雨よ恋 9

卒業生達も、「今年の写真甲子園どうなってます?」とよく気にかけてくれる。残念ながら今年ばかりはコロナで、訪ねてきてもらうわけにはいかないので慰問の申し出をお断りするのだが、私の現状報告を聞いて、それぞれ(特に関係の深かった現3年生に)LINEなどで後輩達に声をかけてくれた。

そのお陰もあってか中間テスト後の6月後半、離脱宣言した3年が戻ってくる形で活動は再開された。3年が一人減った11人だったが、これは仕方のないことだと思う。

その後の写真甲子園の作品テーマを決定する二つの重要な取材があった。
ひとつは山陰周辺を土日連続で2年だけで行った撮影。またも保護者の方のワゴン車が1台出していただけた。小雨のち晴れ。ものすごい雨は降らない。

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土日の二日間で撮影枚数は増えたが、風もそこそこ。時折、青空だったりする。小道具を使ったり、わざと天候を演出しようとしても、撮影者もモデルも人のテンションが上がっていないのが分かる。人に声を掛けて撮影させていただくのも得意な美術部だが、一緒にはしゃいでくれる他人なんてそうそういない。

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もうひとつの重要な撮影は早朝だった。これも2年生の申し出。
土日の山陰撮影で失敗した2年生達は考えた。
→「どしゃ降りの強風でなければ意味がない」
→「天気予報に自分達が合わせなくてはいけない」
→「先輩達はあまり撮影に行く時間はない」→「2年が行かなければ!」
→「急に対応するためには近場でなくてはならない」
→「強風が伝わり易い背丈の長い草があるところでなくてはならない」
→「いろんな方向から集合したのでは撮影時間が減る」

『先を読む』。この頃から2年生達は天気予報をやたら気にする様になる。撮影に際して、前日どんなレンズやカメラを用意すべきか考えるようになった。少ない経験値なりの分析。条件を元に自ら考えて分析し計画を立てるように徐々になって行くのが成長の証しだ。これだからこの部活は楽しい。

次の日、6月30日の朝は、天気予報で豪雨とのこと。「先生、4時半に出発しましょう!近隣で風の強いところないですか?」「えー!? 平日の早朝に? 俺、何時に出ればいいの?」

もはや「『生徒がやると言えばやらなくてはいけないモットー』になってないか?」と思いつつも、確かに現状膠着しているセレクトを進めるためには、必要なことに感じてもいた。上の条件を元に、光市の海沿いの土手を私が提案。最も学校から近く、安全に撮影できる強風の草土手と言えばそこしかない。撮影後は制服に着替えて登校する前提で逆算3時半起床。他にも手を挙げるものがいたが、最短の時間で各自宅からピックアップして現地へ到着し、撮影時間を確保するため人選をする。撮影技術もここでは人選の要素だ。暗い中、撮り逃しの少ない人を選ばなくてはいけない。夜な夜な妹や弟を駆り出しては雨撮影していた2年のYなどは外せない。結局、本気で地道にやっていた者が、こう言う時に選ばれ、さらにスキルを向上させることになる。

周南市から順に光市まで2人を車で拾いながら現地集合で海沿いの土手に到着は5時。よく親御さんも了解してくれるものだと思うが、光市在住の一人などは、父親が車で乗せて来てくれた。我が子に寄り添ってくれる保護者が多いのは、部員達が親御さんに部活の満足感を伝えている証しだし、決して顧問がやらせていないことの証しでもあると自負している。

それでもアメダスレーダーとのにらめっこ。夜が明けて雨雲が近づくのは6:00。それまで着替えやカメラの準備をする。

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楽しかった。テンションが上がった。「これだよこれ!」ひゃあひゃあ言いながら、次々と土手斜面ですっ転びデロデロに。「お母さんお洗濯ごめんなさい」の世界である。7:40撮影終了。車内にて全力で身体とカメラを拭き、制服に着替えて登校する。

…………

この二つの撮影が停滞していた写真甲子園作品を動かすことになる。


課外で放課後最初から来れない組が2年も3年もいるが、できる限りの人数で話し合いをしていた。「していた」と言うのは、出来るだけ私は参加していなかったから…。最後に3年部長のHが「今、こうなってます」との報告だけ。現段階で写真をセレクトして組むと言うよりも、方向性をどうするか?の会議がさらに続いた。

結論:やはり雨写真ではないか?


時間的に見て、新しいモノや未成熟なモノを追うよりは、そもそも全員がアンケートで推していたテーマが良いのではないか?何より2年生の早朝豪雨写真が昨年9月の写真に並ぶくらい面白かった。3年生はそれを見て少し嫉妬するくらいだった。

ようやく7月の最初にして的を一つに絞る。勿論ここで3年生Aも反対はしなかったようだ。そもそもが上手くまとめられない苛立ちであったのだから。

となると「もう少し雨写真が足りない」。「ン万枚撮っても無い物は無い。私達の心を圧し上げる1枚が足りないのだ」そうだ。下手クソの証しのような言葉だけれど、『もっと風。もっと雨』を求めて、撮影をしようと言うことに。

幸いと梅雨。最近、スマホはほとんどの生徒が持っているので、天気予報を検索し、放課後でも早朝でも撮影に行く心の準備をすることに。降水確率が高い休日を選ぶ。どこで?風の強い高台。風で草がなびくところ。風向計や風見鶏のあるところはないか?しかもコロナ感染の確率の低いところ。

1週間ほどそんな撮影が続いた。

発言力、構成力のなかった2年生。それを見て自分達で何とかしなくてはと苛立ち迷いの道へ落ち込んだ3年生。またそれを見て何とか自分達なりに最大限何かしようと行動した2年生。それに心が動いた3年生。
大変だったが、少し光明が見えて来た気がした。

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本日の破損:ビニール傘2本
     :カメラ1台不具合
     :服を汚した者 3名(顧問含む)

実質的な〆切までは、あと2週間。

                                 つづく

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