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烈火と月影 〜封印の姫伝説〜・開演“旭丘のじゃじゃ馬姫と駿河台のお転婆姫”
拍子木が カン、カン、カン! と高らかに鳴り響く。
場内は一瞬にして静まり返る。
幕が上がると、舞台の中央に悠然と座る講談師が、扇子を開きながら客席をゆっくりと見渡す。
軽く咳払いをひとつ。
張り扇が バンッ! と一閃される。
「さてさて、お立ち会い!」
「今宵お聞かせするは、戦国の世に名を残す二人の姫の物語。
旭丘の烈火の如き姫、麻姫(あさひめ)!
駿河台の月影の如き姫、月姫(つきひめ)!
この二人、もとは一つの国に生まれながらも、やがて内乱によって敵同士となった。
戦場に舞うは剣の煌めき、そして駆けるは、熱き魂の焔(ほのお)!
されど、二人の運命は、ただ敵味方で終わるものではなかった……!」
扇子を軽く打ち鳴らし、語りは一気に情景を映し出す。
時は戦国。列義尾山(れぎおさん)を挟み、旭丘(あさひおか)と駿河台(するがだい)が睨み合っていた。
かつては一つの国であったが、桑の葉を巡る交易の権利を巡り、対立が生まれた。
旭丘は桑の葉の栽培、駿河台は繭を生産し、絹糸を紡ぐことで栄えていた。
互いに不可欠な存在でありながら、いつしか均衡が崩れ、戦火が巻き起こったのだ。
「討ち入りじゃぁぁ!!」
甲冑を纏った軍勢が、列義尾山の麓を駆け抜ける。
駿河台の軍勢が、旭丘へと進軍する中、ひと際目立つ武者が一騎、馬を駆る。
燃えるような赤の甲冑、長い黒髪を振り乱し、手にした太刀を振るう女武者——。
麻姫(あさひめ)!
「よぉぉし!駿河台の雑兵ども、かかってこぉい!この麻姫様が、まとめて相手になってやるぞぉ!」
豪快に笑いながら、豪胆無比な戦姫は前線を駆ける。
その太刀筋は鋭く、男どもが恐れおののくほどだった。
その様子を遠くから見つめる一人の姫。
透き通るような白い肌、凛とした表情を浮かべながら、静かに戦場を見据えている。
月姫(つきひめ)!
「全く……あの女、相変わらず荒っぽいのぅ。」
呆れたようにため息をつきながらも、月姫の瞳には、どこか楽しげな色があった。
「妾(わらわ)も、ちと遊んでやるかの……!」
しなやかな動きで馬を駆り、優雅に戦場へ降り立つ。
こうして、烈火と月影の姫が、戦場で相まみえる!
果たして、二人の戦の行方は如何に——!?