ちひろ美術館・東京「あかちゃんのための鑑賞会・子どものための鑑賞会」ルポ
ちひろ美術館・東京さんと、9月16日(土)に「あかちゃんのための鑑賞会」9月23日(土・祝)に「子どものための鑑賞会」を開催しました。
今回は「ちひろ 子ども百景」を中心に、「谷内こうた展 風のゆくえ」も鑑賞しました。
ちひろ美術館さんでの鑑賞会では、毎回、いわさきちひろさんの作品を観ることができます。
同じ作家、同じ作品でも、展覧会が違うと違った印象になるので、飽きるどころか毎回楽しみ。
作品同士の関係で、響き合いが変わる感じです。
ちひろ美術館さんでは例年、館のご希望もあり、0~2歳の「あかちゃんのための鑑賞会」と3~6歳中心の「子どものための鑑賞会」、2つの年齢層で分けて開催しています。
対象に合わせて、鑑賞会の構成や解説する内容を変えています。
「子ども」の鑑賞会では、展示内容によって、時に、子どもたちが「感情」で作品を見ることができるような工夫をしています。今回もそうしたところ「作者が意図していること」に迫る見方がたくさん出てきました。
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「まきばのうし」
遠足でしょうか、子どもたちが列になって大きな牛を見ている様子が描かれています。
柵が描かれておらず、背景は、モワモワした赤!
4歳の子が「なんかマグマみたい」と、みんなの前で発言してくれました。
ほんと、マグマみたいです。
牧場なのに、緑ではなく赤一面の背景。それをマグマと見ると、おどろおどろしさや怖さが感じられます。
そこに描かれているのは、大きな牛が近くにいて、ドキドキしている子どもたち。その心情を、ちひろさんは「赤」に込めて背景色としたのだと想像できます。
そんなちひろさんの色の選択意図が、イメージの連鎖を通して、子どもたちに伝わっているなぁと感じます。
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対象年齢が異なる2回で、共通して、たくさんの子に興味を持たれた作品がありました。
「緑の幻想」です。
0歳11ヶ月のKくん「じっと見ている」
何を感じているんでしょうか、知りたいなぁ!
2歳のAちゃんが「ブロッコリー!」と嬉しそうに、形を見つけていました。「自分とおんなじ」もキーポイントで、絵の子が麦わら帽子を被っていると気づいて、麦わら帽子が被りたくなっちゃった。ご家族が車に帽子を取りに行かれましたよ! 微笑ましすぎます。
鑑賞会で子どもたちが教えてくれたことはたくさんありまして、このような「生活の中で経験し、記憶しているものを見つける、あるいは見立てて鑑賞する」というのも、特徴的な見方の1つです。
4歳のSくんは「緑色がかっこいいから」と話してくれました。
緑色には、ふわっとした緑や落ち着いた緑、黄色っぽい緑から青っぽい緑まで、様々あります。
普段から緑色が好きとのこと。だからでしょうかね、それを感じているのかな? 色を見る感覚が研ぎ澄まされていますね。
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「ぶどうをもつ少女」も、「あかちゃん」「子ども」両方の鑑賞会で共通して挙げられていました。
とにかく葡萄が美味しそうなんです!
葡萄の色は、ちひろさんの真骨頂である「にじみ、ぼかし」の表現で、多彩な紫色をしています。
ご家族で鑑賞される際、ぜひ取り入れてほしい方法を1つご紹介。
0~2歳の子たちへ、作品の葡萄を「はい、パクパク~」と手で持って口のほうへ運ぶジェスチャーをしました。時々、小さい子たちとの鑑賞で、このようなやりとりをしています。
みんな大喜びで目がキラキラ、そしてあらためて作品をよく見ようとしたりします。
食べ物が描かれた「絵本」を読むとき、このような読み方をしているご家庭も多いと思います。
「美術館で鑑賞」となると、気構えてしまいがちですが、絵本のようにリラックスして思い思いの方法で(触らないなどの注意は必要ですが)観ていいと思うんですよね。
小さい子たちがワクワクするふれあいによって、大人も子どもも楽しくなります。
0歳10ヶ月のKくんを抱っこして鑑賞していたご家族は「この作品、手を伸ばしてました」と!
初めての美術館だったそうですよ。嬉しいです。
みんなが同じように、葡萄が描かれているから親しみを持つとか楽しいと思うわけではなく、4歳のKちゃんは「足がない~」と、怖いと感じたことを伝えてくれました。
対象年齢の妹と一緒に家族で参加した11歳のMちゃんは、「帽子の色と葡萄の色が似ているから」と選んだ理由を話してくれました。画家の意図に迫っていますね。
ちひろさんが帽子の色を同系色にしたのは、意図的なのか直感なのか、定かではありませんが、受け手へ与えるイメージは、ちひろさんならではのものが感じられます。
11歳の発言に少しでも応えたく、同系色でまとめることによるイメージの効果について、子どもの言葉に置き換えて伝えてみました。
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ちひろ美術館さんでの鑑賞では「絵本の原画」であることも、特徴だと思います。
今回の展覧会では、絵本「ぽちのきたうみ」の原画が、ぐるりと見渡せる少し小さめの空間に展示されていて、絵本の場面に包まれている感じがします。これも展示室ならではの経験!
その空間で、絵本をめくりながら「同じ絵だね。この絵が本になっているんだよ」と伝えたところ、4~5歳くらいの子たちはキョトンとしていました。そうですよね、どうやって絵本になるのか不思議ですよね。
その様子を見て私は、子どもの頃「テレビに出ている人はリアルタイムでスタジオにいる」と思っていたこと、ある時「収録という方法だったんだ!」と知って、軽く驚いたことを思い出しました。知らないことを知ったときの驚きと不思議。
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谷内こうたさんは、叔父の谷内六郎さんから「タブローを描け」と助言されていたそうです。
私は今回、原画を初めて拝見して「絵本の原画1枚1枚がタブローのように存在している」と感じました。
特に色の重ね具合など、微妙なニュアンスが見えてきて、本当に素敵でした。
原画を観られるのは、やはり得難い経験ですね。
子どもたちはというと、谷内さんの作品には「不思議さ」を感じている子が多かったです。
直にご覧になれる機会がありましたら、ぜひ!
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ちひろ美術館さんで子ども向けの鑑賞会をするときは、ガイダンスをするお部屋で、受付後から大人向けのガイダンスをする時間と、鑑賞後に戻って記録用紙に記入したり改めて解説する時間に、子どもたちがお絵描きできるようにしています。
鑑賞前にぐるぐるした絵を描いた子が「顔」を描きました。ご家族は「顔を描くなんて、びっくりです!」とおっしゃっていました。
鑑賞して、刺激を受けて、急に進化したのかな?!
子どものインプットとアウトプットの瑞々しさに、いつも驚かされます。
ぐるぐるの絵は、大好きな電車たちを表しているとのこと。それも素敵でした。
こちらから「模写してね」と言わないのに、自然と模写する子たちが毎回います。
観て、心が動いたら、描きたくなる。
子どもたちが自由画を描くときの心の動きと同じだなぁと思います。
鑑賞会前に、ご家族で視聴してきて頂いている、美術館で無理なく楽しく過ごすための「心の準備ガイド」としての動画を美術館と制作しています。
その動画で紹介していた「赤い帽子の女の子」が印象的だったようで、記憶していて何も見ないで描いた子がいました。
その子は鑑賞後には、模写(記憶で)のほか、展示されていた絵からインスピレーションを受けて、でも模写ではない絵もたくさん描いていました。
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まだまだ書ききれませんが、このあたりで!
いわさきちひろさんの作品は、日常にある素敵な世界を再認識させてくれる、谷内こうたさんの作品は、別世界へ誘ってくれる、そんな大人も魅了する展覧会でした。
ちひろ美術館・東京 「ちひろ 子ども百景」「谷内こうた展」は、10月1日(日)まで開催中です。
(この記事は担当学芸員さんに確認いただいて掲載しております)
(ちひろ美術館・東京さんが撮影し、当会へご共有くださった写真を掲載しています。鑑賞会の際、美術館と当会SNS等で掲載する旨を、ご家族にご了解いただいております)
先述の「心の準備ガイド」動画はこちら ↓
子ども向け・大人向け、それぞれのパートがあります
企画・協力:NPO法人赤ちゃんからのアートフレンドシップ協会
構成・出演:冨田めぐみ
制作:ちひろ美術館・東京
文化庁 令和3年度地域と共働した博物館創造活動支援事業