絵本が輝いていた日々。
絵本に託された「ことば」たち
子どもたちが小さかった頃、我が家には毎月絵本が2冊届きました。妻の大学時代の友人が、長女の出産祝いにと、絵本の定期便をプレゼントしてくれたことがそもそもの始まりなんです。
以来、私たちは毎月送られてくるのを楽しみにしながら、親子で、絵本を読み聞かせする日々が始まりました。
やがて、長女は1歳になり2歳になり、送られてくる本も、中身が分厚くなり、サイズも倍ほどになっていきました。
私は、絵本の紙包みが ポストからはみ出す位 大きくなり過ぎて、郵便屋さんを困らせないようにと、遠くのホームセンターでやっと見つけた、 ビックサイズのポストに買い替えたんです。
US MAILと書かれた蓋を摘んで手前に開けると、そこはもう「なんでもこい」と言えるくらいのスペースが作られた 私には申し分のない素敵なやつでした。
予想どおり、ポストは大活躍でした。実は後で分かったことなんですが、我が家のポストは、ご近所で一番デカいやつだったんです。
物語を読み始めると、美しい自然や大好きな動物たちの絵に添えられた「ことば」の響きに感動して、誰よりも先に読み手の私が泣いていました。読み手が詰まってしまうので、物語の中断はしょっちゅうでした。
おばあちゃんの住む街から届く絵本定期便は、長女が中学3年生になる頃まで続きました。
絵本が輝いていた懐かしい日々-----------
美しい「ことば」たちとの出会いの日々。
ファンタジックで、時にメランコリックで、どこか懐かしさの漂う絵と共に 絵本たちに託されたことばの数だけ、子どもたちは成長し、大人の私は癒され、子も親も優しくなれたように思います。
そっと寄り添ってくれる大切な「もの」たち
私たち家族に、絵本が輝いていたあの日々があるように、その人その人に、人生のある瞬間、ある時期、ある時代に、時間的な長短はあるけれど、特別な意味を持つ物語(出会いや別れなど)が一つや二つは必ずあるものですよね。
そして、そんな忘れられない場面に吸い寄せられるようにして、何かの理由や事情、時には偶然や縁も重なって、自分の手元にやってきてくれた「もの」たち。何かしらのインスピレーションや気配を詰め込んでやってきた「もの」たち。
思い出すと心が辛くなってしまう「もの」や、その後の人生の支えになるようなパワーのある「もの」など、いろいろですよね。
私たちの周りには「もの」が溢れています。
何を選択するか、何に耳を澄ますのか。立ち止まるのか、振り向かず行き過ぎてしまうのか、どちらかだろうと思います。
だから いま----
人生を豊かにしてくれるインスピレーションや気配を秘めた「もの」たち、そっと寄り添ってくれる、とっときの「もの」たちとの出会いに憧れて。
とっときの、一冊
昨年5月、一枚の写真との出会いがきっかけとなり、私は一冊の絵本(電子書籍)を出版することができました。自粛生活の中、長年の夢がようやく実現した出来事でした。
ところが、出版後しばらくすると、読者から「紙本はないの?」という問い合わせを何度かいただくようになりました。
しかし、絵本を描く、編集する、出版する、何事も全てが初体験であった私には、PCを使って、「紙本」を出版することは、さらにハードルの高いことでした。
何度も心が折れそうになりました。そんな時に、子どもたちと過ごした絵本が輝いていた日々の思い出が蘇ってきたんです。
絵本「はっぱのマルジ」が その人の人生や生き方にそっと寄り添ってくれる大切な「もの」、とっときの一冊になれるためには-----------
やっぱり手に取って、指でページをめくりながら、静かに、時には声に出して読んでいただくことが大切だと教えていただいた気がしたんです。
私たちがそうであったように、今度は私が、子どもたちや、不安な「今」を懸命に生きる人々のために、強い意思を持った「ことば」たちを伝えられる「絵本を作りたい」と、一層強く思うようになりました。
「諦めないで、やっぱり紙本を作ろう!」
おかげで、諦めなければ「なんとかなる」という信念とともに、深い達成感を体験することができました。
それは、一つのものに情熱を傾ける喜びと苦しみの混在する、甘く切ない青春時代のような時間でした。
令和4年1月、漸く「はっぱのマルジ」(B5版46ページ)ペーパーバック本を出版することができたんです。「マルジ」を執筆し始めた昨年の2月からは、ちょうど一年後のことでした。
ぜひお手に取って、読んでいただきたいと願っています。
筆者注)「とっとき」というのは「とっておき」ということばの音が変化した形です。このことばには「ことのほか大切にしておくこと、またはそのもの」という意味があります(精選版日本国語大辞典、小学館)。ここでは「特別に大切にしているもの」という意味で表現しています。
最後までお読みいただきありがとうございました。