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最新作について、古典に今を重ねる。

日本の古典文学を主題に絵を描き始めて10年以上になります。きっかけは突然でそれまで絵画に限らず読む小説しても西欧(もちろん翻訳ですが)べったりの私でした。

万葉集の歌を伝統文様と女性像の構成で象徴的に描くスタイルは一定の結果を得させてくれましたが、そこには表現されていない自分の側面もあるのです。

この様式にたどり着いていても、若い頃から親しみ今も時折YouTubeで聴いている、身近にありながら「芸術」ではないと脇へよけていた、万葉集でも他の和歌でもない、自分の心に住み着いた歌達があります。

万葉集シリーズ「白妙」油彩 F4号

白栲の 袖別るべき 日を近み 心に咽ひ ねのみし泣かゆ
巻4-645 紀女郎

白の純粋を帯びた恋も、袖が分かれるように別れの予感におそわれ、
心の中でむせび泣き、涙を必死に押さえています。

今までは歌の心情からストレートに文様を探しその構成に入って行きました。しかしこの絵では似たような心情を歌った現代の歌、要するにポピュラーソングですが、まずそれを選び出しそこで歌われている情景を文様で現す手順を取りました。

この絵では、その歌が、雪・海・船の文様を選んだのです。私の青春時代に流行った名曲です。ここでは万葉歌と現代の大衆歌謡が重なっています。

万葉集には様々な階層の人々の歌が収められています(これを詠ったのは庶民ではありませんが)。いつの間にか万葉集の持っている多様性から大衆性を排除していたようです。それを、このところ続いた相聞・恋愛歌の絵を経て取り戻し、この作品から自覚的に制作動機としたのです。この作品は、私にとっての「懐メロ」絵画とも言えます。

私は通俗・ありきたりを軽蔑しますが、すかしたようなお高くとまった芸術観を嫌う気持ちもあります。ですから、ある時は茶室の床の間に掛けられ、またある時は食堂のビールポスターにもなるような絵があったらと思っています。

追伸 Youtubeではこれに音楽を付けて公開しています。紀女郎の歌に隠れたもうひとつの歌が聞こえてくるかも知れません。


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