見出し画像

意外な出会い:プリマスでBerly Cook(ベリル・クック)の絵と出会った話を聞いてください!

2023年10月にイギリスの南西部プリマスを訪れました。そこでイギリスの新しい画家に出会いました。彼女の名前はベリル・クック(Berly Cook)。身近な場所や人たちをユーモアとちょっと毒っけも加えて描いている、独特な世界観の絵にとっても興味を持ちました。さらに、もともと画家になるために学んだりしたわけではなく、独学でしかも晩年に成功したという経歴に、気になるポイントたくさんです。

彼女の名前は知らなかったのですが、絵はどこかで見たことあるような…10日で一枚の絵を仕上げるというスピードでたくさんの作品を残したそうなので、知らないうちにどこかで目にしていたのかも。(この10日で1枚のいうのは友人からの情報なので確認は取れていませんが)ネットで検索しても日本語ではほとんど情報が出てこないので、まだ日本では知られていないのかもしれません。

ベリルは2008年に亡くなっているため、出会いと言っても実際に会ったわけでは無いのですが、今回ちょっと面白い縁でつながることになりました!今日は彼女の紹介とともに、私がイギリスで彼女の作品と繋がった不思議な縁をご紹介したいと思います。

ベリル・クックの生涯については、オフィシャルホームページより、息子のジョージさんが書かれている記事を参考にしています。

Berly Cook(ベリル・クック)とはこんな画家です

Greeting Cardの裏に印刷されている彼女の肖像画

Berly Cook(ベリル・クック)1926年〜2008年。イギリスの画家。
パブで楽しむ人々、買い物をする女の子たちやヘンナイト(女性だけの集まり)で遊ぶ様子、ドラッグクイーンのショー、海辺や海外でピクニックを楽しむ家族など、身近な人たちをコミカルに描いた画家です。風刺な視点もありますが、悪く描いているのではなくそこにはユーモアがあってそこが大きな魅力です。正式な美術教育を受けておらず、絵を描き始めたのは30代になってから。作品から感じる派手な雰囲気とは違い本人はとても内気な人で、有名になってからもそれは変わらなかったようです。

ベリル・クックの生い立ちと家族

ベリル・クック(本名:ベリル・フランシス・ランズリー)は1926年、イギリスのサリー州イーガムで生まれました。若い頃に両親が離婚したため、ベリルと兄弟は母親と暮らしていました。
一家はそれからロンドンへ移リました。14歳で学校をやめたベリルは、一時期モデルやショーガールとして働いていました。
10歳の時に隣に引っ越してきたのが、将来夫になるジョンでした。ジョンはそのご海商海軍の士官として働き、ベリルと交際を始めます。
20代になったころ母がハンプトンに物件を購入し、その一角でティールームを開き始めました。

結婚生活と子育て

1948年にジョンと結婚しました。息子のジョン(父と同じ名前?!)が生まれたのは1950年。ジョンは海軍士官として働き、家族はサフォークの村にある古いパブを経営しました。しかし利益を生まないパブの経営に苦労したそうです。

アフリカへ

ベリルの妹メアリーが夫と共にアフリカに住んでいて、こちらに来ないかと誘われます。
1956年、ベリルと家族はアフリカのソールズベリーSalisbury(現ハラレ Harare)に移住します。ここは現在独立した後のジンバブエですが、当時はイギリス領だったのですね。この場所、1890年にイギリス人探検家が城砦を建て、当時のイギリス首相のソールズベリー侯爵にちなんでつけられた名前をつけたのだそうです。

アフリカでは、ジョンは自動車セールスの仕事をし、ベリルは簿記係で生計を立てていました。そんなころベリルが絵を描き始める瞬間が訪れます。息子のジョンさんによると、自分のやる気をおこさせるために、彼の絵の具道具で小さなインドの絵を模写し始めたそうです。壁によりかかった女性の絵はとても良く、それは自分は絵が上手く描けると思っていたジョンにとってショックを受けた出来事だったのだとか。その絵は今もジョンのところに大切に保管されているそうです。

イギリスへ戻る

1964年休暇でベリルと息子のジョンはイギリスに行きました。もうアフリカに戻りたくない!ベリルは夫を説得し、家族はイギリスに生活の拠点を戻すことになりました。
次に住んだ場所は、イギリスのコーンウォール州のイーストルー。波止場近くのコテージで暮らし父は引き続き自動車業界で働きました。
ベリルはここで壁に飾るために絵を描き始めました。ついに絵描きとしてスタートです。描く場所はどこでも。ビーチに流れ着いた古い板、まな板や古い箱などにも。友人に言われ販売もしたそうです。

プリマスへ

1968年にプリマスに移り住み、ゲストハウスを購入します。夏はゲストハウスの運営、冬は絵画の制作に専念し始めます。ゲストハウスの客の一人がベリルの絵を気に入ります。その人物が知り合いのプリマス・アートセンターを運営していたバーナード・サミュエルズとにベリルの絵を見に行くように進めます。そしてついにアートのプロに認められプロの画家としてのスタートです!!

初めての展覧会

1975年、プリマス・アートセンターでの最初の展示会が開催されました。多くの絵が売れました。そしてイギリスの新聞Sunday Timesの別冊でベリルの特集記事も書かれました。その記事を見てその後数多くの展示会や作品集が発表されました。この時49歳。画家としては遅咲きのスタートです。

評価と遺産

ベリルの作品は、人々が日常生活を楽しむ姿をユーモラスに描いたものが多く、観る人々にさまざまな感想をもたらしました。ポータルギャラリーでの展覧会は亡くなるまで18回開催され、亡くなる2年前の2006年、「ベリル・クック、80歳」(Berly Cook at 80)も開催。これが最後の展覧会になりました。テレビのインタビュー、キャラクターのアニメ化などさまざまな媒体にも取り上げられます。
1996年にはOBE(大英帝国勲章)も受賞。その時も正式な式典には出席をせず、プリマスでの静かな勲章授与を選んだそうです。

ベリルの作品には、好む人と強い嫌悪感を持つ人がいると息子のジョンさんは言っています。「芸術ではない。まるで漫画のようだ」とか「誰でもあんな風に描ける」といった否定的なコメントも多いそうです。イギリスでは数館の美術館がベリルの作品を所蔵していますが、まだわずかな数であるし、ロンドンの主要な美術館にはないことも、こういった評価と比例しているのでしょうか・・・

でも晩年のベリルにとって、評価より世界中のファンから届くたくさんのファンレターの方がよっぽど幸せだったよう。

うわぁーと感動させるより、クスッと笑わせる方が難しいなと思うことがあります。ベリルの絵にはそんなユーモアがあります。そして絵からは人や地元への愛情や捉える力の凄さを感じます。
描かれている人や場所は彼女の日常という限定的なものかもしれませんが、日常の普遍的なテーマも感じられて、私はそこがベリルの絵の魅力だとも感じています。

作品紹介

ここからは、ベリル・クックが画家として活躍していたイギリス南西部プリマスの文化施設「The Box」に展示されていた、4枚の絵をご紹介していきます!

ちなみに、The Boxは、2020年に英国でオープンする中でも最大規模の施設だったという、プリマス市立博物館&美術館、プリマス中央図書館、聖ルカ教会の3つを結合させた総合文化施設です。地元のアーティストの作品も積極的に紹介しているようです。

『Bowlers off the Hoe』ホウの側でボウリングをする人々 1976年

プリマスのホー(The Hoe)は、プリマスのシンボル的な場所。港が見える美しい公園に、赤と白の灯台が立っています。その灯台が見える場所にあるボーリング場で楽しむ4人の婦人たち。このボーリング場は今でもあります。イギリスのボーリングは「ローン・ボウルズ」と言って日本のボーリングとはちょっと違っているようです。

『Wedding Photograph』ウェディングフォト1973-75年

家族が集まった和やかな肖像画。にこやかで幸せそうな家族の様子だけど、ベリルの絵ということで、何か皮肉な見方も含まれているのでは?と思わず探してしまいます…笑

『The Shelter』シェルター1973-75

男女2人がバス停のような場所に座っていて、フィッシュアンドチップスかな?を食べています。この場所は今もあるところなのでしょうか。
壁には文字が書かれていますがこれが結構際どい内容!そんな中で機嫌そうな表情で黙々と食べる2人の表情がシュール。

美術館ではこの作品の表現について下記のようなコメントも表示していました。

この絵には軽蔑的な言葉があります。私たちはここThe Boxで反人権差別を提唱し、平等、包摂理、多様性を擁護しています

これからは、ますますアートとはいっても作品を展示する側、そして私のように発信する側にも紹介する意図をはっきりさせる必要があるのだなと感じました。

Micro Waiting for Dinner』夕食を待つミロ

ご飯はまだ?と待つ猫の目つきが可愛い。ベリルの飼い猫だったのでしょうか。

私とベリル・クック作品との出会い

最初にも書きましたが、今回イギリスの旅で、ちょっと面白い縁でベリルの作品とつながることになりました!私の友人の個人的な情報も含むので、ここからは有料記事とさせていただきます。

ここから先は

1,044字 / 2画像

¥ 100

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?