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終わらないものがたり

あなたが、もうこの世にはいないので聞くすべもない。

わたしはというと、今もこうして生きている。

辛いだの苦しいだの、悲しいだの傷付いただのと、口の先で言い放っては涙を流しながら、それでもこうして生きている。

先に逝った者は心象となり、守り神となり、傾聴者になる。

最近、わたし達とよく似た2人のことを綴っている文学を知ったのだよ。
男女の恋愛しか許されなかった時代に生きた、2人の人生の話しを。

あなたが今も生きていて、あの時のように甥や姪に囲まれ、弟夫婦の家に身を寄せて暮らしていたら、時々会って話しもできたのだろうか。

あの時のように上野公園口や、八重洲中央改札口で待ち合わせをして、美しい有楽町や銀座を一緒に歩き、わたしはあなたの写真を撮る。
あなたは年頃になってきた姪のことを、面白おかしく「最近心配なの」と、少し嘆きながら話すのだろうか。

わたしより10歳上のあなたと、あそこが痛いここが痛い、これが更年期障害というものか、などと話しをしながら、互いを労りあったのだろうか。

時として、あなたは空から自分の存在を静かにささやいてくれる。
わたしはそれを音楽のように感じとり、心の中に受けとめる。
そうしてあなたは、思いがけない時々、ふいに、必ずわたしが独りだけでいる時間にだけ、じつにあなたらしいやり方で、頭の上から降りてくる。

そんな時には、「まだ行ってしまわないで」とばかりに、天空へと繋がる糸をたぐり寄せて、こう叫ぶ。

たくさん苦しめてしまった。

酷いこともしてしまった。

壊れていくあなたのことを受け止めるには、わたしの精神は幼く、あまりに未熟で、ただただ怖く、尊大で辛いばかりだった。

そしてあなた自身の深淵たる言いようのない苦しみは、わたしではなくあなたの弟家族がしっかりと受けとめて、守っていた。

どうか許してほしい。
そしてまた、永劫回帰の途中で出逢ったら、今世で成し得なかったことを、させてください。




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