世界で何が起こっていても、空の色だけ信じよう。
今回のnoteは「フィクション小説」です。あくまでも、個人的見解や、創作です。
龍の唄。まもなく公開。グッドボタン、コメント、お待ちしております!
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(半分無料で読めます)
エイミは怖くて怖くて仕方がなかった。毎日恐怖に怯えていた。外を歩くときは、常に360度注意を払っていた。
コートの中に、丈夫な革製のジャケットを身につけ、刃物が飛んできてもちょっとやそっとでは怪我はしないだろう。ただし、銃弾ならば、こんなものは何の役にも立たないが…。
世界は「第三次世界大戦に入った」と、ニュースでやっていた。隣の国では、毒ガス兵器が使われ、大勢の人が死んだという。また、エイミの国の首都でも、爆弾騒ぎがあり、たくさんの死者が出たとニュースでやっていた。
エイミーの街も、いたるところにスパイや工作員がいて、街を占拠しようと企んでいるらしい。ニュースでも「気をつけてください!」と、キャスターが言っていた。
どこに潜んでいるのかはわからないが、ビルの陰や、混雑に紛れて、彼らは恐ろしい武器を忍ばせ、私たちを襲う準備をしている。
「食料品を備蓄して、家から極力でないように」
「友人だと思っていた人がスパイかもしれないので、極力、コミュニケーションを控えるように」
「細菌兵器を持っているので、マスクを着用し、常に消毒するように」
テレビから、絶えずそんなアナウンスがあり、エイミは恐怖に慄きながら、こうしてたまに買い物に来るために街へ出た。
ストレスで疲れが溜まっていくのがわかるが、今は戦時中だ。きっと、祖父母たちが経験した、第二次大戦中も同じ、いや、もっと辛かっただろう。
そんな生活が数ヶ月経った。いまだに、街には工作員がはびこり、被害者は連日増すばかり、と報道している。エイミは直接工作員を見たり、毒ガスを見たわけではないが(そもそも目には見えない)、ニュースでは連日、危険を知らせる報道が流れている。
買い物の際にに街を見渡すと、エイミと同じように、全身をガードして歩く人たちが多いが、まったく無防備で、以前と変わらない格好で歩いている人たちもいる。いったいどういうつもりだろう?
彼らはバカだ。ああいう危機感のない連中はさっさと死ぬに違いない。いや、彼らが死ぬのはどうでもいいが、こちらが巻き添えになるのはごめんだと、エイミはそういう人を見ると一目散に離れる。工作員が、彼らを狙って細菌兵器を使いもしれないのだ。
しかし、細菌兵器に関しては大丈夫かもしれない。なんと、ワクチンが開発されたらしい。ワクチンさえあれば、細菌も効かなくなるとのことだ。ワクチンが待ち遠しい。
明くる日、朝のニュースをみようとテレビをつけた。朝の日課だ。新聞とテレビニュースを欠かさずチェックする。
しかし、ニュース番組が始まらない。画面は「試験放送」と表示され、赤や黄色、青などの太いラインが縦縞になっている。どのチャンネルもそうなっていた。こんなことは初めてだ。
エイミーは不審に思い、普段まず開かないインターネットを開いた。インターネットはフェイクニュースや、人を惑わす嘘の情報が多いから見てはいけないと、テレビで言っていたので、スマートフォンでSNSやネットニュースは観なくなっていたのだ。
ヤフーニュースなどの大手のネットニュースでは、特に変わったことが書いていない。それが逆に不自然だった。
気になって、ここ数ヶ月開いていないSNSを見ようと思ったら、なんとそちらもつながらない。
エイミは、最終手段と思って「ラジオ」をつけた。ラジオアプリはスマートフォンに入っている。
「…我々は、騙されていました!」
第一声に聞こえた声。どこの局かはわからない。
「今から起こることは、信じられないかもしれません!しかし、事実です!おかしいと思いませんか?どこに工作員がいますか?細菌兵器がありますか?」
エイミはその音声に釘付けになる。
「全部、嘘です。ぜーんぶ、うそだったんです!いいですか?我々国民は、大きな大きな嘘を、国家ぐるみでつかれていたのです!あ、間も無く、レジスタンスが、テレビ局を占拠し…、ああ!放送準備できてます!テレビをつけてください!テレビを見てください!」
と、ラジオで誰かが話したところで、さっきまで何も写っていなかったテレビがついた。自衛隊のような、迷彩服を来た男たちの中に、見慣れたタレントと、官房長官と、厚生大臣と、東京都知事が写っていた。
後ろの方から、背の高い女性が出てきた。モデルにでもなれそうな、綺麗な人だ。服装は黒のパンツスーツで、清潔そうな白いシャツと、胸元に金色のネックレス。
「ただいま、全放送局の電波を使用して報道しております。緊急生放送です。これはテロではありません。ご安心ください。私はネットジャーナリストで、地球維新同盟広報担当の片桐と申します」
女性はにこやかに話す。
(地球維新同盟?そういえば、陰謀論を唱えるそんな組織がいるって、ニュースでだいぶ前に流れていたな)と、エイミは思い出す。
「本当は、もっとゆっくりと、徐々に徐々に、少しずつ情報を開示していきたかったのですが、今回は多少荒っぽい方法をとってしまいました。しかし、そうしないと、彼らは私たちを騙し、搾取しつづけることをやめなかったのです。我々が目覚めるためには、強硬手段が必要だと、維新同盟は判断しました」
カメラは、項垂れている官房長官や、都知事を一通り写し、また女性に戻る。
「確かに、世界では戦争が起きています。しかし、それはなにもミサイルや銃弾が飛ぶような戦争ではありません。情報戦争です。あくまでも、恐怖を使って、人心をコントロールしようとする戦争です。詳しくは、直接お話を伺いましょう。私の口から話すよりも、説得力があると思います、官房長官、どうぞ」
カメラが官房長官のアップになる。おどおどした様子で、周囲を伺う。
「どうぞ。あなたの口から、正直にお伝えください」
女性にもう一度言われて、官房長官が渋々といった様子で、ぼそぼそした声で話し始めた。
「え、えーと、実はですね、その〜、あの〜、最近のですね、報道はですね…」
「声が小さいぞ」
カメラには映ってないが、男の声が聞こえた。官房長官はびくっと体を震わせて、さっきよりは聞こえやすい声で話す。
「全部、嘘だったんです。戦争は、してません。工作員も、スパイも、いませんし、細菌もばらまかれていません。実は、何も起きていなかったんです」
エイミは、いったい何を言っているんだろう?と思った後に、ひょっとして、官房長官は彼ら脅されているのでは?と考える。
「本当です。実は、何も起きていません。戦争が起こったと、危険だと、報道をしているだけです。情報操作をして、大衆を騙していたのです」
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