雨よ恋 7
6月のセレクトは続いていた。
早く出したい結論。複数人で意見をまとめる難しさ。
それは1クラス全員でジャンケンをやって、あいこが続くようなもどかしさ。
3年生はまとめるのが上手い。モチベーションも高い。じゃぁそれにサッサとすれば良いのだろうけれど、どんなに稚拙でも後輩の意見も蔑ろにしないのは、先輩達の偉いところだ。これは過去の先輩達もずっとそうして来た。これはこれ、伝統でいいのかも知れない。
後の最終形にあるような写真が、何度も何度も出てくる。
2年生は「1枚目は●●を表していて、2枚目は✖️✖️を表していてぇ…」時系列に沿った説明ばかり…幾度か「観る人は、あなたの都合の良いように考えてはくれないよ」と何度も注意する。けれども2年生最初の組み写真なんていつもこんなものだ。他校の2年生が、哲学的なテーマの組写真などコンテストで出しているのが不思議に見える。16歳やそこらでそこまで成長している方が不自然だ。
3年生は流石に一日の長があるのか、いつもそこそこのカタチにはまとめてくる。部分的には「お!」という時もあった。このまま行けば良いのに…と思うこともあったが、テーマを聞くと「少女の心情の表裏」「気まぐれな心」などと、平凡な高校生が向かいそうな話になってくる。本人達自身もあまり心に響いてない様子。
もう少し深くならないのか…誰もがいつも疑問符を頭に付け、うなってしまったところでいつも時間オーバーの解散。3年受験生は18時以降まで引っ張るのはツライ。実際、もう何度も何度も観ていて、何が何だかわからなくなっているようだ。
そんな折、前述の3年生Aがイラついて吐き捨てるように言った。「もう雨写真よくね?収拾がつかんし、何が何やら混乱するくらいならアッサリ切り替えて他のテーマで撮り直した方が…」
正直焦った。横浜の高校生写真サミットで賞を獲ったAは、以来、写真甲子園班では最も彼女の意見力が強くなっていた。顧問の私も、彼女の構成力は認めていたが、ここでスッパリ切るのは、いくらなんでも…
『生徒が言うならやるのがモットー』の部活動でも、彼女は自分を見失っているのを感じた。
「A!止めて、そんな大きな声で…あなたはそれでなくても皆んなへの影響力が強いんだから、もっと考えて発言しないと…」明らかにAが不機嫌になったのが判った。それでもここで釘を刺しておかないと…他の人のモチベーションまで折ってしまいかねない。
そこで数日、写真甲子園写真データは一切見ないことを顧問から提案。試験週間が近づいていたし、少し頭を冷やす意味もあった。
…が、これが引き金となったのかも知れない。
二日後、3年生メンバーの5人中4人が、それぞれの意見を聞いて欲しいと放課後直ぐに訪ねて来た。「写真甲子園メンバーを降りたいです。」「コロナの関係もあって勉強の遅れが不安です。」「今年は新しい方式になって受験が心配です。」勿論、Aも入っていた。他の子は泣きながら話していたが、彼女だけ分かりやすいぐらい仏頂面だった。
…マズイ。
本当に最悪の目が出てしまった。意見力のあるAの影響かも知れない。しかし、例年ならば5月半ばで作品制作は終わり。この時が6月の半ば。通常よりも写真甲子園応募締め切りが延びたということは、それだけ受験生にはキツイ状況だというのも事実だ。本当に不安はよくわかる。
諸々考えた上で私の答えは「了解。賛同します!」
先輩一同「え?」
「君らの気持ちは当然です。大丈夫あとは2年生達がいる。今、出来ることをヤツらも最大限やるでしょう。来週から中間テストもある。そっちを頑張ってください!」
まったく引き止めも嫌味もなく、すべてを受け止めた。後で、ある者は廊下で号泣していたらしい。
とはいえ顧問は内心、落ち込んでもいた。様々なコンテストで、校外展準備で、横浜で、コロナの緊急事態の中で…そしてこの写真甲子園作品の準備で、一緒に伴走して来た自分からすると切な過ぎた。けれども、裏切りとも感じない、そこまで追い込まれたのならしょうがない。何せモチベーションが命の美術部だから。『生徒がやらないと言ったらやらないのがモットー』だから。
先輩達が帰ったあと…準備室で2年の後輩達5人が待っていた。すべて聞こえていたのだ。とても不安そうな表情で私を見つめる。
「…だぁい丈夫っっ! 心配すんなっ! 部長のH(3年)だけは、あの中に居なかったから多分残るし、君らだけでもやれるよ!ここまで学んできたし、チャンスじゃないかっ!3年いなけりゃ、君らがメンバーになる確率が上がるんだし…」
2年「……」
眉をひそめて無言なのは止めて欲しい。
「中間テスト明けには、それでもしれっとして戻ってくるヤツもいるかも知んないよ!」どう聞いてもカラ元気にしか聞こえない言葉が虚しかった。
鬱々としながら中間テストとなる。部活中止。
友人や卒業生にリモートでグチをこぼす日々を繰り返す。
つづく
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