Jericho

私の愛するもの達をご覧に入れます。

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未成年①

あらすじ 僕には兄がいるらしい―― 主人公「僕」はある日、ひょんなことから会社の上司の飼っている鳥を預かることになる。 その期間の一週間で「僕」の心は会ったことのない兄を求めて揺れ動く。 そして最後には……? 「僕」と周囲のさまざまな人達がお届けする、ありふれていて、しかし他にはどこにもない七日間の物語。 プロローグ  僕には兄がいるらしい。一度も会ったことがなく、写真の中でさえ見たことがない。兄にまつわるものは何一つ触れる機会すらなかったし、もしもこれが天の配剤だとい

    • 1992(平成4)年生まれの “昭和ソング”カラオケ十八番10選

      私はカラオケが好きである(だがこの頃しばらく行っていない)。 悲しいかな一緒に行く友人がいないので大抵はソロカラオケだ。 新しい歌はあまり知らないので、基本的には古め(昭和)の曲をチョイスする。 以下、私の好きなカラオケソング10選のランキング形式での紹介である。 順位に応じた分量(熱量)のコメント付き。 (※文中敬称略)  

      ¥100
      • Think about Something

         パインジュースの缶を路地裏に蹴飛ばして、一瞬後に後悔した。こんな気持ち誰にもわからないだろう。それは冷静な感覚とは明確に分離されていて、いかなる記述の算法でも表しえないのだ。だから無残に散らばった紙片の本質を突きたいという信仰に従い、どこかにあるはずの合図を待ち続けた。それはさだめし有限に無限を求める途中の手続きで、秀逸な答案用紙に辿り着けることは絶対にありえない。盲点のトランセンデンタリズムに傾きながら、調和させる平行線公理を駆け上がる。やがてもう外せないと気付いた時には

        • Pluie&Larmes

           相容れないパスティッシュを形作るように静かに雨が降る。  離れ去れない人々は皆それぞれの傘でそれを避けようと努めている。  遠い街でのあさましい干戈を思い浮かべながら歩き続けるこの裏通り――  Iの上に点を加えながらの散歩は酷くゆううつで、きっと誰とも分かち合えない。  傘に当たる雨滴の音は何かを隠蔽するかのごとき喪失感を響かせている。  断崖の絶壁において最終的にとつおいつ考えることは一体何だろうと僕は思量する。  取りも直さずそれこそが僕の人生そのものなのではないか。

        • 固定された記事

        未成年①

          I am I, You are you

           君はいつも小さな天球儀を手にして、それを手の平の上で弄んでいる。それにはきっと大いなる未知の意味が隠されているのだろうが、その真実を知ることは僕には不可能だった。捨て去れない利己心や虚栄心が心の中にはびこって、イマジネイションの翼で自由自在に宇宙を飛翔することを阻害するからだ。しかも僕は基本的に独断と偏見に満ちているタイプで、それはちょっとやそっとじゃ変えようがない。そんな風にしてすべてが何かの口実となるのをよそに、君はただ一人ひたすらに不思議な天球儀と向き合っている。笑み

          I am I, You are you

          未成年⑨

          エピローグ    夜が明けてにぶい光がにじみ出し、時計とカレンダーの上だけではなく実質的な今日が始まった。安息な忘却と決裂するインヴァーターを振動させる悪夢は特に見なかったのに、今日はなんだか気分が悪い。道路の上の欠けた黄色い定規が天文学的にゆがんではがれかけている、そんな気がする。……そういえばまた母親から葉書が来ていた。これのおかげですっかり逆浸透の気分が台無しなのかもしれない。音感を失った軽率なラジカリズムはどうしても自分を苦しめる。  葉書の内容は、父方の叔父――つま

          未成年⑨

          未成年⑧

          七日目(Saturday)    目を開けていられないほどの風が吹き荒れ、鳥籠が倒れた。そのはずみで扉が開いてしまった。隙ありとばかりに鳥は逃げていく。僕は慌てて手を伸ばすが、鳥はもう遠い空を飛んでいた。僕の鳥は行ってしまった。僕を残して――そこで目が覚めた。夢を見ていた。昨夜、見る夢が悪夢であることを僕は予感していたが、今のは確かに悪夢と言えなくもない。僕はベッドのわきにある鳥籠を眺める。荻河から預かった無口な鳥だ。しかしなぜか夢の中では僕の鳥だった。それがどこかへ行ってし

          未成年⑧

          未成年⑦

          六日目(Friday)    日付が今日に変わってすぐの頃に僕は家に帰ってきた。例の香りのことが異様に気になったが、そんなことよりも前に僕は疲れていた。だって一日に三度も職場に行ったのだから。よく考えればばかな話だが、そんなことは考えずとにかく寝よう、寝て起きれば素晴らしい休日が待っている――そう思いながら寝て、たった今目が覚めた。まだ右手首に嵌まったままの腕時計の時刻は十時十六分。せっかくの休日ということで、いつもよりよく眠って過ごそうと思い、“起こさないでくれ”と率直に書

          未成年⑦

          未成年⑥

          五日目(Thursday)    別れはいつだって優しくない。それは必ず悲傷と苦悩と結託してこちらに向かってくる。僕の冷灰に水を注ぐような思いの愛も、別れの前では無残に割れた鋭錐石も同然だった。姿を見せないルーラーが僕を動かしているという現実に耐えられない栄辱を与えられ、僕は何も考えられなくなる。ある意味ではそれは臨終とでも表現すべき状態だ。思考の臨終。そこまで行ってしまうと、もうどうすることも出来ないのだ。  なぜこんなに僕が死にかけたような思考に陥っているかというと、……

          未成年⑥

          未成年⑤

          四日目(Wednesday)   新しい日に変わって十数分、僕と青山は互いに何も言わず、どちらからともなく腰を上げた。特に何もなく割り勘で会計を済ます。ただどうしたことか、青山の財布がなんだか見覚えがあるような気がした。まさかとは思うが、小学校の高学年の頃と同じ物をまだ使っているのか?確かにシンプルでかつ機能性もよさそうだが……  会計の為に一度途切れた話をまた再開しつつ、店の外に出た。青山は誘惑者の顕微鏡座を眺めるみたいに大きく伸びをしている。 「はあーあ!なんか結構あっ

          未成年⑤

          未成年④

          三日目(Tuesday)   まだ陽は昇っていない。一度目が覚めてしまってからまだ数時間しか経っていない。今日は仕事がないことになっている。しかしここでまたまぶたを閉じてしまえば昼過ぎまで寝てしまうに決まっているので、起きない訳にはいかない。渚を起こさないように気を付け、僕はそっとベッドを出る。当然のことながら寝覚めはすこぶる悪い。夢の中でのあれこれが頭の中をちらちらする。今、兄は起きているだろうか?それとも深い眠りの中で何かを夢見て……やめるんだ。僕はそう思い、首を思い切

          未成年④

          未成年③

          二日目(Monday)   たぶん今日になってからまだ少ししか経っていない、理想を捨てた理論のように痛ましく昏々とした真夜中に僕は目を覚ました。渚の泣く声が聞こえたからだ。 「どうした」  僕はなるべく優しい口調で言おうと心がけながら訊く。しかし渚はすすり泣いているだけで必死のようだ。インテンシヴな不安と混迷が涙となって次々あふれ出ている。こんな風に急に取り乱したりするのは、僕の家に初めて泊まった日以来のことだった。 「俺がここにいる。大丈夫だから」  そう言いながら渚の背

          未成年③

          未成年②

          一日目(Sunday)  古い秩序が壊れ始める午前五時。僕は目覚め、ベッドからの眺めがいつもと違う、と思った。鳥籠がすぐそばに置いてある。どうも不思議な眺めだ。レアリスムとサンボリスムが共存しているような単純な形状、その中をカーテンのすきまから漏れるにぶい光が通っている。首だけを上げてその様子をじっと見ていると、近寄りがたい思案点がずれるのを感じた。 「……おはよう」  すぐ横で眠っている渚を起こさないように気を付け、小さい声で鳥に呼びかけてみる。鳥は僕の声に反応しこちらを

          未成年②

          My soaps collection

          突然だが、実は私は石鹸を収集している。 2024年5月現在、230種類300個ほどを所有している。 どれも「探して」買った訳ではない。 すべて「見つけて」買ったもの達だ。 しかし、正直なところこの頃悩んでいる。 単純に「どうしよう?」と思っているのだ。 これ以上増やすのか。 考える――本音としてはまだ欲しい。 しかしさらに増やしてどうなるというのか。 置き場所的にも難しいという問題もある。 だが内心の「もっと欲しい」という気持ちがかなり強い…… 本当に悩ましいところだ。 答

          My soaps collection

          1991年の可能世界

           一九九一年、もしも彼がまばたきをしていたらこの世界は大きく違っていた、と僕は思う。    今この部屋には箱が十六個、椅子が五脚ある。床一面は適度な具合につるつるとしていて、三枚ある窓はどれも漸進主義的な等差数列のようにくすんでいる。僕はそれらが多少でも改善されることを真底望んでいるが、それは無理というものだ。一人ごとの悲しみをたたえたエンハーモニックが時折通り抜けるこの部屋は、今少しずつ死にかけている。  ベランダに出ると冷たい外気が肌に心地よい。人生そのものの去就に惑って

          1991年の可能世界