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松任中川一政記念美術館 「0歳からの家族鑑賞会ミュージアム・スタート」 「こども園・2歳児クラス鑑賞会」 ルポ

白山市立松任中川一政記念美術館さんで「0歳からの家族鑑賞会ミュージアム・スタート」と「こども園・2歳児クラス鑑賞会」を実施してきました。

学芸員さんの「ご家族とお子さんたちが安心できる環境を」とのご提案で、日曜日の開催に加え、なんと月曜休館日に鑑賞会参加者さん貸切で開けてくださっています。かれこれ7年、毎年お招き頂いています。

松任中川一政記念美術館さんで実施すると、走り出しそうになる子も大声を出す子もいないのが本当に不思議です。中川一政さんと子どもたちの感覚が響き合う、ということが大きいと思いますが、それ以上に「建物の構造」に秘密がある気がしています。

比較的コンパクトな展示室が3つ。大きい作品がバーンと何点も展示されている広い空間、小さめの作品を少し暗い中で見る空間、ガラスケース展示の空間。
それぞれが控えめながら個性を醸していて、めぐる楽しさが演出されています。
子どもたちは展示室を移動するたびに、「次のお部屋はさっきと違うね、作品も違うね!」と新鮮な気持ちになって鑑賞できます。

そして気づけば元のお部屋に戻ってくる、ぐるりと一周する構造です。子どもが大好きな回遊型!
「もう1回見たい~」と見直しに向かうお子さんも散見されます。
回遊型の構造は、上から見たときに一政さんが数多く描いた「薔薇」の花のモチーフとなっているのだそうです。

各展示室にソファがあることも、まさにワンクッション、子どもたちがひと心地つけます。ちょっとしたインターバルがあると、子どもたちは気持ちと体を休めたり展開させることができて助かります。
一政さんの作品に包まれて、みんなでお話しするのは本当に楽しい時間です。

ソファは座るだけでなく触ることも子どものリラックスにつながります

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ではまず、かわちこども園の2歳児クラスさんとの鑑賞ルポを。
園長先生が、2019年に白山市で私が務めさせていただいた講演会にお越しくださって、共感してくださり「ぜひ園児たちに」と園バスで来てくださっています。

2歳児クラスさん 自分の経験と照らして作品を選び、たくさんお話ししてくれます

2歳児クラスさんですから、もう本当にぴよぴよ! みんなで手をつないで、一生懸命、作品を観る愛らしさに毎年やられっぱなしです。
そして「鑑賞する」ってなんだろう?という永遠のテーマ、その答えを教えてくれるようなお子さんたちでした。

『樹下子供』(1939年)を観て「あのね、お父さんとね、テント行ったんよ」とお話してくれたお子さんがいました。これは一政さんがお子さんたちをモデルに描いた作品です。

中川一政『樹下子供』(1939年)

お友達が絵を見て家族との思い出を話したことを受け、他の絵を見ては、自分の経験と照らして話したくて仕方ない!という様子が皆に出てきました。

いろんな鑑賞法がありますよね。背景となる知識があると多角的に観ることができるという場合も多々ありますし、タイトルも解説も見ないで感じるままに観るという方法もある。

2歳児クラスの子どもたちとの鑑賞では、個々の「経験」や「気持ち」に呼応して思索すること、話してみることが、人の鑑賞の原点というか、幼い子にも共通する鑑賞体験なのかもなぁと、あらためて思いました。

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中川一政さんは、お母様の出身が松任、お父様の出身が金沢ということで、松任に記念美術館が建てられたそうです。
油絵、書、陶芸など多彩。97歳まで現役で活躍。
作品はとてもエネルギッシュです。一政さんご自身が「ムーブマン」とおっしゃっている、描く対象の奥にあるうごめきや内在する力を目に見える形で取り出す、そんな作品がググッと迫ってきます。

0歳6ヶ月のお子さんたちは、人に興味津々、一政さん愛用のマジョリカ壺に釘付け、送風機の音に気づいたり、ダイナミックな色彩の「薔薇」作品を見つめたり(薔薇の作品はたくさん展示されています)。

たった3ヶ月の違いですが、0歳9ヶ月のお子さんたちは興味を持つものが異なって、『瓶と果物のある静物』(1923年頃)など、果物が描かれている作品にも大注目です。

『新劇女優』(1941年)『中川正儀像』(1916年)など人物画にも、もちろん興味あり。「じーっと見ていた」「身を乗り出すように興味を持っていました」などなど。

『樹下子供』を「手を前に出して見つめていた」お子さんは、他のお子さんが声を出すと真似して声をあげるなど、他の子へ共鳴する様子が見受けられ、社会性の育ちに繋がっているなぁと思います。

人生で初めて注目した作品は『山百合』(1985年)というお子さんもいました。これは岩彩で描かれていて、たくさん展示されている油彩と少し異なる趣です。

『新劇女優』(1941年)を観るお子さん

2歳0ヶ月のHくんのご家族は、
「去年の人物像の絵をじっと見ていたけど、2歳になった今年も人物像を指差して、しかもママ、パパといってくれて嬉しかったし成長を感じました。『静物・壺・ブドウ・ビワ』(1977年)では指差して青い丸など色と形に着目してお話ししてくれるなど、去年とは違う見方をしていました。今年も親子でじっくり鑑賞できました」
と記録用紙に書いてくださいました。
2歳の子どもたちに多く見られる鑑賞の様子です。この1年の成長を、ご家族も私たちも実感しました。「定点観測のように美術館に来ていただくと、お子さんの成長がよく見えてきますよ」とお伝えしていますが、まさにそんなご様子でした。
何より「嬉しかった」というご家族の気持ちに胸打たれます。

2歳11ヶ月のKくんは「ご機嫌ななめだった前半、ゆっくり鑑賞していく中で落ち着いていきました」と、鑑賞して機嫌が悪くなるのではなく、鑑賞していたら落ち着いてきたと。まぁびっくり!
木について語り合ったのがとても嬉しかったようで、「木でほめていただいて、嬉しくなって調子が戻りました」とご家族が書いてくださっています。ものすごくほめているのではないのですが、「自分が話したことを誰かが真剣に聞いてくれる」というのは、幼い子どもたちにとっても、嬉しく自信になることだと思っています。

『樹下子供』(1939年)一政さんがお子さんたちをモデルに描いた作品
きょうだいで、きょうだいが描かれた作品を観てますね!

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子どもたちは興味を持つ作品を瞬間的に選ぶことが多くて、大人としては「ホントにそれ?」と訝しく思いますが、ほとんどの場合、なんらかの意思や理由を持って選んでいます。今回もそんな発見があったご家族が数組いらっしゃって、下記のようにコメントがありました。

3歳7ヶ月Hくん
「自分で好きな絵を選ぶことができたことに驚いた。見つけたことを話したそうにして、話すことができて成長を感じた」
「各部屋に入ってすぐ選んでいたのでテキトーに選んでいると思ったが、後でちゃんと選んだ作品を覚えていたのでスゴイなーと思った」

4歳Rちゃん
「パッと色彩豊かたものを見ているように感じました」

5歳9ヶ月Mちゃん
「気に入った作品をすぐ見つける。きれい、かわいいだけじゃなく”不思議、気になる”という感想を持って選ぶことにびっくり」

『晩春 新緑』(1925年)という、一政さんが若い頃に描いた、展示されている中ではおとなしい印象の作品に2~3歳の子どもたちが注目していたことに、私たち大人はちょっと驚きました(鑑賞した回は4回あり、どの回でも着目する子がいました)。
いつも固定概念で子どもたちを見てはいけないと心に留めているつもりでも、意外!と思うことがあり、まだまだ修行が足りませぬな。

『晩春 新緑』は、大人は素通りしてしまいそうな作品ですが、子どもたちが見てくれたことで、大人も足をとめて、じっくり鑑賞する機会が持てました。

代表作の『駒ヶ岳』シリーズも、子どもたちはお気に入り

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松任中川一政記念美術館さんでの鑑賞会では、コロナ期に感染防止対策として始めた「動画・対面・メール」を駆使した、いわばハイブリッド型で実施しています。ここの規模と雰囲気にぴったりで、現在もこの形で続けています。

終了後、冨田がそれぞれのお子さんの様子をふまえてご家族へメッセージを書き、お子さんが気に入った作品の前での記念写真とともに、美術館の職員さんがメール送信してくださっているのが大きな特徴です。
私はワークショップなど継続してご参加いただけるプログラムでは、「お子さんの育ちとアートの記録」を、1人1人、毎回書いてプレゼントしています。1回きりのイベントではそれができないのですが、職員の皆さんが「ぜひメッセージ届けましょう!」と言ってくださって実現しています。

メッセージを受け取ったご家族が、さらにご感想をメールしてくださることも多くて、職員の皆様も私も、一層「実施してよかった!」と嬉しく思う毎年です。実施する人と参加する人の双方、喜びが増す方法だと感じます。
職員の皆様、ご参加の皆様、今年もありがとうございました!

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白山市立中川一政記念美術館 「生誕130年  中川一政展 百花繚乱  芸術の魅力とその生き方」は、11月26日(日)まで開催中です。
https://www.hakusan-museum.jp/nakagawakinen/

(この記事は担当学芸員さんに確認いただいて掲載しております)
(美術館が撮影された、掲載許可をいただいた写真を掲載しています。無断転用はご遠慮ください)


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