ある女の“気づき”とぼやき。「嘘」と「共感」
「ちょっと、そこのお醤油取ってもらっていい?私、アジフライにはソースも好きだけど、どっちかというと醤油派なのよね。
あ、それって丸大豆醤油って書いてる?裏、裏。成分表よ。脱脂加工大豆?ははーん、じゃあアルコールも添加されてるでしょ?
え?うんとね、つまり大豆の搾りかすをアルコールで無理やり発酵させて作った、醤油もどきみたいなものよ。伝統的な製法じゃないの。
そんなもんばっかりよ。そこそこいいお店なのにね、ここ。まあこれくらいのレベルの居酒屋でも、テーブルの醤油までは気を使えなかったようね。
私がグルメで、そういう調味料ひとつにもこだわってるの知ってるでしょ?でも本当に味とか違うのよ?もちろん健康にもね。あんたも痩せたい痩せたいっていうなら、その辺気を使いなさいよ。
その日本酒だってね、ちゃんと純米酒なんだから美味しいのよ…。え?違いがわからない?ちょっと、そのドリンクメニューちょうだい?
ほら、こっちは醸造酒ってあるでしょ?これは、麹の力の発酵だけじゃなくて、醤油と同じよ。工業用のアルコール入れて、無理やり酒にしているの。だいたいこういうのは悪酔いするのよ。
でも味のわからない人には、むしろ“キリッと辛口でいいねぇ”なんて言うのよね。そりゃエタノール入ってるからパンチ力あるでしょ!最近のストロングなんとかっていうチューハイと同じよ。アルコールの刺激で飲んだ気になってる、刺激中毒よ。そんでアル中。
ところでさ、世の中ってほんとに嘘ばっかりじゃない?知ってる?あの漫画家。えーっと、なんてったけな…。子育てとか、家族とかの、ほのぼの系の漫画描いている人。……そうそう!それそれ!
子育ての奮闘とか面白く、幸せそうに家族を描いてさ、ずっと人気で大儲けしてたんだけど、最近その娘が大人になって、暴露ブログとか書いて…、え?知らない?
なんかね、娘の話を聞くと実は強烈に毒親なのよ。虐待ね、虐待。それを全部隠して、都合の良い部分だけ書いて、あかたも“良き母親”みたいな風に自分を見せてたわけ。まあ、それで今きっちり娘から復讐にあってるわけだけど、ずっと読者を騙してたわけじゃない?
そういう話多いのよねぇ。なんか、有名な自己啓発とかスピリチュアルとかの人がさ、まあ、元から怪しいからあんまり興味なかったけど、パートナーシップの本とか出してたわけよ?夫婦円満の秘訣とか、そういうこと書いた本。
でも実はその人、夫婦関係うまくいってなくて、その後しばらくして離婚してって…。
その本にしろ、漫画にしろ、買った人たくさんいるわけじゃない?それで大儲けしてるわけだし。全部返金しろって言いたくなるわよね。
そういうの多いわよ〜。お金の稼ぎ方教えますとか言ってる人が、実は借金まみれとか、あなたの人生助けます、みたいなカウンセラーとかコンサルタントが、クライアントから返金訴訟起こされてるとか。
え?なんでそんなに詳しいのって?そりゃ私みたいなメディア関係の仕事してるとさ、自然に耳に入るのよ。それに実際ね、超いいこと言ってる人がね、会ってみると案外おかしい人だったり。
でもね、なんか分かったわ。どうしてそんな人たちが売れっ子になったりするか。そしてみんなころっと騙されるのか。
わかる?ちょっと、自分でも考えなさいよ。そうやってすぐに答えを人に求めるから人間どんどん脳みそ退化すんのよ。
でね…。
あ!
来た来た!この煮付け!美味しいのよ〜。今が旬だからね。
……うん…うん…!うま!どう?やばくないこれ?
でしょ?
ふー、美味しいもの食べてる時が一番幸せね〜。男なんていらないって、こういう時は本気で思うわ。
え?美味しいねって一緒に共有したい?
うーん、そうね。たしかにそれもあるけど、自分の口は自分の口だからね。てゆーか、そういう趣味が合えばいいわよ?私が前に付き合って男でさ、お酒飲まないし、食事も脂っこい肉ばっかりで、全然楽しめなかった。優しくて、カッコよくて、収入もあったけどさ、やっぱ食事って毎日のことじゃない?ここがずれてると悲惨よ。あれ?この話前も話さなかったっけ?
まあいいわ。とにかくさ、パートナーがうんぬんの前に「自分ありき」よ。自分が自立もしてないで、誰かに幸せにしてもらおうなんて発想してる時点で、自分の幸せ放棄しているようなものよ。自分の幸せは、自分で作っていくしかないのよね。
だからこの「美味しい!」って体験はさ、本物じゃない?
ほら、もう一口味わって。そうそう…、そして、その魚の旨味と、出汁の濃厚さの余韻が消える前に、この辛口純米酒をくいっと飲む…。
ハーモニーでしょ?この体験、至福よね〜。この体験こそが本物なのよ。私たちって結局のところ、本を読んだり、いい映画見たり、いいお話聞ける講演会とか行ったりして、いくら頭に詰め込んだところで、体験しないと学べない生き物なのよ。
テレビもネットも、誰かの体験を読んだり見たりして、確かにそれで体験した気になれるんだけど、それは絶対“自分”じゃないの。みんなSNSに毒されてるわね。この“やったつもり”ってのが一番怖いのよね。
ん?ああ、いいのよ。さっきお料理を写真撮ってインスタにあげてたあんたのこと言ってんじゃないのよ。私だってインスタ使うから。
ほら、じゃあ写真撮ろ?今日は女子会、女子トーク!自撮りで行くよ!はーい、チーズ!
………えっと、ごめん。もう一回いい?ちょっと、写りがね…。はーい、いくよー。チーズ。
…………よし。ほら、あんたも確認して?これでいい?大丈夫でしょ?
ちょっと、お肌を白く加工しておくから………って、私も嘘だらけじゃーい!!
いやー、これね!うん、私もね、嘘だってわかってるのよ。でも、これくらいのホワイトニングはさ、まあ、ファンデーション塗るようなものでしょ?人前出る時の礼儀みたいなもんでしょ?そういうことにしておきましょ?
でもこれって不思議よね?私たちってさ、化粧したり、SNSの写真加工したりさ、別に男のためってわけじゃないじゃん?確かにそれもあるけど、多分男の目よりも、うちらはそれ以上に同性の目を気にしているし、それよりも自分自身の価値観とか美意識とかプライドみたいなものを満足させているのよね。
てかさ、なんでそんな嘘つきのものが人気出たり、流行ったりするかわかる?同じレベルだからよ。私たちと同じレベルだから、その人たちの言うことに共感できるのよ。本当に聖人のような立派な人だったり、雲の上の存在だと共感できないでしょ?
ただ、あの人たちは自分に正直なのよね。嘘つきなくせに、自分自身には嘘はないっていうのも変だけど、自分が欲しいものを手に入れるためなら、なんでもできちゃう、何でも平気で言えちゃうっていう鉄のメンタルとかあるから、そこは一般人と違うところね。
……。まあ、そうなるとさ、私も人のことなんて言えねーかー!ぎゃはははは。
さ、食べよ食べよ。おいしーもん食べて、とことん幸せになっちゃお。
終わり
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言葉を紡ぐ、心を繋ぐ
アーティスト、作家・大島ケンスケによる独自の視点からのエッセイや、スピリチュアルなメッセージを含むコラムを、週に3回以上更新していきます。…
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