意識高い系殺人事件
意識高い系ビジネス用語だけで推理小説を書きました。
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【あらすじ】
深夜のビジネス街にて、男性が頭部にクリティカルなダメージを受けバイタリティをロスするというマターが発生した。
集められたステークホルダー達はコンプライアンス的にクリティカルなこのイシューをフィックスするため、ASAPで犯人捜しのMTGを行うのだが…
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「それではオンタイムですので、本マターに関するディスカッションを始めたいと思います」
「ちょっと待ってください。このディスカッションにおけるアジェンダはフーダニットということでいいんですよね。皆さんのコンセンサスは取れていますか?」
「そうですね。トッププライオリティはやはりそこになるでしょう。ハウダニットやホワイダニットは犯人のスキームがクリアーになってからでいいかと」
「私もアグリーです」
「いずれにせよ、ASAPでのディシジョンメイキングが求められているというのが私からのオピニオンです。このまま放っておくと、いずれカタストロフィックなインパクトを我々のマーケットにも与えかねないですからね」
「我々が業界のリーディングカンパニーである以上、このブルーオーシャン市場をみすみす失うわけにはいくまい」
「では、ジャストアイデアかつクリシェなメソッドではありますが、パーソナルなアリバイについて一度シェアできますか?」
「私がイニシアチブを握っても?」
「いや、そこはチェアマンを固定するよりもアジャイルな対応が求められるでしょう。なにせこれは重大インシデントですからね」
「待ってください、それよりも先にディシジブでコンクリートなエビデンスを探す方がベターなのでは?」
「いえ、このディスカッションにおける最初のアジェンダは全員のアリバイ確認と先ほどアグリーメントが取れたはずです」
「しかしですね、このディスカッション自体がタイトなスケジューリングであることを考えれば、犯人にとってクリティカルなエビデンスのサーベイにフォーカスした方が時間的なコストリダクションにつながると考えます」
「確かにそれもアトラクティブなオルタナティブです。ステークホルダー全員が集まれる絶好のオポチュニティは今日を除き皆無ですが、リスクマネジメントのポイント・オブ・ビューからはリスケジューリングも視野に入れたアジャイルな対応をですね」
「フィージビリティを考えれば、エビデンスに関するディスカッションは明らかにスコープ外でしょう」
「では、折衷案として各自の持つ情報のシェアとフィードバックを本日のマイルストーンに設定するというのはいかがでしょうか」
「フィードバックよりは犯人のペルソナについて検討した方がまだコンストラクティブな議論ができるのでは?」
「それでしたらアリバイ確認とパラレルでアチーブできるような気もします。それに犯人のペルソナ設定をフィックスしてしまうと、フラットなオピニオンを集めるためのブレーンストーミングを行った場合にフレキシビリティを失うような気もします」
「犯人のペルソナ設定はポリティカルコレクトネス的にも問題があるでしょうね。時間的コストもボトルネックにもなりますし、これ以上のリソースは割けないかと」
「まあまあ、犯人探しというセンシティブなマターを考えれば、多少のコンフロンテーションも付き物です。議論は一旦ペンディングして、各自の置かれているポジショニングについて今一度整理しましょう」
「確かに、リスクヘッジに加えてバジェットも視野に入れたストラテジーということであれば、私もそのメソッドをプッシュしましょう」
「それでは本MTGをこれにて終了とし、サマリー作成は新人のタスクということで一任しよう。コンフィデンシャルマターにつき、くれぐれも内密にな」
「あの、ちょっといいですか?」
「何だね、新人君」
「さっきから雰囲気だけで、全然犯人捜しの議論が進んでませんよね?」
「い、いや、決してそんなことは…」
「なんか、とりあえずかっこいい言葉で必死にごまかそうとしているだけな気がするんですが」
「君!新人だからって言って良いことと悪いことが…」
「もしかして、皆さん全員で協力して被害者を殺したんじゃないんですか?」