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『サンデーサイレンスは凱旋門の夢を見るか?』(Ⅰ.)

2020年春G1シーズンが一先ずひと段落した。残すは二週間後の宝塚記念のみという、この小春日和的な間隙を縫って、サンデーサイレンスという大種牡馬に軸足を置きつつ、日本競馬のこれから、換言すれば日本の競走馬がこれから目指すべき血統配合について、一口馬主を志す自身の思考の整理の意味も含めて、考えてみたいと思う。

先ず皆さんは「セントサイモンの悲劇」という言葉をご存知だろうか?

この記事を読んでくださっているような方なら、その大半が既にご存知かもしれないが、ここでは一応、聞いたことがないという方のために軽く紹介しておきたい。

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 そもそも、セントサイモンとは、煮えたぎる蒸気機関車の異名を冠した、19世紀最強を誇ったイギリスの競走馬の名である。加えてその直仔の活躍も凄まじく、当時のイギリスの牡牝クラシックの全てをセントサイモンの仔が制した年もあった程であった。日本で言う所のサンデーサイレンスかディープインパクト、もしくはそれ以上の競走馬である。

しかし、その直系子孫の成績はセントサイモンの直孫世代になると急降下し、なんと今ではセントサイモンを直接の父系に持つサラブレッドは世界中でほぼ存在しないにまで至っている。少なくとも日本では一頭も存在していない。これを俗に、「セントサイモンの悲劇」と呼び、競馬界全体で寓話的なストーリーとして語られている出来事である。

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「セントサイモンの悲劇」の原因は、三つあると考えられる。一つ目は、セントサイモンの産駒があまりに強すぎたがために、短期間で種付け頭数を急激に増やし過ぎたことによって、イギリス全土でセントサイモン産駒の牡馬牝馬がサラブレッドの大半を占めるようになってしまい、結果としてセントサイモンの直孫世代を作ろうとした時に必ずと言っていい程に、セントサイモン直仔×セントサイモン直仔の強烈な近親交配(インブリード)がイギリス中で発生せざるを得ない状況になってしまっていたことだ。

当時の競馬先進国イギリスが100年以上をかけて築き上げてきた珠玉の繁殖牝馬の大半に、急ピッチでセントサイモン血脈を有する種馬が配合されていった。

これは人間で例えると、なかなかにグロい状況である。日本には林修の息子と娘しかおらず、日本人という人種存続のためには林修の息子と娘で交配を続けるしかないという状態である。想像するだけでもおぞましい。

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 二つめの理由として、地理的要因、即ちイギリスが島国であったことが挙げられる。つまりは、現代であれば競走馬の種付けをする為に、航空機や艦船を用いて世界中の牝馬と広範囲に交配を行うことが可能だが、当時は今ほど輸送手段が発達していないため、競走馬を作るには基本的に、歩いてか、少なくとも車に載せて行ける範囲の牝馬にしか種付けをすることが出来ない。すると、同じ種馬での種付けを短期間で局所的に繰り返せば、急激に血の飽和が起こることは想像に難くないだろう。

 最後の理由として、当時イギリスで制定されたジャージー規則と呼ばれるモノが挙げられるだろう。詳しくは割愛するが、興味のある方のために一応URLを下記に載せておく。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%BC%E8%A6%8F%E5%89%87

平たく言えば、自国の大種牡馬、セントサイモンの偉大さに天狗になった当時のイギリス貴族の、膨張した自信と驕りが産み落とした今後イギリス競馬界を50年余りに渡って蝕む癌である。


 もっとも、セントサイモン直接の父系はほぼ断絶したと言っても、その影響力は現代サラブレッド界において未だ極めて多大なものである。

世界中の主流なサラブレッドの血脈をほぼ形成していると言って差し支えないヘイロー(サンデーサイレンスの父)、ノーザンダンサーは共にNearcoという一頭の競走馬から派生している。

(以下ヘイローの血統表)

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(以下ノーザンダンサーの血統
表)

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そして、この二頭は共にNeacroというサラブレッド一頭を祖にしているのだが、このNeacroという馬はセントサイモン(St.Simon)の血を極めて強く引く馬なのだ。(以下Neacroの血統表)

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また、大種牡馬ミスタープロスペクターも父系を辿ればこのセントサイモンの血を有しているし、そもそもNeacroの血も持っている。

よって、セントサイモンの血は今も世界中のサラブレッドの中に脈々と受け継がれ、その能力を根底から支えているのだ。

ここまで、「セントサイモンの悲劇」について見てきたが、次回はこの現象がサンデーサイレンスにおいても妥当し得るかについて自分なりに考えてみたい。

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