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「水と光と」 不思議な物語

「質問は、ひとつだけです」

紫明は私の顔を見ながらそう言った。私は何か尋ねたわけではなかった。

私は紫明に質問をしたことがない。なぜなら、彼の佇まいや、無口な背中や肩から発せられる何かが、私に質問をさせることを強く止める何かがあったからだ。

しかし、私はどうしても、彼に尋ねてみたかった。彼の考えを聞いてみたかった。

その気持ちが、顔に出ていたのか、彼が私の心を読んだのがわからないが、彼の方からそう言ったので、私は驚いた。驚いた、と言っても、時々あることなので、それほど強い驚きではなかったが…。

「私は、質問には答えない主義です」と、私が何か言う前に、そんなことを言う。

質問は一つだけとか、でも答えないとか、矛盾したことを言われて、私はどうしていいのかわからず、きっと素っ頓狂な顔をしていたに違いない。紫明は私の顔を見ながら静かに微笑んだ。師が笑うのは珍しい。

「聞きたいことは?」

私はとりあえず気を取り直し、カップに残っていたお茶を飲みほした。ごくごくと、音を立てて。

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