石川県立美術館「0才からのファミリー鑑賞会」ルポ
石川県立美術館さんと、10月1日(日)に「0才からのファミリー鑑賞会」を開催しました。
午前2回、午後1回の計3回。募集当日に満員御礼、ありがたいです。
コロナ期以来、定員が少なめに設定されています。ですので全員のお子さんとご家族に発言していただけて、私たち実施する側も参加者さんも、みんなゆったりとした気持ちで対話できます。
今回は「模様を楽しむ」と題された、工芸作品のコレクション展を鑑賞しました。
ことに石川県は、文化、歴史、食、自然、産業など、すべてが融和し、それが工芸作品に結実している稀有な土地と感じます。
前日、金沢到着後、行ってみたいと思っていた石川県立図書館を訪問することができました。そこで「里の恵み・文化の香~石川コレクション」というコーナー展示を拝見し、上記の思いを一層強くしました。
そんな実感もあり、「石川県は、文化、歴史、食、自然、産業など、すべてが融和し、それが工芸作品に結実している稀有な土地」という思いを伝えたい!と、今回はそのお話からスタート。
図書館も素晴らしかったですし、金沢は、美術館も市・県・国と勢揃いですし、美味しいものもたくさんありますし、住みたい~と思うこと度々です。
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0才から、小さい子たちが工芸作品を鑑賞?! これが意外と合うんです。
工芸作品の鑑賞を手がけ始めた当初は、観るか観ないかドキドキでしたが、フタを開けてみると子どもたちの目がキラキラっと。毎回、よかった~とホッとします。
作家さんの驚異的な集中力をもって、多大な労力をかけて制作された工芸作品には、独特な存在感があり、子どもたちも大いに感ずるところがあるようです。
今回、大勢の子どもたちが大注目した作品は、三代上出喜山さん「金襴手更紗小紋食籠」です。
(石川県立美術館HP所蔵品検索でご覧いただけます)
全体が金色に輝いて鮮やか、かつ微細な模様で埋め尽くされていて、その超絶技巧に、大人も子どもも皆、感嘆の声を上げていました。
5歳9ヶ月のMちゃんが「浮き輪みたい」と言ったのには、皆、大笑い。
工芸作品をありがたく拝見している大人には、そんな発想は出てきません。
そして「こんな浮き輪をつけたらゴージャスすぎる~」想像すると愉快です。
次にぜひお知らせしたいのが、東邦昭さん「堆彩磁練上花紋花器」。
2歳11ヶ月Kくんが、ウズウズ、話したくて仕方ない様子。聞いてみると、
「ちょっとなかに、なにかあるかもしれないっておもう。
きょうりゅうがいるかも。
これね、きょうりゅうのたまごでね、あかちゃんがでてくるの!
ちょっとこわいけど、すきー!」
恐竜の卵とは、恐れ入りました。
みんなの前でも発表してくれて、他の子どもたちは、その意見にビックリしたり納得したり。
5歳9ヶ月のMちゃんは、「鳥と花がまざったかんじ」とのこと。年長さんの学年、色や形から受けるイメージを言葉にしています。
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そして今回、意外だったのは、小紋の着物に興味を持って鑑賞する子が多かったことです。
江戸小紋が9作品、友禅が2作品、ずらりと展示されています。
江戸小紋は、模様がとても細かくて、子どもにはちょっと地味なのではないか?と思いきや、その細かさに感動する子、模様を「見つける」楽しさにイキイキする子、全体の色味から「大好きな色」として反応する子、それぞれの観点で、気に入っていることを伝えてくれました。
担当学芸員の西ゆう子さんが、ちゃんと模様の拡大パネルを展示してくださっていて、とてもわかりやすいんです。
型など小紋の制作過程がわかるような展示もあり、その前で作り方について説明させていただくこともでき、大人の方にも嬉しい時間をお届けできたかと思います。
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このほか、たくさんの子が着目した作品は…
(以下すべて石川県立美術館HP所蔵品検索でご覧いただけます)
後上俊香さん 色絵飾皿「春よこいこい、春よこい」
一面に鳥の模様。大小の連なりを持って描かれています。模写した子が続出でした。
村上九郎作さん「鎌倉彫貝図八足卓」
龍の姿の足が8本ある卓です。子どもの目線で見ると、その龍の姿がインパクト大です。
吉田楳堂さん「堆朱手元箪笥」
堆朱の驚くべき技法! 鮮やかな赤!
4歳10ヶ月Rちゃん「赤の色にびっくりした」
4歳2ヶ月Gくん「こまかくてすごい」
5歳7ヶ月Mちゃん「ひし形の中のもようがすてき」
羽田登喜男さん 友禅空色地孔雀羽文振袖「瑞祥文」
学芸員の西さんが「入ってすぐお出迎えの作品として」展示された鮮やかな友禅です。
3歳Mちゃん「こんなワンピースすき!」
5歳Aちゃん「お母さんに合いそう。私のランドセルも同じ水色なの(来年1年生です!)」
人数は多くはないですが、愛らしいエピソードのあった作品は、
小宮康孝さん 江戸小紋着物「老松」
0歳8ヶ月「あーばーばーわーぱーぱー」
森一正さん「色絵草花絵替り銘々皿」
1歳11ヶ月。お気に入りで、生まれて初めての発表をしました。
結果、33作品に子どもたちが興味を寄せていました! 皆さん親子で思い思いに語り合っていました。
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石川県美さんには、楽しい「おえかきボード」があります。
子どもたちに好きな作品を模写をしてもらって発表。
なんと鑑賞会終了後に残って、入口にあった猫の彫刻作品を模写したお子さんがいました。7歳2年生のRちゃん。
途中、声をかけると消してしまいました。
「今のよかったのに!」と、声をかけて悪かったかしらと思ったのですが、それは杞憂で、Rちゃんはもう一度、描き始めました。15~20分くらいでしょうか、粘って描き上げました。
嬉しかったようで、隣の展示室を観覧していた私のところへ持ってきてくれました。一緒に撮影!
粘れたのは、鑑賞会で満ち足りた気持ちが得られたからではないか。手前味噌ですが、そんな様子を感じました。
ご家族のアンケートに「娘は・とても良かったの項目に、花丸!と。また来たいと言っていました」と書いてくださっていました。また会えたら嬉しいです!
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いろんな作品を子どもたちと鑑賞していますが、子どもたちの喜んだりぐずったり持ち直したりする姿は、作品や展覧会の内容で大きく左右されることはあまりないです。つまりどの鑑賞会でも、時間中、喜ぶだけではなく、ぐずったり持ち直したりする姿が見られるんです。
ぐずった時、さて、周りの大人はどうするか?
昨年と今年、続けて参加してくださったご家族が、そのヒントを教えてくれています。
Kくん(2歳11ヶ月)のお父さん
「前回は寝そべったりしていたが、今回はちゃんと見れてよかった。
『びじゅつかんにこれて、よかった』と言ってくれて嬉しかった。」
寝そべってぐずったりしたら、がっかりされる方が多いと思うんですけれど、翌年また参加してくださるなんて、すごいです!
Kくん自身の成長はもちろん、お父さんがKくんの育ちに付き合おうと思っていらっしゃることも、Kくんの変化に繋がったように思います。
子どもたちは「育っている途中」なんですよね。
大人が「こうあったらいいなぁ」と朧げに期待する姿と違っていても「良しとしようじゃないか」という太っ腹な気持ちが、子どもの気持ちをラクにします。
Tくん(3歳9ヶ月)のお父さんも2回目。去年も今年も、走りたい気持ちいっぱいのお子さんです。
「ほとんど見ずに走り回っていましたけど(激走ではなくトコトコっと走っては止まり、を繰り返していました)、「おはなのおさら」「おめめのコップ」この2つは見ていたかな。着物は色を叫んでいました。」
走るだろうなと思いながら連れてきて、やっぱり走っちゃった。けれどお子さんのいいところを見てくれている。Tくんのおとうさーん!素敵です!
ちなみに「おはなのおさら」は、三代上出喜山さんの「金襴手更紗小紋食籠」。
「おめめのコップ」は、東邦昭さんの「堆彩磁練上花紋花器」。皆が大注目した先述の2作です。
(尚、他のご来館者さんがおられる時は、寝そべったり走りたくなったお子さんへは、抱っこしたり手をつないだりマンツーマンで回ったり、ご家族とスタッフとで協力して、そのお子さんの状態に会う対応をしています。
他のご観覧者さんのご迷惑にならないことがとても大事なので!
展示室に入る前の「保護者向けガイダンス」、ご自宅でも見られる「事前動画」などの工夫をしています)
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何より思うのは、初年度からご担当くださっている学芸員の深山千尋さんはじめ、職員皆様の「子どもたちの育ちを見守っていますよ」といった、懐の深さがありがたい。
この鑑賞会では、走っても叫んでも、どんとこい!
そんな気持ちを共有して、参加者の皆さんとの一期一会を、共に作ってくださっていることの一体感。嬉しい限りです。
わちゃわちゃな回があっても「今年も鑑賞会を」と呼んでくださるのは何故だろう、と考えた時、「そうか、この活動を通して『乳幼児と美術館をつなぐ文化』を作ろうとしていらっしゃるのかもしれない」とハッとしたことがあります。
乳幼児と美術館をつなぐ活動が、少しずつ広がっています。
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おえかきボード発表時、描けない0歳児のご家族に「ご感想をどうぞ」とお願いしたところ、あるお父さんからこんなお話がありました。
「お子さんたちみんな、感想もいろいろお話したり、絵がとても上手でびっくりしました。すごいです!」
実に暖かい目をして、感無量なご様子でした。
子どもってすごいな、と本気で感じていらっしゃる。
生まれてまだ数ヶ月の、ご自分のお子さんの近い将来も、想像されたかもしれません。
異年齢で実施すると、こういう瞬間があって本当に素敵です。
お話を受けて、「大きいお子さんのご家族の皆さん、我が子には、できていないところが目につきやすいものですけれど、よその人から見ると子どもたちそれぞれ、すごいんですよ!大丈夫です!」と力説してしまいました。
こんなふうに終始、ご家族も職員さんも、そこにいる大人全員で子どもたちに優しい気持ちを向けて支え合った、あたたかい鑑賞会でした。
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石川県立美術館コレクション展「模様を楽しむ」は、10月22日(日)まで開催中です。
(この記事は担当学芸員さんに確認いただいて掲載しております)
(石川県立美術館さんが撮影し、当会へご共有くださった写真を掲載しています。鑑賞会の際、美術館と当会SNS等で掲載する旨を、ご家族にご了解いただいております。無断転用はご遠慮くだださい)