雨よ恋 1
2019年9月某日。降水確率100%。台風の進路は山口県を向いていた。それでも台風の中心が到達するには、まだ十数時間の猶予があった。ギリギリ暴風雨圏内には入らない。
そこへ行かなくてはいけない理由があった。
翌年3月に開催されるルネッサながと(長門市)でのアートイベントへの参加への下見。参加の是非も含め、どんな作品を制作準備して行くか、生徒達と確認しておかなくてはならなかった。これまで数々の校外展を開催してきた美術部としても最大級の展示。台風の進路状況との競争になるのは間違いなかったけれど、毎年1万人を超える入場者のイベント参加。こんなにやりがいのある展覧会など二度とできないかも知れない。
それでも、意外と高校生は忙しい。これ以上スケジュールを後にすると定期考査が入ってくる。他のコンテストや展覧会の準備で身動きが取れなくなるので、行くとすればこの土日しかなかった。下見の意志があり、親御さんの同意を得た者(当時2年)だけを連れて行くことにした。『生徒が「やる」「行く」と言わなければ、絶対にしないのがこの部のモットー。』
長門市まで1時間40分の行程の中、意外と然程な嵐でもなく、道々小雨程度だった。ルネッサさんとの打ち合わせも30分ほどで終わり。生徒達も来春の校外展への意欲も固めて「さようなら」となるはずだった。
そんな折、「せんせー折角ここまで来たんだし、元乃隅稲荷とか青海島とか撮影して帰りましょーよ」
バカなのか?台風が近づいているのにワザワザ波にさらわれに行く輩が海難救助隊にご迷惑をかけるのだ。しかし…『生徒が「やる」「行く」と言わなければ、絶対にしないのがこの部のモットー。』は逆に言えば『生徒が「やる」「行く」と言えば、なるべくするのがこの部のモットー。』でもある。
危険だからね… なだめすかして「海は危な過ぎるから、まぁ近くの千畳敷くらいならどう?」
部員A「どんなとこすか?」
私「風は強いだろうけど、これくらいの小雨なら、風力発電もあるし、高台で景色が良くて、だだっ広い草原があるところだよ。モノが飛んできたりする危険もまず無いと…」
部員全員「行く!」
「どこかで見たような…とか、他の人や学校がやらない作品を目指すべき」日頃から、そんな事を言っていた自分にチョッピリ後悔はしつつも、やれやれ『生徒が「やる」「行く」と言えば、なるべくするのが部のモットー。』
台風でテンションが上がっていたのは事実。
数十分で到着。意外と雨は穏やかだけれど、やはり高台で風は強い。上空の雲は速い。
広がる草原は波打ち、風力発電も全機忙しそうに回っている。トンビが苦しそうに、秒速5m以上で横っ飛びにスライドして行く。部員達は面白がって、お互いを撮ったり、風に飛ばされて遊んでいる。スマホで調べると幸い雷雲は無いようだけれど…霧も出てきた。雲の細切れ?は、眼下に見える日本海から、超高速で千畳敷を駆け登り、あっと言う間にぶっ飛んで元乃隅神社の方面へ消えて行く。ビニール傘が裏返るのが楽しくて仕方ないみたいだ。
途中で私のメガネも奪われて撮影の小道具となっていた。
そうこうしているうちに、雨が酷くなってきた。時折、塊のように雨が強くなる。
「おーいぃ 帰るぞー」叫べど誰も戻ってこない…
強風雨の中、一度濡れてしまった4人は、もうどうでもよくなってテンションMAX。さぞや楽しかったのだろう、その後は雨と霧の彼方で笑い声がする…
小1時間。全員ヘラヘラしながら帰ってきた時には、びしょ濡れでとても車に直には乗せられない状態。へへん、こんな事もあろうと浴室マットやらビニールシートやら、いつも積んでいるのが、美術部顧問なのである(笑)
そして9月にして暖房エアコンで帰る。
これが後々、次年度の写真甲子園の出品作品の骨になろうとは、本人達予想もしていなかっただろう…。
本日の成果:ルネッサながとでの校外展開催決意
:強風雨の中での撮影
今日の被害:ビニール傘再起不能・・・・1
:レンズキャップ紛失・・・・1
:レンズフード紛失・・・・・1
つづく
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