世界一周1か国目:タイ美術/前編(2022年6月15日~7月14日)
タイの仏教壁画
添付の壁画はワット・プラケオのもの、またワット・シュタットという寺院の壁画を動画で撮影したものが以下です。
このレベルの壁画が当たり前のように、他にも各寺院の大仏殿に描かれています。恐るべしタイ。内容は大体釈迦の人生についてか、ラーマーヤナをタイ版に編集したラーマキエンの物語です。
ヒンドゥー教は神と人が混在している世界なので神が建物の中、人は建物の外または塀の外にやや辛そうな表情で描かれていて、釈迦の生涯を描いている壁画では人も同一建物内にいて高みを目指して凛と修行に励むような様子が描かれている両者の違いが印象的です。
タイに美術はあるか
世界的に最も読まれていると言われる美術史の本、ゴンブリッチの『美術の物語』。上述のような美術が存在していながら、なぜゴンブリッチは美術の物語にタイ美術を書かなかったのでしょうか。なぜ今まで目にしたことがある美術はヨーロッパや中国のものばかりなのでしょうか。タイで仏教壁画に圧倒されていると、疑問が湧いてきます。
このような傑作が至る所にあるタイ。そのタイの美術に生涯一度も触れることがなければ、タイには美術や文化がないと、文化度が低い国だと勘違いしたまま生涯を終えることにならないでしょうか。
もちろんタイに限ったことではありません。美しいと思えるものがその国に在るかないか、その存在を知っているかいないかはかなり大きいと言えます。
美術ではない美術
仏教美術が古くから華開いていながらタイ美術が周知されていない一因として、芸術としては見なされていないということが考えられます。ここの美術はまだいわゆる「美術」ではありません。特定の場所で祀られて崇拝される偶像としての役割を持っている絵画と彫刻。
その場から切り離されてミュージアムで展示され芸術として鑑賞される対象であれば、タイの美術も周知されていたかもしれません。タイに偉大な美術があるかどうか、美術文化があるかどうか、筆者自身実際に来てみて自分の目で見るまで知りませんでした。
ただ知らないだけで、世界的にも最も美しい美術の1つがタイにもあるのです。
世界一周で見たい美術
世界一周で見て回りたいのは上記のようなタイプの美術です。現地の人たちが大切にしている考え方が表現されているもの、歴史の積み重ね方に触れることができるもの。そういう美術を見れば見るほど、知れば知るほどその国のことが好きになるんです。
タイ入国後最初に見た仏教美術を絵日記に描きました。この世界一周でしたいことは2つ。美術を伝えることと、美術で伝えること。
タイと日本の国づくり
タイでは、どれだけ田舎のエリアでも、家すらないエリアでも、お寺だけは手を抜かず立派なものをつくっています。仏像も至る所に大きさのものがあります。
街歩きをした際の印象としては、町そのものにはあまりお金をかけていないようです。建物も古く、バスやトゥクトゥクなども年季が入っています。でも寺院にはお金をかけています。
一方日本では経済発展を最優先にお金を使っています。インフラも整い住みやすく、移動も時短が可能です。しかし文化や教育的側面は年々予算が削減されています。経済的な先進国としての外面は保てます。しかし長い目で見たら、中身が空洞化しないでしょうか。
仏教に対する信仰心の篤いタイでは、寺院づくりが国づくりの根幹を担っているようなものです。上記の仏教壁画等を見てもわかるように、当時の時代を代表する職人やアーティストたちが担当していたはずです。多額なお金もかかります。ただそこでの多大な出費により、仏教の物語を誰が見てもわかりやすく美しく描いたことが、今のタイの信心深さにも繋がっていることは間違いありません。文化的な出費は、将来の国づくりに直結しています。
タイの寺院は博物館の役割を兼ねている
上記のような規模の大きな寺院でタイ文化に触れることができるのはもちろんのこと、片田舎にある寺院もしばしば文化継承を担っています。
バンコクから100kmほど西にあるWat Khanon Nang Yai Museumがその1つです。ワットは寺、カノーンは寺の名前、ナンヤイはタイ伝統芸能の影絵芝居を指します。
廃れつつあるナンヤイを保存展示しパフォーマンスもする博物館としての機能を持つ寺院です。アジア的なミュージアムの一例としてタイのこういう寺院が挙げられていた文献を読んだことがあったので、行ってみたかったのです。
田舎で周囲は野犬だらけだったので、その辺にいた人のバイクに乗せてもらったり、帰りはコロナあるあるの減便により足が無くなったので駅員さんに隣町まで車で送ってもらったりと、タイの人たちの温かみに触れました。
タイ美術/後編
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