人は如何にして体制翼賛へとなるか:「英雄願望」のもたらす知的頽廃 - 加藤直樹「ウクライナ侵略を考える」を読み解きながら(4)
少し間が明いてしまいましたが、再開していきましょう。
この一ヶ月ほどで、ロシア・ウクライナ戦争も大きく動きました。とうとう、ロシアが、ウクライナ国内の発電所やガス貯蔵施設を全面的に攻撃するという最悪の状況になってきてる。ハリコフにせよその他の前線にせよ、ウクライナ側の兵隊が時間稼ぎだけのためにすり潰されるような「肉の盾」にされてしまうことが、目立つようにもなってきました。ウクライナ側での「肉の盾」自体は、2022年の末くらいから行われ始めていたのですが…。
ウクライナはキエフ在住で、ウクライナ軍の前線の兵隊さんたちへの支援を行ってきてるボグダン氏の最新の動画(2024-06-10付)。
ボグダン氏がキエフなどから日本語で発信してる情報は、ウクライナの国内の「空気」の変わり方をかなり素直に出してるので、必見だと思います。
そして、ウクライナ側での徴兵のやり方の見境なさも更にひどくなり、2023年の前半くらいから幾つか見られていた、「徴兵で男性を連れ去ろうとする執行官に抵抗する母親や妻やその他多くの男女市民」の動画や話がここ一二ヶ月で一気に増えてくるようになり、すでに、もう、戦争やってられない。と言う感情が高まっていた所に、ロシア軍が、産業だけでなく市民生活にも非常に大事な、火力発電所やガス貯蔵施設への全面攻撃を「解禁」した。これらは、米軍の戦略ならば、湾岸戦争やイラク戦争が代表的ですが、真っ先に破壊される対象な訳で。ロシア軍にせよ、チェチェン戦争のときには真っ先に標的にしていた。この辺り、善悪ではなくロシア側の「戦後を見据えた長期的な思惑」が透けて見えて、興味深いなとは思います。
本シリーズは、こちらから。
「ウクライナ侵略を考える」第4章の、詭弁・すり替え、そして、誤った感情動員に基づく「反戦論批判」。
さて、加藤直樹「ウクライナ侵略を考える」の第4章、『「ロシア擁護論」批判③ -- それは「平和主義の傲慢である」』を読んでいきます。
最初に、毎日新聞で22年6月4日に伊藤智永記者が書いた「ゼレンスキー氏は英雄か」というコラムへの批判を加藤くんは展開していく訳です。
その後も、伊藤記者は「即時停戦論」を展開していってます。
そして、日本がこの戦争で片方に肩入れしすぎた結果、アメリカから日本に突き付けられてることに対して、今年の4月にこのように記してます。
第4章で展開される、「即時停戦論」批判に見られる、詭弁のガイドラインど真ん中の誤った感情動員。
加藤くん、
として、要は、伊藤記者が出してきた、旧ソ連諸国や東欧の冷戦以降の現代史に興味を持ち続けてるなら当然言われるべくして言われてるような考えに対して、間違ってる。と主張してる訳ですね。
そして、どうして間違ってるかと言えば、それは、「侵略を受けたほうが、必ず・絶対に、そして一方的な被害者だ」と言う、単純なすり替え・もしくは誤謬を基にしている。
この戦争が、冷戦が終わってからの、ロシアとロシアの周辺諸国(ウクライナやバルト三国や東欧各国)への米英など西側の介入との綱引きの末に起きた戦争である。というところは、うまいこと見えてないふりをしてるわけです。
そして、伊藤記者が述べる即時停戦論に対して
と切って捨ててる訳ですね。これ、伊藤記者が記した件のコラム記事を、「今から」読み直す人たちに対して、強烈な印象操作として働いてしまう訳です。
こういう、姑息というか人の心がないと言うかな真似を、まさか、加藤くんがやらかしてくるとは思わなかった。
ネットミームとして有名な「詭弁のガイドライン」でも触れられる事があるのですが、誤った前提を設定して・あえて誤った読み方をして、それによって「この文はこうなんですよ、許せませんよね!!!」ってやるのは、典型的な詭弁の手法です。そして、読者に誤った感情だけではなく、誤った固定観念を植え付け、印象操作して、人々を誤った方向に誘導する、ハーメルンの笛吹き男みたいな真似をやることでもある。
誤った感情と誤った固定観念を植え付けられた人々が、日本でも社会と政治と人々を壊し続けてる。
日本でも、同じようなことが散々起こってるわけです。
※(8/11)8月20日ころまで、全文無料に読めるようにしますので、気に入られましたら、ぜひ、他の文章含めてご購入や「サポート」でのご支援願い申し上げます。※ここからは、ご購入の上、お読みくださいませ m(_ _)m
ご購入や「サポート」でのご支援、どうかよろしくお願い申し上げます!!なお、公開日から大体一週間程度、前回(第3章)の部分を、全体無料で読めるようにしておきます。(8/11 終わりました)
「覚書」も是非!
自称左派・自称リベラル界隈での、ジェンダーや人権を口実にした左派泥棒政治を行ってる人達が、暇空茜氏やエコーニュースがその不正や「力の背景」を暴き始めたら、同じようにして周りの人達を動員していった、WBPC問題。
右翼側で言うならば、川口市のクルド人を巡る最近のゴタゴタも、まさに、こういう詭弁や詭弁を補強するためのデマ・でっち上げによって、クルド人全体を日本から追い出せ!と言う世論を作ろうと必死になってる辺りから来てる。因みにこれ、トルコ国内のトルコ人の右翼や政府が積極的に在日クルド人になりすまして日本人へのヘイトスピーチをやってたり・事実に反するような噂話や「事件の話」を日本国内に流してたりするので、かなり凶悪かつ醜い問題なんですが、今回は関係があまりないので触れるのはこの位で。
「間違ってますね」(要訳)と切って捨ててる著者のほうが、あまりに「間違ってますね」に見えてならない。
そして、加藤くん、伊藤記者の件のコラム記事について、
と、結構長々と「間違ってますよね」と批判してるのですが、伊藤記者と同じような人々として例えに出してるのが、韓国の民主化運動を批判してた「日本の保守派文化人」だったりして、なんというか、書いてる加藤くんには一切自覚がないのだろうけど、印象操作すさまじいんですよね。
伊藤記者の書いてる、21世紀に入ってからのウクライナの歴史…残念なことに、これは事実に即した・極めて正確なものであると私には見えますが…は、間違ってる。と言う結論が先にあって、その為に、伊藤記者を、韓国が軍事政権だったときに民主化運動をあざ笑ってた日本の「保守派」と同じだと言うふうに結論づけている。
「日本も他人事じゃない」と危機感を出す伊藤智永記者、朝鮮半島や大日本帝国の歴史とウクライナの歴史を同じに捉えて話をすり替える加藤直樹の論(そして、それは多くの自称左派も同じ考えであることに注意すべき)。
その後、
この後、正直な所、加藤くんによる退屈な、日本とアメリカが開戦するに至った歴史的経緯を使っての「言い訳がましい説明」が付くので省きますが、
ゼレンスキー大統領やウクライナ政府と、戦争の熱狂に巻き込まれてしまったウクライナ国民とをはっきり分けている、伊藤記者。
ゼレンスキー大統領とウクライナ政府、そして、ウクライナ国民を一心同体であるかのように考えている、加藤直樹くん。
と言う違いがでてきてるんですよね。
日本等での、ロシア・ウクライナ戦争を巡る「議論」に私が感じ続け・恐怖を抱き、吐き気すら強くもよおし続けてきた事がなんだったか、ちゃんと見えてきた。
ここが、私がこの二年半のロシア・ウクライナ戦争を巡る、自称左派の「おかしな物言い」に対して強い不快感と恐怖を感じてた確信につながってくるように、おもいます。それはなにか?幾つか挙げられます。
個人と社会、社会と民族、民族と国民国家を一体として捉える事で、あたかも、上である大統領や政府の伝える「政治的に正しい情報」や政府などに存在を認められ続けてる「政治的に正しい」社会運動や政治運動・思想家の言うことが、ウクライナならウクライナの国民の殆どで共感されてるというのに疑いを持ってないこと。その、知的なダメダメさ。
戦争で人が死ぬ。末端の人や立場の弱い人達から真っ先に死なされていく。と言う、大原則であるはずの視点が、あまりにぼやけてる。否、あまりにもふやけきっている。
「次は我が身」と考え、自分の身の回りや足下とつなげて考える姿勢の放棄。というより、そのように考える姿勢自体への軽蔑のまなざし。
そして、それらとセットでもある、「英雄願望」。英雄的な行動こそが社会を変え動かすという信念に基づき、英雄を求めてしまうこと。
「英雄願望」と言う、厄介な代物。現実に起こってる惨事を物語化・消費する行為に陶酔するための、ストロングゼロ。
結局は、「英雄願望」なんですよ。末端でひーこら言いつつ、ウクライナなんかだとお上のお墨付きで暴れてる極右の活動家たちや腐ってる警察官、お上と同じくらいの力を持ってて「制御不能」なマフィアがのさばる中で必死になって生き続けてる人々が、戦争に巻き込まれていく・ときには戦争が始まるに至る状況を作り上げるのに「お気持ち民族主義」によって積極的に加担してしまった結果、不条理な形で財産を喪わされたり、自分や家族・友人親戚の命そのものを不条理に奪われてしまってる何百万・何千万ものウクライナの普通の庶民の人達の目線ではなく、そのような「普通の庶民」が「突如として侵略してきた侵略者(今回はロシア軍)に命を捨ててでも英雄的に抵抗する姿」を、求めてる。
加藤くんの専門と言っていい韓国の、それも民主化運動と今回の戦争での「英雄的な抵抗」を全く同じラインで見て、述べてる。と言うのは、それ自体が矛盾だらけだというのを抜きにしても、極めて、「気持ち悪い」。「吐き気すらする」。
加藤くんが伊藤記者を批判するのに入れてきた太平洋戦争で言い換えるなら、太平洋戦争の前段階の朝鮮や満州に大日本帝国が侵略(あえてこの言葉を今回は使います)していく中で、特に日中戦争が泥沼化をし始めた1930年代後半に日本のマスコミが讃えた幾つもの「英雄」、例えば、爆弾三勇士のような姿を、加藤くんだけでなく、加藤くんと同じような思いで今回戦争を見つめてる人々は、ウクライナ市民に対して、押し付けてしまってる。
それも、そうするほうが自分の利益になるから。ですらなくて、本当に、ナチュラルすぎるくらいに、英雄であること・英雄の役割を、ウクライナ市民に対して、押し付けている。
善意や正義心故に、現在進行形の事態を物語化し・英雄願望をさらけ出してしまうこと。
第4章は、本当に長いのですが、日本(大日本帝国)が朝鮮半島を侵略し・植民地にした後の抵抗運動の歴史を紐解きながらウクライナの「今」に結びつけてるので、正直、退屈ですらなくて、吐きそうなくらいに読む気が無くなるのですね。正直、苦行でした。
そして、『9 「即時停戦」運動批判』『10 ロシア軍撤退を求める原則を捨てるな』と言う風に章を〆めていくのですが、この辺りはもう、なんというか、伊藤記者だけでなく、和田春樹先生や袴田茂樹先生のような長年ソ連やロシアを研究してきた学者さんたちや即時停戦を求める運動家や思想家、そして、「リアリズム国際政治学」を実践してるミアシャイマー先生やエマニュエル・トッド先生などを片っ端からボロクソに言うのですが
…例えば、和田先生たちの「即時停戦運動」の迷走ぶりをあげつらってデタラメだと言い出さんばかりに非難してたりして、そこには、「即時停戦論」自体が当時の、ある意味戦争の熱狂と恐怖で集団パニックを起こして、戦争に勝て!と煽ってた日本の世論・とりわけ政治の上の方やマスコミの「狂い方」によって、学者やジャーナリストなどが即時停戦論をわずかでも擁護しようものなら、すごい脅迫や嫌がらせが殺到していたし、銀座に出来たロシア食材店などに嫌がらせが相次いでた(このお店、実はウクライナの方が始めてたのですが、今月末に閉店することになっちゃいました…)と言うあたりのことが、「即時停戦運動」の方向性に強く影響していた。と言うことは徹底して無視してるんですよね。
10項では、和田先生達が、開戦5日目にして「ロシア軍は戦争を何が何でもやり切るつもりだ」と見切りをつけてロシア軍の全面撤退が先ではなく、とにかく停戦すべきという方向に向かったことを強く批判してるのですが、これ自体が、ロシアとウクライナというより、我々「西側世界」の実力差を見誤ってるし、そもそも、ロシアがいざ本気で戦争するとなった場合にどこまで本気になるか。「その時」の為に備えて、プーチン体制下でどのような「改革」が行われてきたか。ということに対してあまりに無知であるが故に言えちゃうことだとしか思えないんです。
戦争に於ける、我々全般の、絶望的なまでの当事者能力のなさを、改めて自覚した。
そして、それは、第二次世界大戦時に日本が、アメリカやイギリスの「本気度」や「実力」を見誤って・というより、正確に見抜いていた人々の意見を徹底的に排除して、希望的観測にしがみついて無理な戦争に突っ走った時と、非常によく似た精神構造だと思うんですよ。
ロシアは、とことん傷ついてでも、2022年2月24日にプーチン大統領が行った演説の内容を実現させようとしてる。外国が介入して急いで停戦をさせない限り、ロシアはとことん突き進む。ウクライナにせよアメリカや日本にせよ、色々条件をつけてロシアが出ていくのが先だ。武器と弾薬とお金を与えて正義の戦争・聖戦を続けるべきだ!と言うのが、膨大な破壊と損害と、西側の国際社会での大没落と、そして、ウクライナ市民の膨大で半ば無意味な「死」を産み出し続ける結果にしかならない。と読み切ったからこそ、和田先生たちは早々に即時停戦させるしかないと舵を切った。
モラルパニックから「集団的バカ」に陥った、日本と西側各国の世論・とりわけ、知的な人々の「集団的バカ」。
しかし、当時のマスコミも「世論」も、何より多くの声の大きな学者や「戦場ジャーナリスト」や左右の運動家や政治家の多くは、残念なことに、目先のパニックに目がくらみ・希望的観測に必死になってすがりついて、その事を「ロシアの手先!」としか思えないような、集団的なバカに陥ってたし、今も「集団的バカ」に、私たち…日本だけじゃない、アメリカもドイツもこいつもだ…の、特に知的な人達や地位の高い人達は、陥ったままだ。「集団的バカ」故に、希望的観測にすがった結果、今どうなってるか。ということについて眼をふさぎ・半ば開き直ってる。
今回、非常に感情的な文章になってしまったと思いますが、しかし、この本の核心部分は「見切れた」感じがします。
そして、絶望を感じざるを得ないような・この国など西側の「知性」の没落と幼稚化をまざまざと見せつけられたかのような絶望感をおぼえる、第5章へと、続いていくのです。
本シリーズは、こちらから。
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