが好きだった。

畑の主はアパートの大家さんだ。大家さんの母屋は、敷地の一番道路側にある、平家の大きな家だった。きっと、昔からこの辺りの地主なのだろう。

大家さんはその時点でかなり高齢だった。そのアパートには妻と二人で暮らしていたが(もともと、妻が一人暮らしをしていて、そこに僕が転がり込み、挙句にもう一人生まれてしまって、三人になって手狭になったので引っ越した)、

「多分、70半ばは過ぎてるよね」と、勝手に大家さんのおじいちゃんの年齢をそう予測していた。

アパートの管理とか、家賃の受け渡しは、奥さんの方か、もしくは、おそらくは独身の、僕より二回りくらい年は上であろう娘さんがやるので、基本的にさほどそのおじいちゃんの大家さんと絡みはない。

会えば、挨拶はする。おじいちゃんは愛想はない。ただぼそっと、挨拶に答える。少し腰が曲がっていて、一人で黙々と、広い畑で、朝早くから作業をしている。

採れた野菜は、農協とかに出荷しているとか、その辺まではわからない。広い畑だが、大規模にやってるわけではない。ただ、敷地の入り口に、中身の見えるコインロッカーを設置して、100円とか200円とかで販売していた。形の悪い人参とか、100円で大量に入っている。その近辺には、他にもそのように採れ立ての野菜を買う場所がたくさんあった。長閑な地域なのだ。

僕はそのおじいちゃんが嫌いではなかった。というか、むしろ好感を持っていた。理由はよくわからない。その人の持つ雰囲気としか言いようがないだろう。妻も同じように、その無愛想で、無骨で、頑固そうなおじいちゃんをけっこう気に入っているようだった。

おじいちゃんは畑作業の合間に、畑の真ん中で、コンテナと呼ばれる採集BOXの上に腰掛けて、タバコを吸う。その「一服」してる後ろ姿(決まってこちらに背を向けていた)が、なんとも味があった。

僕は当時、禁煙をしたばかりだった。自らの意思で止めたというより、喘息になってしまい、吸えなくなってしまったのだ。

しかし、おじいちゃんが仕事の合間に、一服をしている姿を観ていると、無性にタバコを吸いたくなったものだ。それほど、彼はうまそうに煙をふかした。

今でもふとした時に、意図せずに、あの光景を思い出す。タバコとか、お年寄りとか、畑の風景とか、そんなものがきっかけになって、僕の物覚えの悪い脳味噌が、雑多な記憶の貯蔵庫からその景色を引っ張り出すのだ。

思い出すのは決まって夕暮れ時の光景だ。

アパートから西側に畑はあったので、夕暮れ時になると、沈みかかった西日を浴びて、オレンジ色の光に包まれながら、仕事終わりにタバコをくゆらすおじいちゃんの背中。

その景色はまるで有名な画家が書いた一枚の風景画のように、美しい光景だった。

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